論文セミナー
1998.06.02 鈴木 静男
Aizen MA Patterson III WA (1995) Leaf phenology and herbivory along a
temperature gradient: a spatial test of the phenological window hypothsis.
Journal of Vegetation Science 6: 543-550.

はじめに
・季節性のある温帯域では植物の開葉時期は温度の上昇に密接な関係がある.
・たいていの植食性昆虫は植物の開葉期間に制約を受ける.なぜかというと若い葉は
,植食性昆虫にとってエサ条件の良い葉だから.
・Phenological Window Hypothesisとは,植食性昆虫の摂食活動のピークの期間をさ
けて植物が開葉することにより食害を減らすということとこの論文では言っている.
・植物の開葉フェノロジーと昆虫の休眠解除が異なる環境要因の合図によって,また
は同じ環境要因の異なる閾値によって引き金になる可能性があるので,著者は昆虫の
採食活動性が高い時期とエサ条件の良い時期がずれると予測している.
・この論文の目的はPhenological Window Hypothesisをテストすることである.

材料と方法
・調査地は深さ10m,直径400mのおわん型のくぼ地(Fig. 1).
・冷たい空気が下方に流れるために,窪地の底に行くに従って,夜の気温は低くなり
,霜の発生率は高くなる.
・ホスト植物:Quercus ilicifolia Wang 落葉低木
・植食者:Heterothrips quercicola (総し目orアザミウマ目:Heterothripidae)た
だ1種.開芽したばかりの柔らかい葉のみを食べる.開芽してから1週間以上経った
葉はもう食べない.
・観察は88, 89年の2年間行われた(簡単な観察を 92年にもしている).
・北側に面している斜面に沿って,上から底にかけてトランセクトをとり,25m間隔
でサンプリングポイントをとった.
・サンプリングした葉は,長さ,面積,食害面積を測定.

結果
・底からの生育高度と生育シーズンの最低気温との関係 Y = 1.43 + 0.45X (r2=0.9
80, n = 5, p < 0.005)
底の方に行くと開葉が遅れる(Fig. 2).
・ある1時期でみたとき,上に行くに従って葉面積(この研究では葉齢とみなそうと
している(Table 1),つまり植食者が食べることのできるエサの量の多さを表すので
はなく,植食者にとってのエサ条件の悪さと関係がある指標として使っている)が大
きくなる(Fig. 3).
・同じ年の同じ時期にサイト間で比較したとき上の方(開葉時期の早い方)に行くに
従って食害が減少する(Fig. 1, 3; Table 2).
・植食者の出現時期は88, 89年の2年とも6月の最初(つまり植食者の出現時期に年
変動はほとんどないだろう:このことは植食者の休眠解除が日長により決まっている
のではないかと予想されるが,論文中ではふれてない,また植食者のアザミウマにつ
いての情報も記載されていないのが残念).
・89年は88年よりも開葉時期が早い.92年の観察データ(論文中には図表の形で示さ
れていない)では3年間で開葉が一番遅い.
・89年は88年よりも食害が減少(Fig. 4).92年の観察データ(論文中には図表の形で
示されていない)では3年間で食害が一番大きい.

議論
・昆虫のエサ資源としての葉の質は開葉してからの時間の経過とともに悪くなる(引
用)ので,時間的・空間的なフェノロジーの変異は餌の利用に強く影響を与え,エサ
資源に制限されている昆虫個体群の遷移にも影響を与える(引用).
・植物の立場からは,開葉フェノロジーのわずかな違いは食害の時間的空間的パター
ンを決定し,成長,生存,繁殖をも決定するかもしれない.
・この研究の葉のフェノロジーと昆虫による食害との間の強い結びつきは,フェノロ
ジカルウィンドウ仮説に合致する.葉の食害は,窪地のてっぺんから底にかけて有意
に増加した.これは,底の方に行くに従って,開芽が,植食者の採食活動の開始と一
致したからである.
・89年にアザミウマが現れる頃には,開葉から時間が経っており若い葉の割合が少な
く食害の程度も低くなっていた.
早く開葉しすぎても若い葉が霜の害でやられてしまう可能性が高くなる(88年葉6月8
日から16日の間に霜でやられてしまったけれども).
・最適な開葉時期は霜と食害という2つの選択圧の間のバランスによる結果であろう.

セミナーでの意見

Q: この調査地のそれぞれでのプロットでのホスト直物の被度は調べてあるのか.植
食者の数は調べてあるのか.もしかしたら,窪地の下の方に行くに従ってホスト植物
の個体数自体が少なくなり,したがってエサとしての葉量が少なくなっているかもし
れない.また昆虫の数自体が変化していないとしたら,エサ量に対する昆虫の数が多
くなっている可能性がある.それが食害面積率の増加になっているのではないのか.
A: 論文中にはホスト植物の被度,植食者の個体数変化については記述されていない
.しかし,年間比較でも開葉が遅い年には食害が増加していることから,この論文で
言っている開葉時期と食害との関係については妥当と思う.

Q: この論文で言っているPhenological Window Hypothesisとは植物が植食者の食害
をを免れるためのものであると定義しているが,実はこの研究のデザインでは開葉時
期が温度環境によって変化すると言うだけで,植物が食害を避けようとしているわけ
ではないのではないか.
A: 植物が,開葉のcueを植食者の休眠解除のcueと異なるものにしたのでなければ,
この研究は上で述べるようにPhenological Window Hypothesisをテストしたことには
ならないと思う.

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