埼玉県秩父地方の冷温帯の渓畔林の林冠木は樹高30mを越えるシオジ・サワグルミ・カツラ等で構成されている。この3種の林冠木について、種子生産・種子発芽・実生の定着・稚樹の成長などの樹木の生活史、光や水に対する反応、渓流の自然撹乱との関係を通して共存機構を解析した。
この渓畔林の林冠木の構成は、個体数ではシオジが62%、サワグルミが16%、カツラが10%でこの3種で88%を占めている。これらの樹木の共存の背景としては渓流域の多様な攪乱体制が考えられるとともに、資源をめぐる競争もその一因となっている。
シオジが林冠木の個体数の半数以上を優占できる大きな理由は、予測不可能な山腹崩壊のような大規模攪乱に侵入できるとともに、毎年のように生じる新たな砂礫堆積地のような小さな攪乱サイトにおいても稚樹バンクを形成できるためである。また、この樹種の実生は滞水条件でもそれほど成長阻害を受けることがないことも渓畔域で優占種となれる原因の一つと考えられた。これらの3種は種子散布によって発芽するが、耐陰性の強いシオジだけが林冠下でも実生・稚樹バンクを形成することができる。これらの稚樹バンクはギャップの形成によって林冠木に成長することができる。このことは樹齢解析の結果、シオジが同齢のパッチによって形成されたモザイク構造をとっていることからも示されている。一方、山腹崩壊や土石流などの大規模攪乱に対してもタイミングが良ければ一斉に更新できることが樹齢解析の結果明らかになっている。
サワグルミの更新には、光環境のよい大きなギャップが必要である。林冠木の分布と樹齢解析の結果から、サワグルミは大規模攪乱地に一斉に侵入する。サワグルミの発芽場所はそれほど土壌環境によって制限を受けないために、渓流沿いの砂礫地にシオジと混交した稚樹バンクを形成するが、閉鎖林冠下や、小さなギャップ下ではしだいに成長速度が低下し、枯死してしまう。大きなギャップでは、多くの種が侵入するが、初期成長の早いサワグルミが恵まれた資源を使いシオジを抑え林冠木を形成する。そのために、結果としては、サワグルミ個体はある程度の大きなサイズのパッチを形成して集中分布する。
カツラは3種の中でも個体数が少なく、ランダムな空間分布をしている。個体サイズは大きなサイズの林冠木、亜高木、稚樹とほとんど個体数がかわらずシオジやサワグルミのような大量の稚樹の存在が見られない。また主幹の周りに多くの萌芽幹を発生させ、主幹が枯死した後は萌芽幹を成長させ、主幹に置き換わることで長期間にわたり個体を維持していると考えられる。カツラの発芽場所は、細かな粒子の無機質土壌や倒木上に限られている。ただ、これらの実生も翌年にはほとんど消失しており、稚樹として生存する可能性はほとんどない。これらのことから、カツラの種子による更新は非常に頻度の少ない攪乱、つまり大規模攪乱の際に行われていることが予想される。山腹崩壊などの大規模攪乱で生じた、非常にまれなサイトに定着できた実生が、非常に低い確率で生き残って成長していくと考えられる。
以上の結果、渓畔林の林冠木であるシオジ・サワグルミ・カツラなどの樹木は、各々の生活史の段階で渓流の多様な自然撹乱によって生じた異なる環境の生息場所を利用することで共存することができ、個体群を維持していた。特に、サワグルミやカツラは予想できない大規模撹乱によって更新していることが示唆された。
参考文献
http://hosho.ees.hokudai.ac.jp/~trendy/2006/
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