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(2016年3月6日更新) [ 日本語 | English ]

スキー場斜面における植物群集動態






有珠山 / サロベツ泥炭採掘跡
1986年, 2006年の有珠山火口原. ワタスゲ・エゾカンゾウ

[ 情報・リンク | 景観 landsacpe| 調査許可 Research permisssion ]
[ 北海道藻岩スキー場植生の現状と推移 ]

スキー場斜面における植物群集動態 [日本生態学会誌 49: 265-268 (1999)] 改変
[ はじめに | 造成管理形態 | 斜面植生 | 環境変化 | おわりに | 引用文献 ( 1999年以降の文献 )]

スキー場斜面における植物群集動態

Present status and problems on skislope vegetation in Hokkaido
露崎史朗
北海道大学大学院地球環境科学研究科
Key Words: Artificially-introduced herbs, Gully, Hokkaido, Miscanthus sinensis grassland, Scrapping off the ground surface, Skislope vegetation

はじめに


 スキー場の中から白銀の世界を満喫したことのある人は多いことだろう。ところで、夏のスキー場を熟視したことのある人はどれ位いるのだろうか。
 日本では、大規模地表改変技術と人工降雪機の導入の結果、ほぼ全国にスキー場が分布している。大型機械による大規模地表改変が可能となった1960年代以降、スキー場には適さない急傾斜地や緩傾斜地にもスキー場が造成されるようになった(露崎 1988; Tsuyuzaki 1994)。人工降雪機は1990年前後から導入され、既設スキー場ではより長期間の経営が可能となり、また小雪のためスキー場経営に適さなかった地域にまでスキー場が進出するようになった(藤原 1994)。現在では、九州宮崎県にまでスキー場は開設されている。分布から見るならば、スキー場造成に伴う環境変化は全国でみられるものといえる(新潟日報報道部 1990; 藤原 1994; Tsuyuzaki 1994)。スキー場開設に伴う環境変化は米国やヨーロッパでも報告されており(Behan 1983; Korner 1981; Price 1985; Titus & Tsuyuzaki 1999; Urbanska et al. 1998; Watson 1985)、近年では冬季オリンピックにおいてスキーコースと自然との調和が話題となるように国際的な問題ともなっている。
 そこで、本稿は、環境変化の引き金ともいえるスキー場斜面の造成および管理維持形態をまず述べ、次いでその結果として形成されたスキー場斜面植生の特徴について述べる。最後に、スキー場造成に伴う環境変化について触れるが、詳しくは本特集の他の頁*を参照されたい。 本稿を草するに際し、調査において協力されたスキー場関係者各位を始めとする多くの方々に深謝する。

Nakayama Skislope


*: 日本生態学会誌(Jpn. J. Ecol.) 第49巻 第3号 (1999年12月). 特集 I 【スキー場開発と自然保護】

オリンピックの歴史: (財) 日本オリンピック委員会
長野オリンピック会場建設への対応: 日本自然保護協会

造成管理形態


 スキー場面積は、公営スキー場では数ha程度の小規模なものが多い一方、民間経営のものでは数百haに達するものもある(Tsuyuzaki 1994)。少なくとも数haの面積を斜面で確保できなければ快適なスキー場としての機能は保てないといってよいだろう。日本において、そのような土地、すなわち山地の多くは天然・人工を問わないならば森林に覆われている。そのため、ゲレンデ造成のためには大規模な森林伐採が必要となる(図1. Procedures on skislope establishment in Japan)。その後斜面は、適当な勾配を与え、かつ滑走する上での危険個所を解消するために、ブルドーザーなどの大型機械により整地が行われる。また、林床に繁茂しているササや藪等は、伐採のみではこれらの植物が雪を突き抜け雪面上に現れスキー場開設期間を短くしてしまうため、整地の際に土壌を数10 cmから数 mの厚さで取り払うことにより除去されている(地表剥ぎ取り)。その結果、斜面に植物はまったく生えておらず、土壌も軟弱 なことから、砂防を目的として造成直後には牧草種子がスキー場全面にまきつけられる(人工播種)。ここまでの過程で一応ゲレンデ造成が完了したこととなる。
 造成完了後は、斜面の裸地化が顕著な時には、その部分に対して人工播種が行われる。また、斜面において藪が発達したり木本植物の侵入が著しくなると、これらの植物は刈り払いにより地上部のみが除去される。また、近年のスキー場斜面では開設期間中に融雪防止剤(雪面硬化剤)および人工雪促進剤が散布されている(藤原 1994)。
 したがって、スキー場斜面の植生は造成時に行われる一時的ではあるが大規模な,環境を単純化する人為干渉と、造成後に行われる継続的な人為干渉の2種類の人為干渉を受けた上で成立していることになる(図1)。

斜面植生


 山頂から山麓にかけて帯状に森林を除去することは森林の分断化を意味し(Forman & Godron 1986)、周辺の森林と比べて極めて異質な生態系となっている(図2)。その異質な生態系は、海岸近くから1000 m以上のところにまで分布している。したがって、スキー場斜面の植生分化パターンは、標高に規定されていることは当然であるが、同程度の標高内では、森林からの距離、傾斜、土壌移動、土壌湿度等の影響を受けて形成されている(Tsuyuzaki 1990; Titus & Tsuyuzaki 1998)。森林からの距離は栄養繁殖を含む植物供給起源からの距離を反映したものと考えられる。また、日本においては、尾根型斜面にスキー場が造成され、沢は埋め立てられるかスキー場として使用されていないことが多いため、ゲレンデには大規模に湿性植生が発達しているところは少ない(Titus & Tsuyuzaki 1998)。

Fig 2

 地表剥ぎ取りによって地表面の土壌栄養分が除去され、土壌も軟弱なことから、ほとんどのスキー場において土壌侵食によって形成された大小のガリーおよび裸地化した斜面が認められている(中村 1988)。スキー場によっては、ゲレンデの半分近くが裸地化していることもある(Tsuyuzaki 1994)。これらのことは、造成後吹付けた播種植物は衰退する方が普通であることを意味し、人工播種の砂防効果は疑わしい(露崎 1991; Tsuyuzaki 1995)。
図2の用語
landscape fragmentation: 景観断片化
water-holidng capacity: 保水力
water quantity/quality: 水量・水質
landslide: 地滑り
flood: 洪水
soil movement: 土壌移動
artificial snow: 人工雪
artificial nutrients (= fertilizer): 肥料
residential area: 住宅地
water pollution: 水質汚染
accumulation ...: ゴミ、騒音、交通量
 北海道低地で播種植物が優占していないところには、裸地、ススキ(Miscanthus sinensis)草地、オオヨモギ草地、クズ草地、オオアワダチソウ(Solidago gigantea)草地などが発達していた(Tsuyuzaki 2002)。ススキ草地と植被の低い群落には木本植物の侵入が良好であったのに対し、それ以外の草地には木本植物の侵入はほとんど見られなかった。北海道低地におていは、ススキ被度が木本植物の侵入を予測する指標になりうる(Tsuyuzaki 2005)。ただし、ススキ草地においてもススキの優占度が極めて高くなると、必ずしも木本植物の侵入は良好とはいえない。例えば、新潟低地においてはススキが超優占する斜面がみられるが(Tsuyuzaki 1995)、このようなところでは、中程度にススキが優占しているところよりも木本植物の侵入個体数は低くなっていた。一方、北海道において標高1000 m前後のところのスキー場斜面ではススキ草地はあまり発達せず、木本植物の定着は低地と比べて低い密度ながら多様となっていた(Tsuyuzaki 1993)。
 さらに、ゲレンデには、融雪防止剤として硫酸アンモニウムなどの化学肥料が大量に用いられており、スキー場斜面における植物成長および群落構造に変化が認められている(建元・中村 1998)。
 地表剥ぎ取りのなかった場合であるが、札幌市藻岩山スキー場では、地表剥ぎ取りのあった斜面と比べて高い植被と定着種数が観察されたが、やはり土壌侵食を伴っていた(露崎 1991)。ヨーロッパや米国には、日本に比べると大規模なスキー場が多い。しかし、スキー場は、戦前から利用されているところが多く、当時の技術で造成可能な,あまり森林伐採を行わず整地が容易なところが選ばれている。そのため、地表剥ぎ取りを伴っていないところが主であり、斜面には日本のスキー場に比べると多様な植生が発達している(Behan 1983; Korner 1981; Titus & Tsuyuzaki 1998, 1999)。しかしながら、スキー場造成およびリフト設置に伴う土壌侵食および植生変化は、海外でも問題視されている(Korner 1981; Waston 1985)。

日本と米国のスキー場植生の対比 (Titus & Tsuyuzaki 1998, 1999)
    地域:     日本           ↔ 米国
    規模:     比較的小       ↔ 比較的大
    造成年代: 1960以降多     ↔ 戦前から
    人為干渉: 大規模森林伐採 > 森林伐採
              地表剥取       ↔ 0
              人工播種       = 人工播種
              定期刈払       = 定期刈払
→ 米国では日本と比べ多様な植生が発達

環境変化


 地表剥ぎ取りによる森林の草地化あるいは裸地化は、単なる森林伐採より大規模な環境変化を意味する。さらに、人工雪促進剤および融雪防止剤が多量に散布されており、これらの生態系に与える影響、森林の分断化や夜間照明等の人工建造物造成に伴う生物相への影響も無視できない(図2)。
 スキー場間のスキーヤー獲得競争のため、スキー場は大規模化する傾向にあった(露崎 1988; 藤原 1994)。同様の理由で、風光明媚かつ利便性の高いところにスキー場が集中している(新潟日報報道部 1990; Tsuyuzaki 1994;呉羽 1995)。これらのことは、都市近郊および各種指定公園内やその近接地にスキー場がよく造成されることを意味している。日本各地でスキー場新設あるいは拡張計画に対する反対運動が起こっている(露崎 1988; 藤原 1994)。そのため、問題が自然環境面ばかりでなく社会生活環境面にまで及ぶのが、スキー場造成に伴う環境問題の特色の一つといえよう(図2)。
 森林の草地化は土壌保水力低下を意味し(中野ら 1988)、斜面において土壌侵食が広範に見られるのは前述の通りである。加えて、斜面への人工雪促進剤および融雪防止剤の散布が行われるため、水質汚濁、地滑り、洪水等も懸念される。1985年に札幌市近郊におけるスキー場新設計画が浮上した際には、それらのことが指摘された(露崎 1988)。また、都市近郊およびスキー場集中地では交通渋滞、騒音、ゴミ問題が顕在化している(新潟日報報道部 1990)。スキー場計画が浮上するたびに、おおむね同様の問題が指摘されており(藤原 1994)、考慮せねばならぬ普遍的課題といえる。

因果関係は不明だが... ニューおじろスキー場(兵庫県美方郡美方町)で地盤崩落 スキー場営業断念 (神戸新聞2004年2月26日)

おわりに


 1987年に総合保養地域整備法(リゾート法)が制定されレジャー施設新規計画が目白押しとなったが(藤原 1994)、バブル崩壊後多くの計画が立ち消えとなった。にもかかわらず、例えば越後湯沢では既にスキー場は供給過剰と言われ(呉羽 1995)、今後経済面からも全てのスキー場経営が成り立つことは疑わしい(宮本 1990)。実際に、いくつかのスキー場は既に廃止された。スキー 場の立地環境から言えば、経営を放棄された斜面は、自然生態系に復元されることが望ましい。しかしながら、地表剥ぎ取りを行った斜面における植生推移は、森林伐採後の推移とは大きく異なため、土壌再生をも考慮した復元手法が必要である。さらに、スキー場がある限り、環境に与える影響は継続的なものであり、その定量化も今後の課題として残されている。

引用文献


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スキー場斜面生態系に関する情報・リンク

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[要旨] 日本の山地帯は、通常、発達した森林に覆われ、多くのスキー場は、そこに造成される。従って、スキー場造成は、森林生態系の破壊を伴う。スキー場斜面における植生発達様式を知るために、155個の2 m × 2 m方形区を用い、北海道低地の7スキー場において植生調査を行った。スキー場周辺植生は、ほとんどが林床にクマイザサ(Sasa senanensis)を伴う落葉広葉樹林である。スキー場は、調査の5-28年前に地表剥ぎ取りと人工播種により造成されている。TWINSPAN植生解析により6草地型が区分された。(A)ススキ-ブタナ草地、(B)低種数人工草地、(C)人工草地、(D)オオヨモギ草地、(E)ススキ-クズ-オオヨモギ草地、(F)オオアワダチソウ草地。この内、ブタナとオオアワダチソウは帰化種である。スキー場斜面では、カモガヤやナガハグサなどの砂防に導入された人工播種植物が、初期植生を作る。多くの先駆樹種は、もっとも自然植生的とみなせるA型植生に定着していた。A型は、種数がもっとも多く、B型およびC型から推移したものと思われる。よって、この型は、スキー場植生の管理復元にもっとも好ましい。D型は、新しいスキー場に見られ、E型・F型はより古いスキー場に見られた。傾向化除去分析(DCA)を含めた結果は、D型とF型では偏向遷移が進行し、即ち、生物学的侵入が自然遷移系列を歪めている、ことが示唆された。以上の結果から、帰化種侵入の制限と、ススキ草地の監視が、自然植生の復元には必要である。

[要旨] 日本における殆どのスキー場は、発達した森林内で、森林伐採、地表剥ぎ取り、および人工播種により造成される。近年、幾つかのスキー場が、経営上の理由から廃止され、さらに、スキー場リゾートの経営破綻が起こると予測されている。よって、放棄されたスキー場斜面の復元には、低コストな森林復元指標を指標を見つけることが望ましい。スキー場が過剰に集中している湯沢地域(標高500-760 m)において植生データを集めた。森林が発達できる可能性を予測するために、立木密度と植生の特性との間の関係を調べた。人工播種植物の被度が40%以上のところでは、木本植物は定着していなかった。在来草地の中では、ススキ草地(Miscanthus sinensis grassland)は、もっとも高い立木密度を示すが、種数は高くはなかった。特に、ススキ被度の増加に伴い立木密度は増加していた。森林へ進行する遷移系列を示すには、ススキ被度が種多様性(diversity)よりもむしろ、より適切な指標となる。
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