地球環境科学研究科 植物生態学セミナー 2006.06.20 (火) 10:30

サロベツ湿原・泥炭採掘跡地における代表種の種間関係と埋土種子組成について

江川知花

(1) 泥炭採掘跡地の代表種の種間関係

湿地における植物の分布は、環境ストレス(abiotic stress:洪水による撹乱や塩類過多など)と生物的ストレス(biotic stress:主に種間競争)のふたつの要素によって決定されている。一般に、環境ストレスが少ない場所では種間競争が激しいとされており、こうした場所では種間競争によって植物の分布が決定されていると考えられている。

北海道北部のサロベツ湿原では、1970年から泥炭採掘が行われてきた。現在、同湿原の採掘跡地では、泥炭採掘からの時間経過に伴って異なる植物群集が発達しており、1970年採掘跡地、1972年採掘跡地では、ヨシ(Phragmites communis)・ヌマガヤ(Moliniopsis japonica)・ミカヅキグサ(Rhynchospora alba)の3種が主として優占している。この3種の群落成立過程には、地下水位や水位変動の大きさといった物理的な環境要因が影響してきたことが示されている。

採掘からある程度の年月が経ち、植生が回復してきた場所においては、泥炭採掘直後のような厳しい環境ストレスは緩和されてきていると考えられ、今後は種間競争が植生遷移を規定する要因として重要性を増してくると予想される。泥炭採掘などの大規模な撹乱を受けた場所では、植物の侵入および分布拡大は種子から始まることが多い。そこで本研究では採掘跡地の優占種であるヨシ・ヌマガヤ・ミカヅキグサの3種で、発芽から定着までの各段階における競争力の比較を行い、群落の成立プロセスや今後の植生遷移の方向性を検討する。

(2) 埋土種子が現存植生に与える影響

湿地において、洪水などのインパクトが大きい場合、埋土種子は現存植生にほとんど寄与しないという報告がある。その一方、洪水によって多数の種子が供給され、それが植生遷移に重要な役割を果たしているケースもあり、撹乱後の埋土種子の寄与のしかたについてはまだまだ議論の余地がある。

泥炭採掘という大規模撹乱を受けたサロベツ湿原では、埋土種子組成がどのようになっているのかを把握し、埋土種子の上部植生への寄与率を定量化するため、土壌の蒔きだし実験を行う。(1) の結果と合わせて、植物の分布は実生段階から環境ストレスによって規定されているのか、種間競争によってきていされているのかを検討する。


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