TRENDY SEMINAR (第87回)

日時 1月27日(水) 18:00-
場所 北大地球環境科学研究科A棟309号室

ミズゴケ小丘(hummock)の形と気候要素の関係

矢部和夫 (札幌市立高専)

(1) 北海道の湿原特性には非常に大きな違いがあり,沖積平野をみたとき,ミズゴ ケ(優占)群落(bog,Fen)は日本海側ではよく発達しているが,太平洋側やオホー ツク海側では小面積にしかみられない(矢部 1993)。湿原の表面微地形にも違いが みられるが,これは道東でミズゴケ小丘(Hummock)が著しく大形化する(橘 1988 )等,ミズゴケ小丘の形態が地域間で異なるためである。従って,ミズゴケ小丘の形 態が気象要因によって調節されていることが推定される。  本研究は道内9カ所の湿原に分布するミズゴケ小丘の形態を比較し,その形態と気 候要素の関係を検討することを目的とする。また,ミズゴケ小丘の形態がもっとも異 なる2カ所の湿原を取り上げ,湿原表面の隆起が種組成や種多様性に与える生態的な 意義についても考察する。
(2) ミズゴケ小丘の平均高と形状指数(高さ/面積)は3地域で有意な差があった;A群 (低い):日本海側と道北,B群(隆起する):道央〜道南の太平洋側,C群(最も隆起 する): 道東。B群やC群では小丘の面積の増加に伴って,高さが増加するという傾向 が得られ,小丘の面積増加に対する高さの増加はC群の方が顕著であった。
(3) ミズゴケ小丘の形態と気候要素の相関係数を求めた結果,月平均気温の最高値 は小丘の最大高,平均高と形状指数に対し,それぞれr=-0.801,-0.835,-0.746の高 い負相関を示した。また,温量指数は形状指数に対しr=-0.709の負相関を示した。温 度要素を除くと,最寒月の降水量(1〜2月)だけが平均高に対して負相関(r=-0.737 )を示した。
 有意ではなかったが,比較的大きな相関関係がみられたのは,温量指数と平均高( -0.603),冬季降水量(11〜4月)と最大高(-0.629)及び平均高(-0.669),最寒 月降水量と最大高(-0.679),および生育最盛期の日照時間(6〜8月)と最大高(-0 .619)であった。
(4) 日照時間を除き,これらの要因は互いに強い相関関係を示した。冬期間の降水 量要素を除くと,他の要素は蒸発散量を調節する夏の温度と日照量に関する要素であ った。そこで生育最盛期である6〜8月の各月の可能蒸発散量(E0)を湿原間で比較し た。6月と7月のE0値はA群で最高(2.55〜2.90 mm/day)であり,B群で中間的(2.41 〜2.58 mm/day),C群で最低(2.15〜2.38 mm/day)であった。一方,8月のE0値はA 群の湿原で低下したため,地域間の差が少なかった。6月と7月のE0値はミズゴケ小丘 の平均高,最大高と形状指数の全てに対して,有意な負相関を示した。
(5) ミズゴケ小丘の発達に対して,夏季の蒸発散量と冬季の降水量が説明変数とな ることがわかったが,両者の間には強い相関関係があった。これは夏季に霧が発生し ,冬季降雪量が少ないという太平洋側の気候と多雪で夏季に晴れる日本海側の気候の 違いを反映したものである。道東でみられる巨大なミズゴケ小丘の形成に対して,霧 による夏季の蒸発散量の抑制と冬季の寡雪環境の両者が関係していることが推察される 。
(6) ミズゴケ小丘が最も低い浅茅野(道北)と最も高い標津(道東)におけるα- 多様性とγ-多様性はいずれも標津の方が有意に高かったが,立地間の種構成の変化 を示すβ-多様性は浅茅野の方が有意に高かった。


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問い合わせ先
北海道大学大学院地球環境科学研究科地域生態系学講座
鈴木静男・鈴木牧・加藤悦史
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