Trendy セミナー   2010-04-07 (水) 16:30   北大・大学院地球環境 地球環境 A 棟 809

樹木集団の過去の歴史と温暖化への適応: 森林遺伝学的視点から

津田吉晃 (ウプサラ大学進化生物学センター進化機能ゲノミクス部門)

樹木は、大きな個体サイズ、長命性、高い繁殖能力(長期間に渡り花粉および種子を散布する)などにより特徴づけることができる生物である(Petit and Hampe 2006)。 さらに古生態学的データが多く蓄積され、また林木育種などに関連し古くから適応的変異が調べられているため、集団の歴史を推定する上で利点も多い生物であるともいえる(Lascoux et al. 2008)。 生物の遺伝構造形成は時間スケールと空間スケールに沿って考えることができるだろう。 特に樹木でいえば、第四紀あるいは第三紀以降の集団の分布変遷の歴史は、これら時間・空間スケールいずれにおいても遺伝構造形成に大きなインパクトをもっていたと考えられる。 これら樹木集団の遺伝構造形成の歴史をより詳細に知ることは、今後の温暖化に対する樹木集団の応答を予測する上でも必要不可欠である。

最近の遺伝学~古生態学的な大規模データセットを用いた研機 より精度の高い集団生長モデル用いた遺伝的研究、分布モデルに基づく植生学的研究などにより、 今日、樹木集団の過去の歴史への理解は急速に深まっている。 これらにより明らかとなった新知見の1つは、 特に耐寒性の強い樹種では最終氷期最盛期でもこれまで考えられていたよりもより北方(注;北半球では)で生残していたということである。 このことは最終氷期最盛期以降の樹木集団の分布拡大はこれまで考えられていたよりもゆっくりであったことを意味すると同時に、今後の急速な温暖化に樹木集団は対応できるのかという議論に発展している(McLachlan et al. 2005; Petit et al. 2008; Pautasso et al. 2010)。 本発表ではまずこれら最近の研究事例について総説する。 また演者はこれまでにカバノキ科ウダイカンバ(Betula maximowicziana)を対象に、その分布空間スケールを、林分スケール、地域・景観スケール、広域スケールに分けて、各スケールの遺伝構造形成について時間スケールも考慮して研究してきた。 上記総説に関連付ける形でこれら演者の先行研究も簡単に紹介する。 さらに現在スウェーデンで取り組んでいるシラカンバのユーラシア大陸スケールでの集団構造、適応進化、種分化などについても手短に紹介したい。 本発表をベースに、最近の樹木集団の歴史推定および温暖化への適応に関する議論を概観し、多くの方々と植生分布、森林生態、保全遺伝、植物生理、適応進化など様々な視点から活発な議論ができればと思う。


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世話役:藤沼潤一
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北海道大学大学院環境科学院 植物生態学