Trendy セミナー   2005-10-28 (金) 16:30   北大・大学院地球環境・A804 号室

北海道の針広混交林における人為攪乱下の
樹木群集動態と植生変化に関する研究

野口麻穂子 (地球環境科学研究院)

 生物多様性や環境機能の保全を含めた持続可能な森林管理が求められるなかで、択伐などの非皆伐施業への関心が国際的に高まっている。また、北海道では択伐施業が針広混交林の主要な攪乱要因のひとつとなっており、その影響の解明は、森林の成立過程の理解や将来予測のためにきわめて重要である。本研究では、北海道北部の多雪地域の針広混交林を対象として、択伐施業下での森林の動態と植生変化の過程を明らかにすることを目的とした。北海道大学中川研究林の長期プロット(6.72ha)において、択伐施業に伴う林冠疎開や地表攪乱が、高木性樹種の動態・稚幼樹の密度や、ササをはじめとする林床植物の分布に及ぼす影響について調査を行なった。

1. 上層木の動態

30年間の動態データをもとに、局所的な林冠疎開の強度・周囲の樹木の量・地形要因が主要構成樹種のデモグラフィーに及ぼす影響を調べた。その結果、トドマツでは林冠疎開によって小径木の成長が向上し自然枯死率も低下するが、新規加入は起こりにくくなることが示された。一方、落葉広葉樹では、成長や自然枯死に対する林冠疎開の影響はみられなかった。耐陰性の低い落葉広葉樹では、林冠疎開によって新規加入が促進されていた。

2. 稚幼樹の分布

現在の林冠状態、林冠攪乱および地表攪乱の履歴が異なる地点間で、稚幼樹の分布の偏りを比較した。林冠疎開は、比較的短期間で林冠閉鎖が起こる強度であれば多くの樹種の稚幼樹密度を増加させるが、それ以上の強度になるとむしろ定着や生存を抑制することが明らかになった。集材や補助造林に伴う地表攪乱は、稚幼樹の定着を促進しており、先駆性の高い樹種で特に効果が大きかった。

3. 林床植生の反応

この地域の林床に優占するチシマザサとクマイザサは、急傾斜地に加えて、上層木の蓄積が減少した箇所、針葉樹の蓄積が少ない箇所で稈高が高くなっていた。林床に生育する植物種群のうち、高木性木本種では、上層木の蓄積が減少した地点でササの増加にともなって種数・被度が低くなっていた。択伐による針葉樹の減少は、ササを増加させ、稚樹の種多様度や量の低下をもたらすと考えられた。

 以上の結果から、多雪地域の針広混交林では、択伐施業のもとで、比較的耐陰性の低い落葉広葉樹が増加し、針葉樹の密度が減少することが予想された。さらに長期的には、針葉樹の減少に伴ってササが増加し、広葉樹も含む更新や種多様性の低下がもたらされる可能性が示された。この問題に対処するために、針葉樹の減少を抑える配慮や、地表処理・補助造林の併用といった対策が必要と考えられる。


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北海道大学大学院環境科学院 植物生態学