温室利用報告書
Activity reports on greenhouse
雑録 [ 報告書 | 植物学会 | 生態学会 | 講演(含 他学会要旨) | 書評・コラム | 報告書 (温室)| 参考文献 ]
温室には、毎年といって良いほど、お世話になってるが、改組の度に、微妙に報告書の名前かが変わって来てる。使っている立場では、、何が変わったかと聞かれると名前だけ、と答えそう。ここには、ファイルが残ってたものを載せておこう。
- 2010: 温室における種子発芽・実生生長および実験材料調整 (北海道大学大学院理学研究院付属ゲノムダイナミクスセンター 実験生物共同利用部門 利用報告書2010. 3-4)
- 2009: 発芽実験法による埋土種子集団測定および実験材料調整 (北海道大学大学院理学研究院付属ゲノムダイナミクスセンター 実験生物共同利用部門 利用報告書2009. 3-4)
- 2008: 大規模撹乱後の湿原におけるシードバンク発達様式の解明 (北海道大学創生科学共同研究機構研究支援部技術室(実験生物施設)利用報告書, 北海道大学創生科学共同研究機構 14: 3-5)
- 2006: サロベツ湿原・泥炭採掘跡地における植生遷移と埋土種子組成の関係性の解明 (北海道大学創生科学共同研究機構研究支援部技術室(実験生物施設)利用報告書, 北海道大学創生科学共同研究機構 13: 4-5)
- 2002: 渡島駒ヶ岳における埋土種子集団から見た植物の定着機構 (北海道大学先端科学技術共同研究センター 研究支援室(実験生物分野)利用報告書, 北海道大学実験生物センター 35-36)
- 2000: 有珠山噴火20年後における旧表土中埋土種子集団の生存様式 (実験生物センター利用報告書, 北海道大学実験生物センター 6: 48-49)
- 1997: 海岸林林床草本群集の多様性維持機構 (実験生物センター利用報告書, 北海道大学実験生物センター 4: 48-49)
「論文・学術発表会等のリスト」あるいは「学術論文」は省略 (業績参照)
温室における種子発芽・実生生長および実験材料調整
地球環境科学院 統合環境科学部門 温暖化影響評価分野
露崎史朗・保要有里・平田亜弓
種子発芽および実生生存・成長の成功は、環境に大きく支配される。そのため、植物の繁殖成功と環境変化との対応関係を明らかとするためには、環境を適切に操作できる室内実験を行い、その結果と野外実験結果との比較が必要となる。そこで、温度調節や潅水が調節可能である創成科学共同研究機構実験生物施設植物ガラス室において、室内実験を行った。さらに、野外実験に用いる実験材料の調整を温室にて行った。
【目的と方法】
絶滅危惧種であるナガバノモウセンゴケ(ナガバ)および近縁種のモウセンゴケの実生の生存・成長特性を比較することで、ナガバが絶滅危惧種となる要因を明らかとすることを目的として、温室と野外において実験を行った。特に、これら2種の生育する湿原環境をシュミレーションするために、2008年秋にサロベツ湿原泥炭採掘跡地から採取した種子から発芽させた実生を用いて、水位を固定した実験系を温室内で組み、生存および成長を測定した。水位は、野外における測定結果をもとに、1, 3, 5, 9 cmに設置した。土壌基質としては、サロベツ泥炭および園芸用ピートモスの2種類を用いた。実生の生存を2カ月間追跡し、追跡の最後に生存個体を刈り取り、成長量の指標として乾燥重量を測定した。
あわせて、湿原における遷移初期侵入種の光応答様式を明らかとするために、野外において移植実験を行う材料としてミカヅキグサおよびヌマガヤ実生の調整を温室で行った。これらの調整実生は、6月中にサロベツ泥炭採掘跡地の中でも植被が低く遷移初期と見なすことのできる地域に移植した。2008年度に温室で行った有珠山および仏沼から採取した土壌での埋土種子発芽実験は、2008年度中におおむね完了したが、若干の未同定種の生育を2009年9月まで行った。なお、その結果は、昨年の報告書中で述べている。
【結果と考察】
2種のモウセンゴケの生存率は、サロベツ泥炭上、ピートモス上のいずれにいても5-9 cmという低い水位でより低くなった。さらに、同じ水位であればナガバの生存率はモウセンゴケより高い傾向を示した。移植2ヵ月後の乾燥重量は、どの水位においてもナガバの方が大きかった。この結果は、野外における移植実験の結果とおおむね一致した。ナガバの成長量は、モウセンゴケよりも大きく、さらに、水位が5- 9 cmでより大きな値を示した。したがって、ナガバの実生生存・成長は、高い水位が保たれるならばモウセンゴケよりも良好であるといえた。よって、ナガバは、十分な種子移入や適切な発芽条件が満たされれば、個体群維持は可能であることが示唆された。
温室にて生育させたミカヅキグサ・ヌマガヤ2種の実生を野外に移植し、これらに様々な光条件を与えることにより、10-20%程度の紫外線量の変化であれば、遷移初期種は、応答様式は異なるが対応可能であり、成長量に影響はないことが示された。これらの結果をもとに、引き続き、各種の発芽・実生生存・成長を温室および野外において比較する予定である。
発芽実験法による埋土種子集団測定および実験材料調整
地球環境科学院 統合環境科学部門 温暖化影響評価分野
露崎史朗・木村英雄・小山明日香・保要有里・平田亜弓・斎藤達也
攪乱後の植物群集回復には、発芽せずに土壌中に埋もれていた種子、いわゆる埋土種子が大きく寄与することがある。埋土種子集団形成状態測定法の一つに発芽実験法があり、幅広く用いられるが、適切な温度調節や潅水が必要となる。また、野外実験において植物個体サイズの調整は、移植に際し成育サイズ等のバラつきを減らすため重要である。そこで、本条件を満たせる創成科学共同研究機構実験生物施設植物ガラス室において、発芽実験法により埋土種子集団測定、および実験材料の成育を行った。
【目的と方法】
実験生物施設温室において行った主な実験は以下の3点である。
1. 仏沼(青森県三沢市)は、ヨシ優占湿原であり、30年間に渡り春先に火入れが行われている。火入れが埋土種子集団に与える影響を定量化するために、2007年秋(昨年度報告書参照)および2008年夏に、異なる火災強度の地域から100 cm3の土壌サンプルを20ずつ採取し、リターが存在する場合にはリターも採取し、それらの発芽実験を温室にて行い、埋土種子集団構造を測定した。
2. 有珠山火口原では、1977-78年噴火により主に軽石・火山灰からなる噴火降灰物(テフラ)の堆積が、数メートル規模で起こった。これまで、噴火10年後および20年後に、テフラの厚さが1 m前後の地域で、埋没した噴火前の土壌(旧表土)を採取し、これらの土壌中に埋もれた種子の生存状況を調べている。本年度は、噴火30年後の埋土種子の生存状況把握を行った。土壌は100 cm3(表面積20 cm2)採土缶を用い300サンプルを採取した。そのうち、半数を温室にて発芽実験に供し、残りは遠心浮上法により土壌からの種子抽出を行った。
3. 環境ストレスに対する植物応答を解析するために、10種の種子を、恒温器または温室にて発芽させ、温室で成長させた。これらの材料を、温室にて継続成長、またはサロベツ湿原泥炭採掘跡地に移植し、ストレス(主に紫外線)応答に着目し、成長追跡を行っている(継続中)。
【結果と考察】
1. 仏沼採取サンプルから、2007年秋に39,000種子/m2、2008年夏に31,000種子/m2の発芽が観察された。合計39種が確認され、火災強度の強い地域で種数・種子密度ともに高かった。優占種は1年生草本のアオミズ、越年生草本のタネツケバナ、ノミノフスマ、多年生草本のヒメイ、コウガイゼキショウであった。アオミズ、タネツケバナ、ノミノフスマはリター中に多く、ヒメイ、コウガイゼキショウは土壌中に多く蓄積していた。ヨシの埋土種子は確認されなかった。土壌中に多く見られた種の種子サイズは、リター中で見られた種よりも小さい傾向があった。埋土種子集団の発達は良好であり、火災の影響は負となる可能性が低く、植生回復に埋土種子集団は寄与しうることが示唆された。
2. 噴火30年後において、未だ1,000/m2の種子の生存が確認された。自然状態で30年以上に渡り、高密度で種子が生存することを実証した研究は、始めてである。優占種は、ヒメイ・エゾノギシギシであった。エゾノギシギシは、噴火10年後、20年後の測定でも高密度での生存が確認されており、過湿状態にも関わらず、冷所・無光状態ならば長命種子であことが証明された。
3. 温室において発芽・成育させた材料を、野外移植し、成長追跡を行った。その結果、高さ成長に関し、環境ストレスに対する応答は種間で異なることが明らかとなった。発芽に関しては、オオアワダチソウリターは、クサヨシに抑制効果,オオイタドリに促進効果が確認された。実生生存率は、リター堆積により環境ストレスが軽減された場合には高くなることが示された。現在、本移植個体を採取し、色素定量中である。モウセンゴケ属2種は、温室で成育中であり、雪解け後に、野外に移植する予定である。
大規模撹乱後の湿原におけるシードバンク発達様式の解明
地球環境科学院 統合環境科学部門 温暖化影響評価分野
露崎史朗・江川知花・木村英雄
大規模撹乱を受けた湿原では、土壌中の発芽しない状態でいる種子(シードバンク)が植生遷移の方向を決定することが多い。しかし、シードバンク発達様式は攪乱の種類・規模・頻度・強度等により大きく異なるため不明な点が多い。そのため、本研究室では、攪乱後の湿原における植生遷移機構解明を目的に、シードバンク発達様式の体系化を目指し、北海道大学先端科学技術センターガラス温室において、継続的にシードバンク発芽実験を行ってきた。本年度は、主に、泥炭採掘に伴う撹乱を受けた北海道北部のサロベツ湿原および定期的な火入れによる撹乱を受けた青森県仏沼湿原におけるシードバンクの構造を、温室における発芽実験をもとに評価した。
1) サロベツ湿原泥炭採掘跡地におけるシードバンク発達様式
【実験方法】
2006年秋(昨年度)と2007年初夏(本年度)に、地上部植被率の異なる4サイトから計400個の100 cc (深さ5 cm)の泥炭を採取した。リターの堆積した2サイトからは、さらにリターを計200個サンプリングした。
温室において、トレイ(16 cm × 23 cm × 6.5 cm)にバーミキュライトを4 cm程度敷き詰め、その上にサンプルを厚さ0.5 cmで蒔いた。表面乾燥とコンタミネーションを防ぐため、サンプルを設置したテーブル全体を寒冷紗で覆い実験を行った。スプリンクラー散水の他に、必要に応じ潅水を行った。各種の発芽数は定期的に記録した。
【結果】
発芽種数・個体数は、地上部植被率の増加とともに増加した。総植被率0.2%のサイトからは合計4種312個体が発芽したのに対し、総植被率68%のサイトからは12種1920個体が発芽した。シードバンクの種組成は、地上部植生の種組成と類似していた。全サイトにおいて、秋に採取したサンプルから発芽した種子数は、初夏に採取したサンプルの種子数を大きく上回っていた。また、秋に採取したリターサンプルからは泥炭サンプルを上回る発芽種子数を得た。即ち、リターが平均5 cm堆積したサイトでは、リターから1308個体が発芽したのに対し、泥炭から発芽した種子は624個体にすぎなかった。
【考察】
泥炭採掘後のシードバンク発達は、地上部植生発達と平行して進行している。永続的に埋土する種子は、比較的少ない。よって、シードバンクは植生遷移系列を規定するよりもむしろ個体群維持に機能していると考えられる。さらに、リターはシードバンク発達に大きく寄与していることが明らかとなった。
2) 仏沼湿原におけるシードバンク発達様式
【実験方法】
野外におけるサンプリングデザインおよび温室における発芽実験方法は、サロベツでの研究と同様である。サンプリングは、火災によりリターが焼失した地点(LL)とそうではない地点(AL)を選び、2007年秋にLLでは表層から深さ0-5 cmの泥炭を、LAでは0-5 cmのリターを含む泥炭と 5-10 cmの泥炭を20サンプルずつ採取した。
【結果】(継続中)
a) 発芽種数と個体数
全サンプルから14種3439個体の発芽が確認された。LA0-5 cmのサンプルで、最も種数・個体数が高く、9種1798個体を記録した。LA5-10 cmのサンプルでは発芽種数、個体数とも最も少なく、7種660個体であった。LLでは9種981個体が発芽した。
b) 埋土種子集団の種組成と地上部種組成との関係
埋土種子集団優占種はアオミズ、タネツケバナであり、両種ともAL0-5 cmサンプルで最も発芽固体数が多かった。仏沼湿原の地上部植生で優占するヨシの発芽数は極端に少なかった。さらに、タネツケバナ、ノミノフスマなど地上部植生では出現していない種が埋土種子中に見られた。
【考察】
現存植生に出現しない種が埋土種子中から確認されたが、これは、優占種であるヨシおよびリターによる日陰効果により発芽が抑制された可能性を検証する必要がある。ヨシはサロベツ湿原同様、ヨシ植生内では発芽がほとんど認められなかった。さらに、埋土種子集団組成が、撹乱強度の違いにより異なることから、リターが埋土種子集団組成を規定している可能性が示された。
以上のことから、両調査地のシードバンク構造とリターの関係を、温室における発芽実験を用いることで、撹乱の質が異なっていても、リターの存在がシードバンク発達に大きく関与している共通点が示された。
サロベツ湿原・泥炭採掘跡地における植生遷移と埋土種子組成の関係性の解明
地球環境科学院 統合環境科学部門 温暖化影響評価分野
露崎史朗・江川知花
大規模撹乱を受けた生態系では、遷移は撹乱前の自然植生に向かい進行するとは限らず、新たな種の侵入定着により遷移系列が変化することもある。本研究の主眼は、1970年から2003年まで泥炭採掘が行われた北海道北部サロベツ湿原において、採掘前に広く発達していたミズゴケ群集に向かう遷移の可能性を探ることにある。採掘地の代表種であるヨシ、ヌマガヤ、ミカヅキグサの発芽および定着特性は、今後の遷移系列を規定する上で重要な鍵となる。野外では、これら3種の発芽定着サイトは異なり、ミカヅキグサやヨシは被度の低い遷移初期に侵入・定着し、ヌマガヤは被度が高くリターが堆積した遷移後期に定着することが示されている。実生発生数の規定要因を明らかにするには、各環境下での種子数と発芽率の2つを測定せねばならない。そこで、(1)泥炭土壌中に含まれる各種の種子数(埋土種子)、および(2)リターが発芽率に与える影響の定量化を、北海道大学先端科学技術センターガラス温室において発芽実験を用いて行った。
【実験方法】
当年生種子の散布時期を過ぎた2006年10月下旬から11月上旬に、1970(1箇所), 1972(2箇所), 1980(1箇所)年採掘跡地から合計320個の100 cc (深さ5 cm)の泥炭土壌を採取した。同様に、リターも100 ccずつ、計160個のサンプリングを行った。サンプルのうち、半量は無処理で発芽試験を行い、残りはインキュベーター中で冷湿処理(3oC)を1ヶ月施し温室にて発芽試験を行った。
トレイ(16 cm × 23 cm × 6.5 cm)にバーミキュライトを4 cm程度敷き詰め、その上に土壌サンプルを0.5 cmの厚さで蒔き出した。土壌表面の乾燥とコンタミを防ぐため、サンプルを置いたテーブル全体を寒冷紗で覆い実験を行った。適宜潅水し、各種の発芽数の記録を6ヶ月間行った(継続中)。
【結果】
1. 総個体数および種数
これまでに、合計18種330個体の実生が確認された。冷湿処理サンプルと無処理サンプルでは、種数、発芽個体数ともに大きな差は見られなかった。泥炭土壌サンプルで種数、個体数ともに最も多いのは、ヨシ、ヌマガヤ、ミカズキグサが混交する1970年採掘地のもので7種52個体が発芽した。1972年採掘地のヌマガヤ優占地のもので5種26個体、1972年のミカヅキグサ優占地のもので4種44個体、1980年の低植被地のもので3種21個体が発芽した。リターからは土壌サンプルを大きく上回る発芽が見られた。即ち、1970年採掘地から10種113個体、1972年採掘跡地からは7種74個体が発芽した。
2. 埋土種子集団中の優占種
低植被域およびミカヅキグサ優占群集では、土壌中からのミカヅキグサの発芽は顕著であった。ヌマガヤ優占群集および3種混交群集では、ヌマガヤ種子が多く発芽し、さらにモウセンゴケの発芽数も多かった。ヌマガヤ種子は土壌中よりもリター中でより多く発芽した。ヨシは、いずれの群集からのものでも、ほとんど発芽しなかった。
【考察】
埋土種子集団の種構成は、地上部植生の種構成とよく対応していた。したがって、埋土種子集団の遷移系列は、地上部植生の発達と平行して行われている。また、ミカヅキグサとヌマガヤは、同種の被度の高い群集でのみ種子密度が高く、種子散布距離が比較的短いと推定された。ヨシは、ヨシ群集内でも発芽がほとんど見られず、発芽が抑制されている、あるいは、種子散布量が相対的に少ない可能性が示された。
各群集の埋土種子構成種は地上部の優占種に限られ、種子密度も小さく、採掘跡地の植生回復に対する埋土種子の寄与率は低く、移入種子の方が重要であることが示唆された。また、リターに多くの種子がトラップされるため、発芽後の成長にはリターの発達が重要であると考えられる。
渡島駒ヶ岳における埋土種子集団から見た植物の定着機構
生態環境科学専攻地域生態系学講座 露崎史朗、上坂尚平
渡島駒ヶ岳(標高1140 m)は、1929年に起こった大噴火により植生の大部分が破壊された。現在でも、高標高部は大部分が裸地かコケ・地衣類に覆われている(非パッチと呼ぶ)。一方、木本植物では、カラマツが疎らながらも優占するが、その他にミネヤナギと常緑性低木種であるシラタマノキがパッチを形成し定着している。これまでの研究から、ミネヤナギパッチにはシラタマノキパッチや非パッチ域に比べ多くの植物個体が定着しており、ミネヤナギパッチが他種の侵入定着を促進する効果を持つことが示されている。促進効果の要因の1つに、定着したパッチが種子を捕捉する(種子トラップ効果)ことが、世界各地の砂漠やステップ等で確認されている。そこで、種子トラップ効果の観点から、ミネヤナギパッチ、シラタマノキパッチの機能的相違を明らかにするために、ミネヤナギパッチ、シラタマノキパッチ、非パッチ(対照区)間の地表面に存在する発芽可能種子量の違いを把握するために、各地表面から土壌サンプルを採取し、先端科学技術センター温室を利用して発芽実験を行った。
[実験方法]
2001年10月に渡島駒ヶ岳南側斜面、標高約750-880 m地点で、3ハビタット(ミネヤナギ)、シラタマノキ、非パッチ)から20箇所づつを選び、100cm3の採土管を用い土壌サンプリングを行った。それぞれの箇所について、5サンプルづつを採取し、各ハビタットで計100サンプルを得た。採取したサンプルのうち、半数は、無処理で発芽試験を行い、残りの半分は、5oCの低温処理を1ヶ月間行った後に発芽試験を行った。
各サンプルを、幅10 cm、長さ15 cm、深さ5 cmのポット中にバーイキュライトを敷き、その上に0.5 cm程度の厚さで土壌を置いた。これらのポットを温室内に置いて、発芽が概ね完了する(5ヶ月間)まで発芽試験を行った。出現した実生は針金ピンを実生の側に刺し識別し、種の同定を行った。出現数の多さのためマーキングが困難であったシラタマノキについて始めの10個体を残し除去た以外は、全て個体数を記録した後に取り除いた。
[結果]
土壌100cm3当たりは平均19実生、合計17種の種子植物の発芽が確認された。ハビタット別で見てみると、ミネヤナギパッチで6実生/100 cm3、シラタマノキパッチで48実生/100 cm3、裸地で2実生/100 cm3が確認された。このうち、シラタマノキパッチ中の実生の多くは、シラタマノキ自身であり、またミネヤナギの実生はいずれのハビタットでも全く認められなかった。そこで、シラタマノキ実生数を除いて見ると、ミネヤナギパッチで6実生/100 cm3、シラタマノキパッチで3実生/100 cm3、裸地で2実生/100 cm3となり、ミネヤナギパッチで一番実生密度は高かった。特に、ミネヤナギパッチ中では、イネ科植物(イワノガリヤスとヌカボspp.)の実生が優占した。また、低湿処理区と非処理区間で、ほとんどの種で発芽密度に顕著な差は見られなかった。
[考察]
実生密度から、ミネヤナギパッチは高い種子トラップ効果を持つことが示唆された。これは、ミネヤナギパッチが地表面を風により移動する種子をトラップしやすい構造をしていることと関連すると思われる。シラタマノキパッチは、ミネヤナギパッチより丈が低く、パッチ内照度はミネヤナギパッチより概して低い。種子トラップ効果が低いのは、パッチの構造的な問題と、常緑性等によりパッチ内への種子の侵入(およびあるいは発芽)が妨げられているためと推察される。結論として、ミネヤナギパッチの持つ他種の侵入・定着促進効果の一つとして種子トラップ効果を示すことができた。
研究課題: 有珠山噴火20年後における旧表土中埋土種子集団の生存様式
実験代表者: 露崎史朗(大学院地球環境科学研究科生態環境科学専攻地域生態系学講座)
実験者: 後藤真咲(大学院地球環境科学研究科生態環境科学専攻地域生態系学講座)
有珠山は1977-78年にかけて噴火し、山頂付近の植生は完全に破壊され、当時の表土は厚い火山噴出物に覆われた。その後有珠山火口原では、侵食などにより露出した旧表土から埋土種子由来植物の出現が確認され、噴火から10年後(1987年)には、旧表土中に1 m²当たり約2000種子(25種)が生存していることが分かっている。旧表土中埋土種子集団の、噴火から20年後(1998年)における生存状況を明らかにする目的で行った。埋土種子集団推定は発芽試験法(GM)と比重選別法(FM)の2法を用いて行った。得られた埋土種子集団について種数、密度、および分布を測定し、それらをもとに埋土種子集団の生存様式について考察した。さらに、両埋土種子埋土種子検出方法の結果を比較し、埋土期間の長い種子の検出方法について検討した。
1998年6月、有珠山火口原の4地点(Sites 1-4)において50 cm × 50 cm (Site 2、Site 3は40 cm × 40 cm)の方形区を設置し、火山灰下より旧表土を採取した。方形区を縦横10 cm毎に区切り、100 ml採土缶により各10 cm × 10 cm枠内から2サンプルずつ採取し、一方を発芽試験法に、もう一方を比重選別法に用いた。これを上層(0-5 cm)、下層(5-10 cm)について行い、1方法につき上下それぞれ25(Site 2、Site 3は16)サンプルを得た。
発芽試験法: 採取土壌をバーミキュライトを敷いたポット上に1-1.5 cmの厚さで撒き、実験生物センター温室で5ヶ月間発芽試験を行った。出現した実生の同定を行い、数を記録した。記録が終わった実生は取り除き、未同定の場合は別のポットで栽培し、成長後に同定した。
比重選別法: 採取土壌にK2CO3水溶液(比重1.54)を加えて遠心し、上澄みを濾しとることにより土壌から種子を分離した(Tsuyuzaki 1994)。実体顕微鏡下で種子を数え、形態から種の同定を行った。同定できないものは実験生物センター温室にて発芽・成長させ同定した。種子の生死判定は押しつぶし法により行った。
GMで合計23種、1 m²当たり1317種子、FMで合計30種、1 m²当たり2986種子の生存が確認された。埋土種子相はエゾノギシギシが優占しており、多年草の占める割合が大きかった。牧草や耕地雑草など比較的攪乱の大きい場所を好む種が半分近くを占めたが、林床に生育するカラフトダイコンソウやイワアカバナ、湿地性であるイグサやハイキンポウゲなどもみられた。木本はカンバの仲間が1種見つかった。種子は上層に多く分布しており、水平方向のばらつきが大きかった。種数、密度、種組成はSiteにより大きく異なった。
10年前と比較すると、FMで種数、密度ともに10年前を上回り、この10年間に顕著な埋土種子の死亡は起こらなかったと考えられた。有珠山火口原において、旧植生に由来する種子が少なくとも20年間は比較的高い密度で生存しており、機会があれば植物供給源として機能する可能性があることが示唆された。
GMとFMの結果を比較すると、単位面積あたりの種数、種子数ともにFMの方が有意に高かった。共通に検出された種は11種で、2方法間で種組成が大きく異なった。共通種の多くは、FMの方が種子検出力は高かったが、種によってはGMの方で多く種子が検出された。これらの結果から、GMとFMはそれぞれに長所短所があり、ひとつの埋土種子集団について異なる推定結果を得る可能性が高いといえた。種子が検出できない理由として、GMでは種子が休眠のため発芽しないこと、FMでは抽出過程で紛失したり形態からの同定が難しいことがあげられた。埋土期間の長い種子は、休眠性が強く、構造が老化しているものが多いため、これらの点を十分に考慮し、複数の検出方法を用いるのが望ましい。
研究課題: 海岸林林床草本群集の多様性維持機構
申請書
課題: 海岸林林床草本群集の多様性維持機構
利用室名: 植物ガラス室 (新規)
利用期間: 9年5月1日から10年3月31日まで
実験計画
(目的): 海岸砂丘から海岸林内にかけての草本植物群集の帯状構造について、群集維持のメカニズムを植物の種子散布、埋土種子、実生の定着を調べることにより明らかにする。
(方法): 海岸砂丘域の各植生から土壌と共に土壌中の種子を採集して持ち帰り、温室でポットに蒔き発芽させて同定し、構成種を調べる。実生の同定ができなかったものについては、種の同定ができるようになるまで育てる(必要ならば他のポットに移す)。
(データのまとめ): 各植生帯での埋土種子の構成種の比較、埋土種子構成種と実際の植生との比較、各植生帯間での種子の発芽特性の比較など
使用生物名: 土壌と土壌中の種子。種子から発芽した植物
個体数: 土壌200 mlを240コ (60コ × 4回)
搬入機器: ポット(径10 cm程度)を240コ
利用機器: ポットをのせるトレー
報告書
実験代表者 露崎史朗(大学院地球環境科学研究科生態環境科学専攻地域生態系学講座)
実験者 小林千穂(大学院地球環境科学研究科生態環境科学専攻地域生態系学講座)
研究成果
海岸砂丘から林内にかけた草本植物群集帯状構造の成立には埋土種子集団の構造が大きく関与していると仮説を立て、その群集維持メカニズムを植物の種子散布、埋生種子、実生の定着を調べることにより明らかにすることを目的として調査を行った。実験生物センター温室においては、埋土種子集団の発芽実験を以下のように行った。海岸砂丘域の各植生帯から土壌と共に土壌中の種子を採集して持ち帰り、温室でポットに蒔き発芽させて同定し構成種を調べた。埋土種子集団は、春(5月22日)および秋(11月4日)の2度、20個の100 cc(深さ5 cm)の土壌を各植生から採取した。観察は、3-7日おきに最低2ヶ月行った。実生の同定ができなかったものについては、種の同定ができるようになるまで大型のポットに移し生育させた。
得られた結果は以下の通り。
- 植生帯は、海岸から、砂丘(ハマニンニク優占)、草原(オオウシノケグサ優占)、ササ地(クマイザサ優占)、林縁(ササ地とカシワ林の混じったところ)、カシワ林の順に5つの帯状構造をなし成立している。なお、海岸からカシワ林までの距離はおおむね100 m程度である。
- 埋土種子集団は、春・夏合わせて23種の発芽が確認され、同定されたものは全て草本植物であった。
- 埋土種子中の優占種は、カシワ林内を除くといずれの植生帯においてもエゾヨモギであった。カシワ林内ではイネ科数種およびキンチャクスゲの埋土種子が顕著であった。
- 発芽種子密度は、各植生で春には125/m²から5975/m²の範囲で、秋には100/m²から2650/m²の範囲で認められた。春・秋をとおして、発芽埋土種子密度は砂丘でもっとも低く100/m²程度、草地・ササ地で数1000/m²と高かった。
- 埋土種子集団中の出現種数は、海岸からカシワ林に向かう植生帯において順に、春が2、10、10、5、4種、秋が3、9、9、8、7種であった。
- 海岸側(砂丘および草原)の地上部植生に見られた植物は、内陸側(林縁およびカシワ林)の埋土種子集団中からは認められなかった。また、定着アレヂマツヨイグサ、ホソバノハマアカザは地上部植生には認められなかったが、草原とササ地の埋土種子中には存在していた。
以上の結果は、埋土種子集団は、草本植生で高い密度を示し、森林植生では密度が下がるといういくつかの研究例と一致している。しかし、これらの研究では、森林植生では、埋土種子集団の密度が下がると同時に埋土種子種数は増加すると報告されている。一方、本研究においては、カシワ林とそれ以外の植生帯において埋土種子集団の構造が大きく異なり、またカシワ林内では必ずしも埋土種子種数は増加していない。また、海岸側の地上植生でみられた植物が、林内の埋土種子集団から認められなかったことは、エゾヨモギを除くと、種子の移動距離は比較的短いことを示唆している。従って、カシワ林の埋土種子集団とそれ以外の植生の埋土種子集団は独立に発達し、また埋土種子集団の機能は他の植生のものと大きく異なる可能性が高い。現在、これら埋土種子集団と地上部植生との類似性の解析を行い、個々の埋土種子集団中に認められた種の特性の比較を行っている。