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(2021年3月15日更新) [ 日本語 | English ]

ストレス (stress)






有珠山 / サロベツ泥炭採掘跡
1986年, 2006年の有珠山火口原. ワタスゲ・エゾカンゾウ

環境ストレス environmental stress

植物に対する不敵な環境条件の影響

Ex. 温度: 高-低         pH: 酸性-塩基性    圧力: 高-低
      酸素濃度: 高-低  CO2濃度: 高-低

障害 injury
植物の機能又は致命的影響による外観変化をもたらす代謝変化

原因: ストレス stress = 北方圏(寒冷地)で大きな要因は低温温度要因

表. 温度域別の植物の障害

温度
障害


季節

0 to 19   
冷害


夏期低温

-3 to 0      
霜害
雪腐病害
冠氷雪害
早春・晩秋

< 0 (°C)            
凍害
雪害
乾燥害
越年生植物冬枯

脂質組成: 不飽和脂肪酸多 = 低温耐性高 → 膜安定化(相転移)に関与
索引

乾燥ストレス drought stress

Def. 植物が(乾燥により)水分欠乏状態 → ストレス発生
☛ 水ストレス・浸透圧ストレス

特に低温障害

傷害応答 injury response


冷害 (冷温障害) (chilling injury)

冷気に伴う障害 → 北海道: ほぼ4年に一度の割合で発生

トウモロコシ: 3°C, 36 hr = 視覚的障害確認 → 21°Cに戻すと正常に戻る
開花不稔 floral impotency: 着蕾期-開花期の冷温で稔実率低下(道多)
生育遅延 delayed growth: 生育初期-登熟期の冷温・日照不足原因

Snow 冷害時期(イネ)

穂孕期: 出穂前1-2週間 - 発育停止
開花期: 開花受粉時期 - 受粉阻害
登熟期: 出穂期から1-2月 - デンプン貯蔵阻害

凍害 (freezing injury)

植物体内水凍結 → 植物が被害 (s.l.) )
  1. 氷結 → 組織の物理的損傷・破壊 Ex. 物理的圧迫による原形質破壊
  2. 細胞内凍結 → 細胞直接致死に結びつく害
  3. 細胞外凍結 → 脱水細胞障害
    厳寒少雪地帯: 凍結、乾燥、断根等の凍害
    長期積雪地帯: 積雪による生理障害や雪腐病害が発生
    春先の融雪や冬季の季節はずれの降雨後の冠水氷結により植物の窒息・組織破懐の冠水雪害が発生
  • 凍上害 frost heaving injury: 苗木浮く、断根。そのまま融解すると倒伏や、根が抜け枯死
  • 凍裂害 frost crack injury: 寒さに曝され幹材内部から樹幹外周部に向かう縦長に割れる損傷
  • 凍裂 (霜割): 氷点下温度に冷却 → 材部外側の細胞膜内の水分が放出され収縮 → 温度急激低下すると樹幹表面の切線方向収縮著しくなり樹幹を縦裂
  • 冠氷害 ice encasement injury: 降雪地帯で融雪水が再結氷し、植物体が氷中に埋蔵され出る被害
    植物体O2不足、CO2過剰 → 通常呼吸代謝経路が働きにくくなる
  • 冬季乾燥害 winter drought injury: 低温時に水分蒸散量が根の水分吸収量を過剰に上回る → 細胞脱水
    冬季: 土壌凍結により根水分吸収速度抑制 + 外気乾燥継続や風により組織から水分奪れる
    → 夏植物で晩春の降霜で茎葉に凍害が、初秋降霜で登熟不良等の霜害発生。越年生植物で耐凍性が十分備わらない晩春や初秋に強霜があると霜害発生。厳寒期でも積雪下0°C付近の温度域での雪腐病等による障害や冷温・凍温境界域での降雪・融雪による障害発生

寒害 cold injury (damage)

晩秋-早春: 霜害 + 凍害 + 凍上害 + 凍裂害 + 寒風害 + 冬季乾燥害
凍害: 冬季植物成長休止期の凍結害 ↔ 霜害 = 秋の植物の生長休止前や春の生長開始後の凍結害
霜害 frost injury: 春や秋の弱風晴天の夜間に地表付近気温が< 0°Cになると、大気中水蒸気が昇華し地面や植物に氷結晶が付着し植物体が凍結する。耐寒性が不備な植物が被害を受ける障害である

寒地植物psychrophiles (霜を愛するもの): 0°C以下の低温に長期間さらされても生存可能

融雪害 snowmelt flooding injury: 春先に融雪水が地表面を流れることによる害。多雪地帯では特に春に地温上昇と共に積雪下層から大量の雪が融け洪水となって冠部の侵食や滞水によって植物が被害を受ける
雪腐病害 snow mold injury: 積雪下越冬中植物に寄生加害する低温性病害

ムギ類・イネ科牧草: 紅色雪腐病、雪腐黒色小粒 菌核病、雪腐褐色小粒菌核病、雪腐大粒菌核病
マメ科: 褐色雪腐病や雪腐黒色 小粒菌核病 (菌核病は無積雪期・地域でも発生し雪腐病と呼ばないが、積雪地域では積雪下で発生し越冬性を決める病害 → 雪腐病害が積雪条件で目立つため雪害と同義に使う, s.l.)

雪害 snow injury

機械的雪害(生理的雪害は上掲)
a) 冠雪害 overhead snowing injury: 樹冠付着雪荷重による損傷 = 粘着力大きな雪が短時間に多量に積もると発生) → 寡雪地帯多

→ 高気温か強風があると、付着雪が減るので冠雪害発生しない
過密で細長な樹形、偏奇樹冠、梢端に偏った樹冠の木に起こりやすい

b) 雪圧害 snow pressure injury: 斜面上の雪は自重で下方に押し下げ作用

降雪直後の雪 = 極めて軽い(0.03-0.15g/m²) → 変態

↓ 融解変態: 気温0°C以下と以上の繰り返しによる
↓ 昇華変態: 0°C以上で溶けずに昇華蒸発によって新雪結晶を失う

しまりゆき(0.2-0.2g/m²)、ざらめゆき(0.3-0.5g/m²) = 密度大 → 積雪深減少 + 埋雪物体に沈降力作用
→ 雪圧害: 雪荷重による樹木等の損傷 Ex. 根元曲がり

c) 雪崩害: 根元で折れること多く、暴風の様に枝葉まで飛散することは少ない

暴風害 → 根返りが多く、幹折れの位置が樹高の1/3程度の高さ

風害(寒風害)

a) 常風による害: 長期間、一定方向に吹く風による害

偏西風 - 日本海側、太平洋岸(片面樹冠)、岬(わい性化、匍伏)
→ 風下側への機械的曲げ, 雪氷片の衝突による傷 + 強制的脱水乾燥

b)暴風害: 台風、温帯性低気圧、前線に伴う突風等の強烈な暴風による害

→ [特徴] 枝葉が飛散する
台風で多く発生し被害面積も大きい
温帯性低気圧や前線にともなう突風では被害は局所的被害形態湾曲、傾斜、幹折れ、根返り
根返りと幹折れは樹木に作用する風圧によって発生

c) 塩風害(塩害): 海風・台風により多量の塩分 → 葉の変色という被害形態

付着した塩分が気孔を塞ぎガス交換を阻害
塩分が気孔、表皮あるいは傷口から、細胞内へ侵入し生理作用を阻害

細胞凍結 cellular freezing


細胞内凍結 intra-cellular freezing
細胞内部に氷ができる凍り方 → 致命的

→ 凍結回避freezing avoidance: 凍結の影響が原形質 から排除される状態

細胞外凍結 (結氷) extra-cellular freezing
細胞外側(細胞間隙)にだけ氷晶が成長する凍り方

細胞種により相当低温でも致命的ではない
細胞外凍結は、細胞外部氷晶発達につれ細胞内部から脱水起こり細胞収縮し細胞はより凍りにくくなる
→ 脱水状態に長期間耐えるもの、細胞内凍結が起こりにくいものが耐寒性大

ストレス回避 stress avoidance


抵抗性 resistance
植物器官が生理的か病理的要因による障害に部分的または完全に耐えるか打ち勝つ能力

= 環境による障害の影響に抵抗し中和する手段
(s.l.) ストレスの影響を受けない間に生育過程を完了させる回避性 avoidance 含む

耐性 tolerance
植物がストレス下で軽症(無害)で生存する能力

= 不適環境下で生育・成長する相対的受容力

低温ストレス回避 cold stress avoidance

低温ストレスの組織への浸透を阻止または軽減すること
デハードニング dehardening
耐寒性低くなること。気温上昇し生育開始後、急激にデハードニング起こる

→ デハーディネス dehardiness: 春5°C位になると低温抵抗性消えること

ハードニング(硬化) hardening
耐寒性高まること
一般に低温 + 短日(秋口気候)誘導

秋-冬に最低気温5°C以下の日続くと急に耐寒性大きくなる
越年生植物は遺伝的に大きな耐寒性備える

低温耐性 hardiness: 糖濃度等増加により-25-30°Cまで耐える (eco-physio-chemical change)
馴化 acclimation
新環境条件に曝され起こる修正 → ストレス耐性・抵抗性示す生理的変化伴う

ストレスタンパク stress proteins: ストレス誘導タンパク Ex. 低温誘導タンパク、高温誘導タンパク

低温馴化 cold acclimation: 秋-冬に生じる耐凍性増大過程

凍結保存 cryopreservation: 種子・植物組織・培養細胞を凍結温度下で長期生存・保存する技術

主に糖類やジメチルスルフォキシド等の凍害防御物質を添加する方法で液体窒素温度下(-196°C)で保存

過冷却 super cooling: 温度が凝固点以下でも液体が凝固しない状態
氷核活性細菌 ice nucleating bacteria: 水が凍るための核を作り-2~-3°Cで植物組織の水を凍らせる細菌。過冷却するはずの植物組織の水を水温域で凍らせ、凍結に弱い植物に致命的な被害となる

表2. ストレス要因と植物の耐性(抵抗性)
1) 非生物的ストレス

耐冷性: chilling tolerance (resistance): 水稲・マメ類等の冷温耐性(s.l.) ↔ 耐冷性品種: 減数分裂期頃の冷温による不稔障害発生しにくい品種(障害型冷害抵抗性品種)を指すこと多い

穂ばらみ期耐冷性 chilling tolerance at booting (bud) stage: イネ障害型冷害は主に花粉形成発達が低温により阻害され生じる → この時期(穂ばらみ期(豆類は蕾期))の低温耐性
開花期耐冷性 chilling tolerance at flowering stage: たとえ充実花粉が正常形成されても開花期に低温に遭遇すると受精阻害され不稔生ずる → これに対する耐性

初期耐冷性 (幼苗期耐冷性) chilling tolerance at seedling stage: Ex. イネ直播栽培 → 低温下での発芽直後の生育がその後の生育に大きく影響 → この初期生育時期の耐冷性 = 初期耐冷性

耐寒性 cold tolerance (resistance): 植物体が凍結下で生存できる性質。耐雪性、耐霜性含む (s.l.)、耐凍性のみ(s.s.)。植物・昆虫等が低温下で生存するには、細胞内過冷却能力が高く凍結起こりにくいか、細胞外凍結状態が続いても被害を受けない耐性必要
耐凍性 freezing tolerance (resistance): 植物体が氷点下低温凍結に耐える性質。少雪地帯厳寒地で重要

北海道・カナダ等多雪地帯も根雪前に凍結温度に曝される → 秋播小麦・多年生牧草等は耐凍性重要

耐氷性 encasting tolerance (resistance): 本格的低温降雪前の降雨や春先の融雪期の降雨で冠水し、その後 の気温の急激低下により植物が冠水し窒息したり、組織が破壊されることに対する耐性
耐雪性 (s.s.)
耐霜性 frost tolerance (resistance): 初霜・晩霜時低温(-1~-3°C)への耐性 ≈ 耐寒性

夏には幼苗期の低温により茎葉に障害を受けたり、秋期の低温により登熟障害を受ける

冬季乾燥耐性 winter drought tolerance (resistance)

植物が冬季の凍結・強風等による水分欠乏に耐える性質。一般に水分欠乏を起こさない機能や構造を備える場合(気孔開閉や根系発達等)と、水欠乏による障害ある いは再吸水時の障害に対する抵抗性の両者を含み、耐凍性と密接な関連がある

2) 生物的ストレス

雪腐病抵抗性 snow mold resistance (tolerance): 冬季積雪下で植物に寄生・加害する各種雪腐病菌により発生する雪腐病抵抗性。雪腐病害は積雪条件で目立つ ≈ 耐雪性 → 雪腐病抵抗性(厳密には異なる)

3) 複合ストレス

耐雪性 (s.l.) snow tolerance (resistance,endurance): 積雪下での越冬能力 = 雪に関わる複合的ストレスへの耐性

積雪 > 50 cm → 温度0°C程度かつ暗黒 → 光合成できず貯蔵養分消耗
→ 耐凍性・雪腐病抵抗性低下 + 融雪時の湿害等の生理的障害受けやすくなる
+ 樹木等が豪雪に会うと機械的雪害発生

耐冬性: winter hardiness: 冬季低温環境下で起こる種々のストレス全体に耐える性質

= 耐寒性(耐凍性含) + 積雪(耐雪性) + 雪腐病抵抗性 + … → 個々のストレスの影響区別しにい

越冬性 winter survival: 耐冬性に加え、冬枯れの被害を回復する能力、萌芽力まで含めた性質。越冬後の枯死程度、葉枯程度、その後の再生状況などにより判定する

塩分ストレス salt stress (塩害 salt damage)


葉に直接 + 高塩分土壌
被害強度 ⇔ 塩種類・濃度 + 植物種 + 生育段階

Ex. 葉褐変 - クロロシス - 落葉・枯死

浸透圧ストレス: 給水阻害 = 水ポテンシャル低下 - 給水困難 →

気孔開度低下、葉萎、光合成産物転流阻害

イオンストレス: 特定イオン(Na+, Mg++等)過剰 - 他イオン吸収抑制

Na+: K+, Mg++, Ca++吸収低下 → 生育障害(過剰障害)

Ex. 塩害による落葉・枯死要因

1. 高濃度塩類による原形質分離・吸水阻害
2. 塩分異常吸収による樹体生理変調
3. 日焼による枯死助長

耐塩性 salinity tolerance

生理的応答
細胞液中は高塩分(NaCl) = 高浸透圧

マングローブ植物 150 atm (スダジイ、ウバメガシ 30 atm)

生態的応答: 発芽期 - 最も塩類ストレスを受けやすい
Ex. マングローブ植物マングローブ

胎生種子 viviparous seed: 樹上で成熟・発芽 (閉果)
担根体 rhizophore: 根成長後に母樹から離脱落下 - 発根

≈ 散布体: 海流散布

塩生植物 形態的応答
高塩分 - 葉小型化、肥厚、面積当気孔数減少、蒸散量低下
ハマアカザ(耐塩性植物): 塩毛 (salt hair) - 塩分貯蔵 →

風等により物理的除去 = 植物体から塩分除去

生理的応答: 塩分低下
塩分排除: 根 = 吸収抑制 + 再排出 + 液胞貯蔵
Ex. ヒルギダマシ Avicennia marina, 先駆種: 塩類腺 salt gland - 葉表面 →

過剰塩分を体外排出

浸透圧形成 - 体外(外液)より高い浸透圧必要

潮害 tidewater damage

原因 = 潮風 + 波(高潮・高波・津波) → 植物が塩分暴露
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