Trendy セミナー   2005-06-17 (金) 16:30   北大・大学院地球環境・A804 号室

社会性昆虫の表現型多型と遺伝子発現

CORNETTE Richard (北大・大学院地球環境・生態遺伝講座・三浦研究室)

社会性昆虫では複雑な社会構造を示すコロニーの中に分業と多型性に至るカースト分化が見られる。 特にシロアリではそのカースト分化経路は顕著で、 例えば兵隊カーストはワーカーカースト (働き蟻) から前兵隊というステージを経て形態を変え、 分化する。 各カーストは同じゲノム情報を持っているにもかかわらず、 発生の過程で分化し、 最終的には異なる形態を示す。 この現象は、 表現型可塑性の1つである表現型多型である。 そのシロアリのカースト分化は、 他個体のプライマーフェロモンの影響を受け、 体内の幼若ホルモン濃度の調節により生じる現象だと考えられる。 シロアリの兵隊カースト分化において、 幼若ホルモン濃度の上昇により特異的な遺伝子発現が誘導され、 形態の変化を引き起こす。

本研究では、 屋久島産のオオシロアリを用いて、 兵隊分化を幼若ホルモン類似体 (JHA) で誘導し、 その際の遺伝子発現をディフェレンシャルディスプレイ法 (DD 法) で解析した。 JHA 処理後早期に検出された特異的発現は総ての転写物のわずか 1% 以下に相当するものであった。 幼若ホルモン応答特異的な候補遺伝子の中で CYP6AM1 というチトクロム P450 の cDNA 全長配列を決定した。 P450 とは酸化酵素であり、 代謝で多様な役割を果たしている。 CYP6AM1 の発現はJHA 処理後3日間の前に抑制され、 前兵隊にも検出されていない。 CYP6AM1 は偽職蟻と兵隊の脂肪体で発現している。 繁殖カーストでは CYP6AM1 の発現が抑制の状態である。 CYP6AM1 の抑制に伴って、 脂肪体の発達が見られる。 その脂肪体の発達は脱皮と兵隊分化に深く関わっていると考えられる。 したがって、 CYP6AM1 も生理的に安定なカーストである擬職蟻と兵蟻では、 特別なエネルギー経路に切り替えるのではないかと思われる。

今後の仕事では、 個体間相互作用レベルから遺伝子発現レベルまでシロアリの カースト分化の制御メカニズムの理解を目指す。


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北海道大学大学院環境科学院 植物生態学