TRENDY SEMINAR (第122回)
日時 11 月 27 日 (水) 16:30
場所 北大地球環境 C棟1階 104号室
(通常と会場が違っていますのでご注意下さい)

熱帯高木フタバガキの花粉散布の年次変化と、
散布された花粉の選択過程

田中健太 (北大苫小牧研究林)

種多様性が高く、同種個体の密度が低い低地熱帯雨林で、樹木はどのように交配しているかは熱帯生態学の大きな疑問だった。また、東南アジア低地熱帯雨林では、特有な一斉開花現象が樹木の送粉効率に大きな影響を与えている可能性がある。そこで本研究では、

  1. 低密度下における樹木の繁殖成功の維持機構
  2. 一斉開花の規模が繁殖成功に与える影響

を明らかにすることを目的として、規模の異なる一斉開花期のいずれにも開花する Dipterocarpus tempehes(フタバガキ科)の花粉散布パターン、散布された花粉・受精した子に対する遺伝的な選択過程、成木集団の空間的遺伝構造を、野外調査・授粉実験・DNAマイクロサテライト解析によって調べた。また、送粉効率の質的な側面を評価するため、従来考慮されていなかった、散布される花粉の血縁度を実測した。

調査の結果、次の3点が明らかになった。

  1. 83.4 の花が自家受粉するにもかかわらず、新たなタイプの自家不和合性と位置づけられる、柱頭における花粉管ガイダンス阻害、胚珠に到達する花粉管数の閾値効果、近交弱勢、母樹による選択中絶などの複合要因が働き、成熟種子のステージまでに自家受粉個体の割合は15.4 まで下がった。種子散布後にも近交弱勢が働き、2年生実生のステージまでにこの割合はさらに4.6 にまで下がった。二親性近交弱勢はこれらのステージでは弱い傾向しか検出されなかったが、生活史全体の適応度には無視できない影響を与えていると考えられる。
  2. 成木は空間的に離れた4つの分集団からなり、分集団間の血縁度は分集団内に比べて低かった。分集団内でも、空間的距離と遺伝的な血縁度には負の相関があった。
  3. 大規模一斉開花期には小規模一斉開花期よりも花粉散布距離が長いという傾向が見られ、特に、分集団間の花粉流動が多かった。そして、大規模一斉開花に由来する実生コホートでは、小規模一斉開花に由来する実生コホートよりも、コホート内の平均血縁度が低く、遺伝的多様性が高かった。これは、分集団間の花粉流動が増えることで血縁度の低い花粉が散布されたためと考えられる。このような花粉散布パターンの違いは、大規模・小規模一斉開花期の主な送粉者であるオオミツバチ・蛾の採餌特性によってある程度説明できる。特にオオミツバチは、採餌範囲が広い反面、大規模な一斉開花期にしか利用できない送粉者である。

以上より、次の結論を得た。

  1. 低密度下でも、強い近交弱勢があるために他殖や近親交配の回避が必要であり、昆虫送粉者によって他家受粉と長距離花粉散布による近親交配の回避が行われると同時に、自家不和合性によっても他殖が促されている。
  2. 大規模な一斉開花は、オオミツバチによる血縁度の低い花粉の散布を可能にし、D. tempehesに有利に働くと考えられる。

問い合わせ先
北海道大学大学院地球環境科学研究科地域生態系学講座
セミナー掛: 赤坂宗光・塩寺さとみ
URL: http://hosho.ees.hokudai.ac.jp/~trendy/2002/
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