TRENDY SEMINAR (第95回)

日時 12月22日(水) 17:00 -
場所 北大地球環境A棟309

見えない群集構造を情報空間で見る
-土壌微生物群集の複雑性と安定性-

国立農業試験場芽室 横山和成



 極ありふれた畑の土をDNAの特異染色剤であるDAPIで染色し,体内に DNAを保持する細菌細胞を顕微鏡下でカウントすると,土壌1グラム当たり 10の10〜11乗個にのぼる細菌の存在を認めることが出来る。しかも,そ の中には分子遺伝学的距離から見て少なく見積もっても1000以上の種が存 在し,その殆どが分類学的名前を持たない未知種であるとされている。つまり, 土壌の中には膨大な数の多種多様な微生物が存在するが,何がどれだけ存在す るかが不可知,言い換えれば現在の科学的手法では扱い切れない「見えない」 存在である。この見えない群集を多様性(構成者間に働く相互作用の複雑さ) として表現する試み,しかも,構成者個々に還元するのではなく,構成者を炭 素源利用能という表現型情報空間に埋め込んだときの空間的広がり(分類群非 依存型多様性)として「見る」試みについて紹介する。

 材料としては,農業上の重要問題である連作障害土壌(長年同一の作物を連 続して栽培することにより病害の発生する土壌),連作障害抑止型土壌(連作 しても障害が発生しない土壌),自然林土壌を用い,これらの土壌細菌群集の 多様性を評価した上で,土壌に冷却,物質投入等の物理・化学的撹乱を加え, 撹乱の前後に観られる細菌群集の構造的変化から,群集としての構造的安定性 を評価する。  

 方法としては,それぞれの土壌から細菌を一定数無作為に分離し,Biolog簡 易同定プレートを用いて分離した細菌の炭素源利用パターンを検出,その2値 情報をクラスター分析した時のクラスター距離として群集の多様性を,同情報 をMDS法を用いて表現型空間に埋め込んだ時の空間的分布パターンとして群 集構造を表した。

 結果としては,連作障害土壌では明らかに多様性が低く,得られた細菌は情 報空間中で明らかな集中分布を示したのに対して,抑止型土壌では,このよう な集中が全く見られず,高い多様性が保たれていることが明らかになった。ま た,畑とは比較に成らない程の多様な植生を有する森林土壌では,集中は見ら れるものの,より多くの炭素源利用パターンを持った細菌が観察され,両畑土 壌よりも細菌群集の多様性が高くかった。一方,撹乱対する群集構造の安定性 では,畑土壌では,撹乱前後で構造的変化しなかったのに対して,森林土壌で は空間構造並びに分布域に大きな変化が見られた。

 これらのから,土壌細菌群集の安定性には静的な安定性と動的な安定性があ り,森林土壌の細菌群集が撹乱後にみせた多様性の程度(表現空間中での分布 の広がり)には変化が無いが,構造(分布域の空間中での位置)の大きな変化 は動的な安定性,つまり変化し続ける安定性を示していると考えられた。一方, 畑土壌では,長年の単純な植生と単純な物質投入が微生物群集を単純化させ, 動的安定性を失っていると言える。この単純さは,静かで動かない安定性と言 うことが出来るが,病原菌などの侵入や爆発的増殖には明らかに脆弱である。 抑止型土壌は,点の分布に集中が無く,撹乱に対して全く変化しないことから, 構成者間で長期に渡り継続された競争関係の果てに行き着いた緊張状態の様な 相互作用網ができあがっていると推察された。



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問い合わせ先
北海道大学大学院地球環境科学研究科地域生態系学講座
鈴木牧・加藤悦史・下野嘉子・谷友和
Email: makizoh@ees.hokudai.ac.jp
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