TRENDY SEMINAR(第84回)

日時 11月11日(水) 18:00―
場所 北大地球環境科学研究科A棟309号室

稀少植物の遺伝的多様性と分化
河原孝行(農林水産省森林総合研究所北海道支所遺伝研究室)

現在我が国の維管束植物の1399種が絶滅危惧植物としてリストアップされている( 環境庁レッドリスト、1997)。稀少化の原因は大部分は人為によるものであり、その 個体数の減少の程度は甚だしく、早急に保全に向けた対策を考えていく必要がある。 稀少植物の保全については生態的見地から多くの研究がなされているが、遺伝的見地 からの研究はたいへん少ない。今回のセミナーでは演者が得た稀少植物に関する遺伝 学的なデータをもとに話題提供し、稀少植物の保全について意見を交換したいと考え ている。
シデコブシは東海3県にのみ分布し、東濃地域、渥美半島、四日市周辺に隔離分布 する。アロザイム分析の結果、集団が断続分布する東濃地域では遺伝的多様性が高く 、小集団からなる渥美半島や四日市周辺では遺伝的多様性が低かった。また、地域間 の遺伝的分化の程度は同じ物理的距離にあるコブシ集団間の約4倍あり、地域間の遺 伝的な分化が進んでいることがわかった。また、成木での近交係数は0から有意でな く、次世代の維持には他殖が大きく寄与していることが明らかになった。シデコブシ では伏上更新が一部観察されるが、遺伝マーカーを使ったクローン分析ではジェネッ トの拡大に伏上更新はほとんど寄与していなかった。シデコブシの保全にあたっては 地域間の移植はしないこと、クローン増殖による植え込みは控えることが重要である。
ヤクタネゴヨウは屋久島と種子島にのみ分布する。屋久島では3集団1000個体あま り、種子島では単木的に100個体以下が残るだけである。アロザイムを使った比較で は集団間・島間の遺伝的な分化の程度は小さく、集団内の遺伝的多様性の程度はあま り違わない。ある世代での個体数の減少は遺伝的多様性の減少をもたらす要因として 知られるが、ヤクタネゴヨウの種子島集団が屋久島集団並の遺伝的多様性を維持して いることからこの個体数の減少は近年急激に起こったものと考えられる。また、ヤク タネゴヨウはPinus armandiiの1変種にしばしば分類される。アロザイムは他の2変 種と大きな遺伝距離を持っていたが、葉緑体DNAの塩基配列レベルでは1-3塩基の 違いしかなく、各変種間は近縁であった。
オガサワラグワは小笠原諸島の固有種であるが、明治期の入植による大量伐採、養 蚕用シマグワの導入により、個体数の激減、雑種化による遺伝汚染が進行している。 弟島の集団のみが純血集団と考えられ、父島・母島の集団は少なくともそれぞれ少な くとも73%、48%が雑種と考えられた。その結果、オガサワラグワの純血個体は、弟 島は40個体程度、父島は数個体、母島20個体程度と考えられ、雌雄異株の他殖性樹種 としては次世代の維持に非常に厳しい個体数であり、増殖法・移植の可否が検討され る必要がある。
セミナーではフジバカマ・マイヅルテンナンショウの繁殖様式と生育環境の関係な ども話題に供する予定である。

ふるってご参加ください

問い合わせ先
北海道大学大学院地球環境科学研究科地域生態系学講座
鈴木静男・鈴木牧・加藤悦史
Email:shizuo@ees.hokudai.ac.jp
Tel: 011-706-2267