「植物は光環境にこう応答している」 これがわかれば,つぎにはそういった植 物によって構成されている集団の消長が知りたくなるかもしれない.この目的 のために,過去半世紀にわたり植物集団の挙動を数理的に再構成できるような 幾多もの動態シミュレイターが設計されてきた.そのたびにひとつの同じ問題 が繰り返し取り上げられてきたのである. 「植物集団の内部においてその光環境はどう形成され変化しているのか?」
数理モデルはひどく単純化された架空の世界を生態学者に提供しているにすぎ ない.とはいえ,それらは実測との対応を吟味されたりされなかったり,さら には現象の見通しをよくしたり,あるいは迷信の源泉にすらなった.今日なお 影響力を維持している光量の一次元垂直勾配モデルは,変動する光分布はモデ ルの中で計算できるという鮮烈な描像を持ち込むと同時に,ずいぶんと観念論 的な信仰も広めたといえそうだ.
光量子計・魚眼レンズ・画像解析ソフトウェア,これら三種の神器を駆使した 立体的な光分布の把握が重視される当節にあっても,上のような一次元世界の 教条は議論の前提として広く受け入れられている.
二〇世紀後半になって,あらゆる分野で勃興してきた「自然科学における素朴 計算主義」,その「形而上学的仮定はこれを廃する」というお作法は森林動態 モデルにも変化を及ぼした.「観測された現実」ときちんと比較できるような, 林内光環境を評価するモデリングを行え.一次元から三次元へ.計算機は最良 の「現象再構成装置」と信じる一部の生態学者たちはこの問題にどう立ち向かっ たのか?
これまでの光計算モデルや演者が共同研究者たちと進めている毎木調査スケイ ルの樹木集団データーと対応する森林動態シミュレイターなどを例としてとり あげながら,仮想植物集団内に「光子」を射撃したり消したりして光環境を形 成させる方法論 ── そのココロ (歴史的しがらみ) とワザ (ごまかしテクニッ ク) の一側面について紹介する.