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露崎 史朗 (Shiro TSUYUZAKI)
植物群集生態学・環境保全学

有珠山/サロベツ泥炭採掘跡
1986年, 2006年の有珠山火口原. ワタスゲ・エゾカンゾウ
(2008年4月3日更新)

植物相(フローラ, フロラ) flora (pl. floras or florae)

植物相 (flora)

ある地域内に生息する全植物種組成

= 植物を同定し種名を記した種のリスト

動物相(ファウナ) fauna
植物相 + 動物相 = 生物相 biota

地域の大きさは様々

日本の植物相 < 北海道の植物相 < 札幌の植物相 < 北海道大学キャンパス芝生上の植物相

このページ内のフローラリスト
生物相 (バイオータ) biota

一定の場所(同一環境あるいは地理的区域)に産する全種類。定性的概念で普通は動物相・植物相を合わせたもの。場合によっては微生物相を区別する。
種類相互の関係や環境の意味等は含まない概念用語。

Ex. land biota, benthic biota, African biota

研究事例: 渡島駒ケ岳における植物相の特徴

2000年調査から

75種の種子植物を確認
山岳火山地帯に普通に見られる種
+
駒ケ岳採取標本 Specimens collected from Mount Koma Koma

海浜植物

例: オオウメガサソウChimaphila umbellata, マルバトウキLigusticum hultenii

(亜)高山植物

例: イワギキョウCampanula lasiocarpa Cham., タルマエソウPenstemon frutescens

食虫植物

例: モウセンゴケ Drosera rotundifolia

これらの特徴をまとめると以下のようになる。

- 北海道渡島駒ケ岳における2000年種子植物リスト

2001. 生物教材 36: 1-6 改訂版

露崎史朗1)・長谷昭2)・新沼寛子2)・花田安司2)

1) (北海道大学大学院地球環境科学研究科)
2) (北海道教育大学函館校生物学教室)

List for seed plants on Mount Koma, Hokkaido, in 2000

Shiro Tsuyuzaki1), Akira Hase2), Hiroko Niinuma2), and Yasuji Hanada2)

1) Graduate School of Environmental Earth Science, Hokkaido University, Sapporo 060-0810, Japan
2) Biological Laboratory, Hakodate College, Hokkaido University of Education, Hakodate 040-8567, Japan


はじめに

 北海道渡島駒ケ岳(標高1131 m)は、1929年の大噴火後、暫く穏便を保っていたが、1996年から2000年にかけて小規模ながら数度の噴火を繰り返している。火山噴火後における植物群集は、土壌移動等の撹乱が強い貧栄養土壌状態から始まる群集動態を明らかにするモデルケースとして貴重な調査対象となる。しかしながら、火山における噴火以前の植物群集構造は噴火後の植物群集動態に大きく関与するにも関わらず、調査事例が極めて少ないため噴火後の植物相等を考察するに不可欠な情報が欠落しがちである(Tsuyuzaki 1995)。米国セントヘレンズ山おいても、その必要性から今後の群集動態を知る基礎資料として噴火直後のフロラリストが作成された(Titus et al. 1998)。また、北海道教育大学函館校においては、1996年より野外実習において駒ケ岳南西斜面において植物群集動態調査に関する実習を行なっている(露崎・長谷2000)。これは、永久調査区と呼ぶ経年で同じ場所を調査し、群集構造の時間的変化を視覚的に理解することを主な目的として行なわれている。その際にも、フロラリストが存在することは、学生が自身で植物の同定を行なう上で大きな助けとなり、実習上の効果も期待できる。
 本調査は、1996年の駒ケ岳小噴火以降に始められたものであり、比較的短期の調査であり不十分な部分もあるが、今後いつ噴火するとも予断を許さない本火山におけるフロラリストは早急に作成報告する必要があると考える。

調査方法

  調査は主に2000年雪解け開葉後の6月初旬から降雪期直後の11月初旬まで約20日置きに山頂部南西斜面において観察された植物を記録した。ただし、9月初旬から下旬までは、山頂部で水蒸気爆発が発生したため、調査を行なっていない。また、フロラリストには、1996年年以降行なっている北海道教育大函館校野外実習(露崎・長谷 2000)において観察されたもの、および本調査以外の調査において観察されたもの(Kondo & Tsuyuzaki 1999)も含めた。ここでいう山頂部南西斜面とは、駒ケ岳6合目駐車場(標高 487 m)よりも高標高の部分を指す。2000年調査における初記録種については、数個体を採取し標本を作成した。標本の一部は北海道大学総合博物館に納めた。

結果と考察

 全体で計75種が確認された(表1)。有珠山火口原では、1983年から1994年にかけての調査でシダ植物を含めて163種が確認されているが(Tsuyuzaki 1995)、単年度で、これだけの種が確認されたということは、植物群集構造を把握するには十分な種数が記録できたといえよう。
 マルバトウキ、オオウメガサソウ( 図1 )は海岸植物であるが(大井 1983)、駒ケ岳のように海岸に隣接した火山であれば侵入定着が可能なようである。このことは、海風に乗って長距離種子散布が可能であること、火山景観が火山性砂漠と呼ばれるように貧栄養土壌であり、また土壌移動が発生しやすいという、多少なりとも海岸砂丘に似通った環境が提供されているため、これらの植物が成長可能な環境であるという点に起因しているように思える。
 ツツジ科の種やラン科の種が多数個体確認されたが、これらは、それぞれツツジ科菌根菌、ラン科菌根菌を有するため、高山等の撹乱の強い貧栄養土壌下においても定着可能な植物と考えられている(Allen 1991)。駒ケ岳においても、これらの植物種が多数確認されたことは、種子植物-菌根菌共生関係が、火山を始めとする撹乱強度の強い貧栄養環境において群集発達に重要な役割を果たしていることを示唆している。今後、広範に種子植物-菌根菌共生関係を調査する必要性がある。
 食虫植物であるモウセンゴケは、1965年の駒ケ岳植生調査において記録されている(館脇ら 1966)。本調査によって、その定着は再確認されたことになる( 図2 )。食虫植物は、一般に貧栄養土壌下において土壌中からの獲得だけでは不足しがちな窒素を捕虫によって補うと考えられている(山川 1990)。駒ケ岳においては、1929年の噴火から既に70年を経過しているが、未だ土壌は未熟であることを示しているといえよう。
 イワギキョウ( 図3 )は高山礫地に生える植物、タルマエソウ( 図4 )は新生火山の砂礫地に生える植物として知られ(伊藤 1981)、また、この他にも本来は亜高山性の植物も数種見られる。これらの植物が、駒ケ岳山頂部周辺に定着していることも興味深い。
 以上のように、駒ケ岳は、1) 海岸近くにおいて、ある程度高標高まで発達した火山であり、2) 比較的大規模な噴火を繰り返した結果として軽石・火山灰を主体とする貧栄養土壌が、特色あるフロラを発達させているといえよう。

- 表1. 駒ケ岳山頂部種子植物出現リスト 改訂版 [2000年の結果に追加]。学名は主として大井(1983)を用いたが、種群によっては新しいものを採用した。和名は、もっとも普及していると思われるものを採用したが、2つある場合には併記した。

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参考文献
  • Allen, M.F. 1991. The ecology of mycorrhizae. Cambridge University Press, Cambridge. 中坪孝之・堀越孝雄(訳). 1995. 菌根の生態学. 共立出版, 東京
  • 伊藤浩司. 1981. 北海道の高山植物と山草. 誠文堂新光社, 東京
  • Kondo, T. & Tsuyuzaki, S. 1999. Natural regeneration patterns of the introduced larch, Larix kaempferi (Pinaceae), on the volcano Mount Koma, northern Japan. Diversity and Distributions 5: 223-233
  • 大井次三郎(著)・北川政夫(改訂) 1983. 新日本植物誌 顕花編. 至文堂, 東京
  • 縦脇 操・柴草良悦・松下彰夫・小島 覚. 1966. 渡島駒ガ岳の植生. 日本森林植生協会, 札幌
  • Titus, J.H., Moore, S., Arnot, M. & Titus, P.J. 1998. Inventory of the vascular flora of the blast zone, Mount St. Helens, Washington. Madrono 45: 146-161
  • Tsuyuzaki, S. 1995. Vegetation recovery patterns in early volcanic succession. Journal of Plant Research 108: 241-248
  • 露崎史朗・長谷 昭. 2000. 植生動態実習マニュアル. 環境教育研究 3: 153-159
  • 山川学三郎. 1990. 食虫植物. 保育社カラーブックス446, 東京

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