Trendy セミナー   2005-09-26 () 16:30   北大・大学院地球環境・A804 号室

北海道サロベツ湿原におけるゼンテイカの霜害に関する微気象学的研究

山田雅仁 (北海道大学低温科学研究所)

北海道・サロベツ湿原において、晴天静夜に発生する接地気層内の低温現象が、湿原生態系に与える影響を調べるために、ゼンテイカ(Hemerocallis esculenta)を対象として、その霜害発生状況を明らかにすること、及び地下水位の低下が低温現象に与える影響を数値実験により明らかにすることを目的として研究を行なった。 ゼンテイカの霜害は、3年間の観測期間中2001年6月15日、2002年6月5日、2003年6月5日の各年に1回観測された。これらの霜害時の温度分布の特徴は、周辺植生高に相当する地上20−30cmに最低気温が出現したことである。ゼンテイカの霜害は、花茎伸長期に発生したこと、霜害を受けた個体は、花芽の位置が地上10−40cmに集中したこと、また霜害を受けた個体の花芽の高さは、気温が-2℃以下となる継続時間が30分以上継続した領域に位置したことが明らかとなった。

次に植物群落構造を組み込んだ土壌‐接地境界層熱拡散モデルを構築し、2002年6月5日の霜害日を対象として、気温の推移を予測した。その結果、数値モデルでは、植物群落のある地上10cmに最低気温が出現したことを確認した。また地上1.5mの気温は、既存のモデルよりも高い精度(RMSEで0.9℃)で、再現することができた。

上記の気象条件を用いて、数値実験により地下水位を変動させて、地上20cmの気温(Ta20)を評価した。その結果地下水位が1cm低下するごとにTa20は約0.7℃の割合で低下した。次に泥炭は、一度乾燥履歴を持つと、体積含水率が小さくなることが現地観測からわかった。そこで体積含水率の変化によって、熱伝導率も変化するため、乾燥履歴の影響を数値実験で調べた。その結果、霜害発生日の地下水位では、乾燥履歴がある場合は、ない場合と比較して、Ta20がさらに1.2℃低下することが推定された。さらに地下水位変動によるゼンテイカの霜害範囲を計算したところ、地下水位を実測値より2cm低下させた場合、霜害の上限が15cm上昇した。つまりわずか1-2cm程度の地下水位変動によって、ゼンテイカの霜害範囲が大きく変動することがわかった。そのため気温の低下を防ぐためには、地下水位を高く保つことと、さらに乾燥履歴を作らないことが重要であることがわかった。

以上、ゼンテイカの霜害に関する現地観測及び数値実験の結果から、霜害発生時の微気象特性が明らかとなり、霜害の点からも、湿原生態系を維持するためには、地下水位の管理が重要であることが明らかとなった。


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北海道大学大学院環境科学院 植物生態学