TRENDY SEMINAR (第120回)
日時 9 月 27 日 (金) 16:30
場所 北大地球環境 A 棟 804

森の木々の多種共存メカニズム:
繁殖の時間変動と「鬼の居ぬ間」

竹中明夫 (国立環境研究所)

森の木々はみな光と水と栄養塩を必要としている. 木々が限られた資源をめぐって競争しているならば, もっとも競争力にすぐれた種が他種を排除してしまいそうなものなのに, 実際には多くの樹種がが共存している. この不思議は多くの研究者の関心を引いてきた. ニッチ分割による説明(尾根好きと谷好きの共存など)や, 種子散布力と競争力のトレードオフによる説明 (ギャップ依存種とそうでない種の共存)もある. しかし, 似たような性質の樹種が数多く共存している状況は, それだけでは説明しきれない.

Hubbelは, どの樹種も競争力は同じだと考えて, 純粋に確率的なプロセスで現実の多様性のパターンは説明できるという理論を提唱した. しかし,多くの木々がほんとうに同じ競争力を持つと考えるのは無理がある. Chessonらは,空間をめぐって競争している固着性生物の群集では, 繁殖の時間変動が大きければ, 繁殖子の生産数に種間差があっても多種の共存が可能になることを理論的に示した. 優占種がたまたま繁殖子を作らないときに希少種が繁殖子を作れば, そのときに成体が死亡して形成されたギャップは希少種の子供が埋めることができる, いわば「鬼の居ぬ間」を利用した挽回が可能になるからである(以下, この挽回メカニズムを「鬼の居ぬ間メカニズム」と呼ぶ).

森林の構成種では,たしかに繁殖に時間変動がある例は多い. 鬼の居ぬ間メカニズムによって 競争力に差がある樹種の共存している可能性はじゅうぶん考えられる. しかし,種子の大部分は親木の近くに散布されるし, 希少種は森林のすべてのギャップを埋められるほど多くの種子は作れない. それでもこのメカニズムは有効に働くだろうか?また, Chessonは成熟個体が死亡した空隙での み新しい個体の定着が起こると仮定したが, 林冠ギャップの形成後にこれを埋めるのは, もともと林床に存在していた稚樹であることが多い. 林床の稚樹の存在は, 多種の共存プロセスと無関係だと考えてよいのだろうか?

私は, 森林の個体ベースモデルを使って鬼の居ぬ間メカニズムの有効性を調べた. おもな結果は以下の3点である.

  1. 種子散布が空間的に限られていても, 鬼の居ぬ間メカニズムによる共存は可能である. むしろ, ギャップに種子を供給できる潜在的親個体の数が減ることによって 「鬼の居ぬ間」が発生しやすくなり, 共存は促進される.
  2. 稚樹のあいだに資源をめぐる競争があり, 現存稚樹の死亡によってあらた な稚樹の定着が可能になる場合には, 稚樹レベルで「鬼の居ぬ間」依存の新個 体の供給が行われ, 少数者の挽回のメカニズムははたらく. いっぽう, 実生の死亡率が高い・定着確率が低いなどのために稚樹の供給が 種子数リミットになっている場合には, 稚樹個体群の構成は親個体の構成をそのまま反映したものとなってしまい, 鬼の居ぬ間メカニズムは働かない.
  3. 繁殖の時間変動が種内で同調しているほど共存は促進されるが, 必ずしも完全に同調している必要はない. とくに種の散布範囲が限られる場合には, 種内の同調がかなり不完全であっても局所的な「鬼の居ぬ間」が確率的に生じやすい.

問い合わせ先
北海道大学大学院地球環境科学研究科地域生態系学講座
セミナー掛: 赤坂宗光・塩寺さとみ
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