Trendy セミナー   2008-11-27 (木) 17:00   北大・大学院地球環境 A804

枝葉のようにみる樹木細根系の形と機能

菱拓雄(九州大学北海道演習林)

根は地下資源の獲得と,植物体の支持を担うための器官である.森林生態系を構成する樹木においては,水や栄養塩類などの地下資源の獲得機能をもつ小径の根を細根系とよんでいる.樹木細根系には,地下部資源獲得機能だけでなく,落葉リターと同程度の枯死有機物資源を土壌生態系に供給しており,森林生態系の物質動態に重要な生態系機能がある.この二つの機能は同じ現象を原因と結果,また,ミクロスケールとマクロスケールから考える立場の違いを表しており,本来的には密接に結びついている.なぜなら樹木が個体としての微小領域における地下資源獲得活動の一環として細根系を発生,維持,枯死を繰り返すことが結果として森林生態系で細根系の生産活動を駆動するためである.しかし地下資源の獲得と,土壌での物質動態の双方における重要性に同時に着目した研究は少ない.近年,これまでは生理的に均一と見なしてきた細根系内の個根機能の構造と配置,及びその動的特性の不均質性を理解することから,細根系構造の発達維持様式を枝葉のように理解しようという動きが見られる(Wells and Eissenstat, 2003; Hishi, 2007).

シュート系において芽を単位とするモジュラー構造の理論を土壌資源と根の形態特性とその動態の関係の解明に導入しようという試みは,細根系の採餌戦略理論に大きな恩恵をもたらすと考えられている(Pregitzer, 2002).しかしながら,根はシュートと異なり,芽や,葉と枝などのような明確な成長単位,機能単位,枯死単位が認識しがたく,直接シュートのようなモジュラーユニットとして捉えるには多くの問題がある.

今回の発表では,ヒノキの細根系を材料とし,細根系構造を構成する個根の成長,維持,枯死過程を追跡した研究を紹介し,細根系が異なる生理機能と生活環をもつ個根の集合としてみることができることを示す.また,生活環の異なる個根は枯死率と土壌での分解率の違いを通して土壌の炭素動態に異なる役割を果たしていることを示す.さらに,細根系の形態特性が,林齢や土壌層位や土壌生物などの外的環境条件に対してどのように可塑性を現すのかについて紹介する.これらの研究から,シュート系の研究をヒントに,細根系の形の研究が多くの研究テーマの可能性を持っていることを知ってもらいたい.


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北海道大学大学院環境科学院 植物生態学