TRENDY SEMINAR (第119回)

日時 8月23日(金)16:30
場所 北大地球環境A棟804

葉の光合成光順化と解剖学的性質の関係

小口理一 (東北大学)

時空間的に変動する光環境に対し、植物は様々な性質を変化させ(順化)、それぞ れの環境において効率よく光合成を行う工夫をしている。光順化の一例として、明る い環境で展開した葉ほど光合成能力・窒素含量・葉の厚さが大きいことが知られてい る。陽葉で葉が厚い理由については葉面積あたりの葉緑体量を増やす必要があるため と考えられている。葉緑体は、二酸化炭素の拡散抵抗を減らすために、細胞表面付近 に位置する必要がある。もし細胞表面から離れれば、二酸化炭素の供給不足がおき、 光合成の効率は著しく低下する。この状況で葉が光合成能力を高めようとするには、 葉緑体を増やすために葉を厚くし細胞表面積を増やす必要がある。

 しかし、光合成能力の増加に葉の厚さの増加を伴わない事例もある。多くの種では 、葉の厚さは展葉前の光環境に依存し、展開終了後は大きく変化することはない。し かし、展開終了後の葉の光環境を弱光環境から強光環境へと変化させると、光合成能 力が上昇することがある。また、種によって成熟葉の光順化の可塑性の程度が異なる ことが知られている。本研究では、完全展開葉の光合成光順化のメカニズムと、その 種間差が生じる理由を、葉の解剖学的視点から明らかにすることを目的とした。

 第一章では、葉の厚さの増加を伴わずに光合成能力が上昇するメカニズムを明らか にすることを目的とした。一年生草本シロザを用いて、弱光環境で展開した葉の強光 環境への移植実験を行った。移植によって光合成速度は11μmol m-2 s-1から17μmol m-2 s-1へと上昇した。しかし、展開以前から強光条件で生育した葉の27μmol m-2s-1 にせまるものではなかった。ルビスコあたりの光合成能力、葉緑体中のルビスコ濃度 、葉緑体の厚さ、葉緑体が細胞間隙に接する面積、葉面積あたりの葉緑体数に分けて この順化を評価したところ、葉緑体が細胞間隙に接する面積のみが有意な変化を示し た。つまり細胞が細胞間隙に接する部分を葉緑体が完全に占有してはいなかったため (78%)、強光へ移したあとにその隙間を埋めるように葉緑体が大きくなることで光 合成能力の上昇が起きた。しかし、順化によって葉緑体が伸びた後の葉緑体の占有率 は約95 %に達し、それ以上葉緑体を増やす余地はほとんどなかった。これは、成熟 葉の光順化の可塑性を残すためには、葉を厚くして葉面積あたりの細胞壁を増やし、 細胞表面に余分な隙間を作る必 要があることを意味する。しかし、葉面積あたりの細胞壁を増やすためにはバイオマ スの投資が必要である。つまり、葉を余分に厚くするためのコストを犠牲にして葉緑 体が存在しない隙間を作り、順化の可塑性を残していたと考えられる。

 第二章では、第一章で明らかになった葉内の解剖学的隙間をコストとしてとらえ、 成熟葉の光順化能力の種間差を説明することを試みた。光順化の可塑性の低い木本は 、コストを抑えるために細胞表面に葉緑体が存在しない隙間を作らないようにしてい る。光順化の可塑性の高い木本では、葉緑体の占有率を下げて可塑性を保っている。 以上の仮説を検証するため、遷移系列上で出現時期の異なる3種の木本を用いて、移 植実験を行った。遷移後期種であるブナは、弱光生育の葉の葉緑体占有率が他の種に 比べて高い値を示し、光順化を示さなかった。これは、順化の可塑性が低い種では、 コストが低い薄い葉を作っているために葉緑体の占有率が高くなっており、光順化が 制限されている可能性を示唆する。先駆種であるダケカンバは移植後に葉緑体の占有 率の上昇が見られ、最大光合成速度も上昇した。これは、木本においても葉緑体の占 有率を下げて可塑性を保っている種が存在することを示した。一方、中間種であるウ リハダカエデは葉の厚さの増加に伴い、葉面積あたりの葉緑体量が増加した。これは 葉に解剖学的隙間を持たす以外にも、成熟葉の葉の厚さの可塑性を保つことで、順化 の可塑性を保つ方法があることを示した。


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