地球環境科学研究科 植物生態学セミナー 2007-02-21 () 10:30

サロベツ湿原・泥炭採掘跡地における代表種の発芽・定着特性の比較

江川知花

撹乱を受けた湿原においては、植生遷移は必ずしも撹乱前の自然植生に向かって進行するとは限らない。もともと成育していた種に替わる新たな種が侵入・定着することによって、遷移が予想外の方向に進行することもよくある(Kloetzil & Grootjans 2001)。撹乱後の湿原植生構成種の変化を論理的に理解し、今後の展開を予測するためには、出現種のcolonizationに関わる特性(種子散布・発芽率・様々な環境下での成長率、競争力など)を明らかにすることが重要である(van der Valk 1981)。

1970年から2003年まで泥炭採掘という大規模な撹乱が行われ、現在植生回復中であるサロベツ湿原においても、採掘後の植生遷移は採掘前のミズゴケ群集に向かっていない場所が多く、植生回復段階と採掘経過年数も必ずしも一致するとは限らない。そこで、本研究では、こうした採掘後の遷移についての理解を深めるために、これまであまり調べられていない出現種の特性について、特にcolonizationにとって重要な種子からの発芽・定着に着目して調査を行った。

調査対象種は、現在泥炭採掘跡地の代表種となっているミカヅキグサ・ヨシ・ヌマガヤの3種である。植生の発達状況が異なる4サイト(裸地サイト、ミカヅキグササイト、ヌマガヤサイト、3種混合サイト)に3種の種子を単独・2種混合・3種混合で播種し、発芽した実生の生存個体数を6〜9月まで記録した。また、各サイトの泥炭層のシードバンク組成の調査を行った。植生が発達し、リターが厚く堆積しているヌマガヤサイトおよび3種混合サイトでは、泥炭層に加え、リター層の種子分布状況も調査した。

播種実験の結果、発芽および当年生実生の生存に関しては、播種したサイトの特性が重要であり、多種との混合処理の影響はほとんどないことがわかった。また、発芽・生存に適したサイトは種によって異なっており、このことは各種が出現する遷移段階と関係していると考えられた。またシードバンク調査の結果、各サイトのシードバンク組成は地上部の優占種を大きく反映した組成になっており、植物の定着に関しては埋土種子よりも移入種子の重要性の方が高いと推察された。 以上のことから、採掘後の植生回復には、発芽・生存に適したサイトに適当な種の種子が散布されることが重要だと考えられた。しかし、リターの堆積したサイトでは、リターが種子をトラップすることでrecruitを阻害するようになり、新しい個体の定着が難しくなっている可能性が示唆された。


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