Trendy セミナー   2010-12-14 (Tue) 15:30-18:00   北大・大学院地球環境 地球環境 A 棟 809

1. フタバガキ科樹木の種多様化と遺伝的変異
1. Evolutionary history and genetic variation of species inDipterocarpaceae
2. フタバガキ科樹木のマスティングのメカニズム
Mechanism of mast reproduction in dipterocarp species

Speaker: Koichi Kamiya (Ehime Univ.) & Tomoaki Ichie (Kochi Univ.)

1. フタバガキ科樹木の種多様化と遺伝的変異

Evolutionary history and genetic variation of species in Dipterocarpaceae

上谷浩一(Koichi KAMIYA) 愛媛大学農学部

分子生物学的手法を用いて遺伝子の変異量とそのパターンを調べることによって、生物がたどってきた進化の道筋や、自然集団の持つ遺伝的な構造を推定することができる。集団遺伝学では突然変異、自然選択、集団構造、繁殖様式などによって、集団内の遺伝的変異がどのようなパターン示すかについて研究する。本発表では、これまでに私たちが行ってきたフタバガキ科樹木を対象としたDNAレベルでの遺伝的多様性研究について紹介し、以下のことについて考えてみたい。

  1. フタバガキ科は東南アジアの低地林で優占し、同一森林内には異なるハビタットに適応した同属近縁種が複数分布している。それら同属近縁種複数個体の遺伝子を比較した場合、同種の個体は遺伝的にも互いに近縁で、他種との間に明確な遺伝的な違いが見られるのだろうか?また、東南アジア熱帯で起こった近縁種の種多様化はいつ頃に起こったのだろうか?
  2. アロザイム変異を用いた遺伝的多様性に関する論文の結果をまとめたHamrick and Godt (1989)の総説には、熱帯樹木は他の双子葉植物に比べて集団内ヘテロ接合度の平均値が高いことを示されている。また、種レベルでのヘテロ接合度も同様に熱帯樹木で高いようである。さらに、数種のフタバガキ科樹木を対象としたこれまでの研究でも高いヘテロ接合度が観察されている。このような熱帯樹木の高い遺伝的多様性は、遺伝子のDNA配列多型においても同様に観察されるのだろうか?
  3. 森林内の高い種多様性が維持されるためには、近縁種間での生殖的隔離が保証され なければならない。フタバガキ科近縁種間での自然雑種形成はどの程度起こっているのか? また、自然雑種形成を回避するような機構はどのようなものなのか?

2. フタバガキ科樹木のマスティングのメカニズム

Mechanism of mast reproduction in dipterocarp species

市栄智明(Tomoaki ICHIE) 高知大学農学部

東南アジアの低地フタバガキ林では、2-10年に1度の不定期な間隔で、多くの樹木が群集 レベルで同調して開花・結実する「一斉開花」現象が起こることが知られている。特に、フ タバガキ科に代表される熱帯雨林の突出木層を形成する樹種は、その多くが開花・結実量の 年変動が著しく大きい「マスティング」と呼ばれる繁殖様式を示し、しかも一斉開花の年に のみ開花・結実する。

フタバガキ科樹木のマスティングのメカニズム、ひいては一斉開花・結実現象のメカニズムの解明に向け、その至近要因として環境要因とともに重要性が指摘されている資源要因に着目して研究を進めてきた。特に、種子生産に豊凶のある樹種は、豊作年の開花や結実に必要な資源量が多く、またその資源の蓄積に時間がかかるために種子生産に年変動が生まれるという「資源収支モデル」の定量的な検証を目指してきた。マスティングを制限する貯蔵資源としては、これまで樹体内の炭水化物の蓄積量が注目されてきたが、一般に土壌が貧栄養だと考えられている低地フタバガキ林では、樹体内の無機塩類の蓄積具合が重要な意味を持つ可能性もある。今回の発表では、フタバガキ科の巨大高木Dryobalanops aromaticaのマスティングに対する資源投資について、まず、一斉開花期間中のD. aromatica樹体内の炭水化物や無機塩類の動態を調査した結果を示し、マスティングに果たす各貯蔵物質の貢献度や、主要な資源供給器官を明らかにする。そして、一斉開花後の資源の蓄積過程を追跡調査した結果から、マスティングのメカニズムに果たす資源貯蔵の役割について考察する。最後に、操作実験によって一斉開花の誘導因子と考えられる短期的な強度乾燥条件を作り出した際の、D. aromaticaの生理生態学的な応答について、これまでに明らかになった結果を紹介し、フタバガキ科樹木のマスティングのメカニズムについて総合的な検討を行いたい。


Trendy Seminar http://hosho.ees.hokudai.ac.jp/~trendy/2010/
世話役:藤沼潤一
email:fujinuma@||@ees.hokudai.ac.jp
Phone:011-706-2281
Facsimile:011-706-4954
北海道大学大学院環境科学院 植物生態学