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(2024年4月8日更新) [ 日本語 | English ]

栄養段階 (trophic level)






有珠山 / サロベツ泥炭採掘跡
1986年, 2006年の有珠山火口原. ワタスゲ・エゾカンゾウ

宮沢賢治「よだかの星」
ああ、かぶとむしや、たくさんの羽虫が、毎晩僕に殺される。そしてそのただ一つの僕がこんどは鷹に殺される。それがこんなにつらいのだ。ああ、つらい、つらい。僕はもう虫を食べないで飢えて死のう。いやその前にもう鷹が僕を殺すだろう。いや、その前に、僕は遠くの遠くの空の向うに行ってしまおう。

[ 栄養段階 | 食物網 | 物質循環 | 安定同位体 ]

栄養段階 (trophic level)


物質循環 + エネルギー流 → 食物連鎖(food chains, 食物網 food webs)
(一次)生産者(P, (primary) producer)

生態系栄養動態論trophic dynamicsから見た無機栄養生物(独立栄養生物, autotroph)(生物群)。栄養段階の最基底をなす。無機物から有機物合成。緑色植物(特殊環境下の光合成細菌・化学合成細菌含む)

消費者(C, consumer)
従属栄養生物中、取り入れた有機物の大部分をエネルギー順位の低い有機物に分解することを主に行う生物(群)。動物と他養植物(菌類・細菌類含めない)が属するが、普通は動物だけを指す。分解者との境界は曖昧で便宜的なもの。広く従属栄養生物全体を指す(s.l.)

第1次消費者(C1, primary consumer): 生産者(=緑色植物)あるいは生産者死体(落葉・枯死体等含む)を食べる。一般に草食動物(Ex. 昆虫)
第2次消費者(C2, secondary consumer): 第1次消費者捕食。小型肉食動物等
第3次消費者(C3, thirdary consumer): 第2次消費者捕食。中型肉食動物等
···
段階が増すにつれ一般に捕食能力が高くなり大型化 → 個体数少なくなる(Eltonian pyramid)
発育ステージあるいは同ステージにおいても消費者内の段階を変える種は少なくない

索引
分解者(還元者) (D, docomposer or R, reducer)
有機栄養生物で遺体・排出物あるいはその分解物を分解し、その際生じるエネルギーで生活。有機化合物を生産者が利用出来る無機化合物に戻す役割を果たす生物(群)。普通、他養性バクテリア・菌類を指すが、消費者との境は曖昧で、厳密にはバクテリアも動物も消費者及び分解者の両方の役割を果たすので、広く有機栄養生物全体を分解者と呼ぶ場合は消費者と同義となる
転換者(Transformer)
生態系の栄養動態(trophic dynamics)を特にエネルギー流(energy flow)を中心に見た場合における緑色植物以外の生物あるいは生物群の呼称。消費者・分解者の他に化学合成生物を含む

食物網 (food web, food complex, or 食物環 food cycle)


生物群集の食う・食われるの結びつき (Elton 1927)
P → C1 → C2 → C3 → C4 → C5
__↘ ↓________________
D ← ← ← ← ← ← ← ← ← ←
______________食物連鎖 food chain
太陽光線を用いたエネルギー循環とみなす
web

エネルギーピラミッド Energy pyramid

仮定: 定常状態
i番目の栄養段階trophic levelでのエネルギーの出入り
Pi – 1 = Pi + Ri: i番目に入るエネルギー量
Pi–1Pi = Ri > 0 (熱力学の第2法則)
Pi–1 > Pi
Pi–1/Mi: エネルギー代謝効率

単位iレベルで、その量を維持するためのエネルギー
⇒ 栄養段階を通じて同じ

Pi–1/Mi = Pi/Mi+1
Mi > Mi+1

動物でのエネルギー代謝機構が共通(植物では逆転することもある)

食物網でのエネルギー循環動態
定式化は可能である(解けるかどうかは別問題)

web
各種のバイオマス: (x1, x2, … , x5)

各生産者producerが取りいれるエネルギー μi (i = 1, 2, …, n)は全てのxiに依存する

dxi/dt = Fi(x1, x2, … , x5), i = 1, 2, …, 5

P ⇒ B (black box) ⇒ R

競争、捕食-被捕食等の結合を取り入れた上で上式は作られている
すると定常状態は

Fi(x1*, x2*, … , x5*) = 0
そのときのバイオマスが x1*, x2*, … , x5*
そのときの総バイオマスは B = Σi=15xi*

総エネルギー入力 total energy inputは P = Σi=1sμi(x1*, x2*, … , x5*)

ここで
η = B/P: turnover time – 単位太陽光線あたり維持できるバイオマス量
Π = 1/η = B/P: turnover rate - 定常に維持する限り必要な単位生物界あたりの太陽光線エネルギー

ηが大きい(= Πが小さい)ほど効率がよい

ここでいかなる相互作用interactionのときにηが大きくなるのか = 食物網の構造を調べる

Margalef's hypothesis
"successionはΠが小さい方に進む"
多様性(diversity ≈ complexity)が大きいほど安定性stability大
Pr. (by May R)

dxi/dt = Fi(x1, x2, … , x5), i = 1, 2, … , 5, xi = 第i種の個体群密度
dxi/dt = Fi(x1, x2, … , x5) = 0

1. 定常点(x1*, x2*, … , x5*)を探す
2. xi* ≥ 0 (全てのiにおいて)定常点がみつかるか
3. 2があるなら、その点は安定か

xi = xi* + ξi (i = 1, 2, … , 5)
i/dt = Fi(x1* + ξ1, x2* + ξ2, … , x5* + ξ5)

= Fi(x1*, x2*, … , x5*) + Σj=1sxj(∂Fi/∂xj) (Taylor展開)

i/dt = Σi=1sAijxj … (1) (Aij = (∂Fi/∂xj)x = x*
xが揺らぐときに定常点に戻るかどうかはこの式によりわかる
群集マトリックスcommunity matrix: Aij = web

対角線上(i = i)は種内関係。それ以外はi種に対するj種の影響

if Aij > 0 → (1)においてξjが増えるとdxi/dtが増え、ξjが減るとdxi/dtが減る
この時jはiに対しactivatorである。逆の関係ならinhibitorである

ijの関係はcompetitior: Aij < 0, Aji < 0
ijの関係はcooperator: Aij > 0, Aji > 0
ijのpredator: Aij < 0, Aji > 0

系の安定性・不安定性は、この群集マトリックス値の組合わせでわかる
i/dt = ΣiAijξj
固有値 web
⇒ この根λ1, λ2, … , λsにおいてλ1, λ2, … , λsの実数解が全て負であれば(x1*, x2*, … , x5*)は安定

1970 Gardner & Ashby

群集マトリックスAijの値をランダムにおいてλ1, λ2, … , λsの実数解をもとに確率的に安定性を調べ、sが大きいと殆どの場合が不安定と指摘

1972 May

s: 種数
c: 相互作用の組み合わせcombinationの数
σ: 関係の度合いの強さの変異 variety
Aij = Bij – 1の形にしs2個あるBijのうち0でないBijの数をcとする。そのBij値は平均0、分散σ2になるようにランダムに決める。これを反復して行い実数解が全て負になる場合を確率的に求めた

σ√(sc) > 1: almost always unstable
σ√(sc) < 1: almost always stable

σ√(sc)は多様性尺度の1つと見なせる
→ 多様なほど不安定
→ 種の相互関係Bijをランダムに入れたための結果(実際にはランダムとは考えられない)

1965 Quirk & Ruppert

定性的安定性原理: a-d全てを満たすときに安定
a) Aが既約 |A| ≠ 0
b) Aij ≤ 0 for all i, and Aii ≠ 0 at least one i
c) Aij·Aji ≤ 0 for all i ≠ 0
d) Aij·AjkAqr·Ari = 0 for all loop sequences

dの意味はloopを作ることがないことを指す

______________ +
〇 ⇄ 〇______i ⇄ 〇j
__loop_________ -

1974 Robert, 1975 Gilpin, 1977 Goh & Jennings

Exsistence of positive equiliblium: これまではxi*に正の解があると仮定していたがこれを撤廃する
Lotka-Volterra model

dxi/dt = (bi + Σjaijxj)xi (i = 1, 2, … , s)
dxi/dt = 0のためにはxi* = 0 or bi + Σjaijxj = 0

xi* = 0は絶滅モデルを指すので無意味
xi* > 0 (i = 1, 2, … , 5)の解が存在する確率は2-sになる
→ 全てが生存でき安定になる確率(幾つかが絶滅し安定する確率は意味しない)

ここまでのモデルでも数学的明確性を要求し、モデルを単純化しすぎ
今後、現実系の特性を反映させたモデルを作る必要 (1985 寺元)
森林 (forest)
暖帯林 temperate forest
Temperate forest
亜高山帯 subalpine zone
Subalpine forest
湖沼 (池・小川)
Pond
珪藻(P) → ミジンコ (C1) → 小形魚 (C2) → 大形魚 (C3) → ゴイサギ (C4)
草原
イネ科植物 (P) → バッタ (C1) → クモ (C2) → カエル → ヘビ → タカ
アユの食物連鎖 food chain of sweetfish
        ┌──→[ アユ ]─────┐
    [ 藻類 ]───────────│→[ オイカワ・カワムツ ]
       ↑ └─→[ 水生昆虫 ]───↓─↓→[ カマツカ ]
 [ 栄養塩類 ]←─────────[ 微生物 ]←─┘
水生生物群集 (海浜タイドプール)
Tide pool

食物連鎖の長さ

トポグラフィー網の一般則(Pimm 1982, Cohen et al. 1986)

食物連鎖長は平均3程度で、5を越える事は殆どない ↔ 7以上の報告例

食物連鎖長の上限規定機構

  1. エネルギー制約仮説 energy constraint hypothesis
    n次消費者個体重量 = Wn、個体数 = NnN1·W1 > N2·W2 > N3·W3 > ··· > Nn·Wn
    上位栄養段階の生物ほど利用可能なエネルギー減る → 上限形成
  2. 動的制約仮説 dynamic constraint hypothesis
    長い食物連鎖は系が不安定になり存続できない → 上限形成 (要検討)

他要因

生殖場所の異質性habitat heterogeneity → 連鎖長くなる
環境ストレス・撹乱 → 連鎖短くなる
生態系サイズ → 大きいほど長くなる

ボトムアップ・トップダウン制御 bottom-up/top-down control

捕食者
↓ 捕食が植食者制御 top-down control
↓ └ 栄養カスケード(Power 1990): 捕食者除去実験
植食者
↓ 餌資源制約が植食者制御 bottom-up control
↓ └ 緑世界仮説 green world hypothesis (Hairson et al. 1960) (否定的)
植物
栄養カスケード trophic cascade
淡水生態系の例

↓ -  [最上位捕食者 (シャチ)] + ↓ 肉食性魚類除去*
↓ + [捕食者 (ラッコ)]              - ↓ 肉食性昆虫密度10倍増加
↓ -  [植食者 (ウニ)]               + ↓ 植食性ユスリカ80%減少
   + [一次生産者 (コンブ)]     -     植物(藻類) 3-120倍増加

生態ピラミッド (ecological pyramid)


三ピラミッドの総称
1) 個対数ピラミッド (数のピラミッド) Eltonian pyramid
普通小型動物が大型動物に捕食される + 小型動物は大型動物より速やかに増殖 → 食物連鎖段階(栄養段階)が進むにつれ相対的に個対数減少
食物サイズ = 口器に限定される → food chainは4-5 steps程度。同様に大きさ下限存在optimum problem
一定地域の生物を食物連鎖段階毎にとりあげ個体数を調べると一般にピラミッド状になるが時には逆転する

Ex. 1 一本の大きな木にそれを食べる蛾の幼虫が多数生育
Ex. 2 寄生連鎖: 鳥 → 蚤 → レプトモナス(原生動物) → バクテリア → バクテリオファージ

2) 現存量ピラミッド biomass pyramid
現存量を栄養段階ごとに並べるとピラミッド状になる

現存量 standing crop: ある時点で単位面積上に存在する生物体総量biomass

3) 生産量(エネルギー)ピラミッド
各栄養段階出入単位時間当たりエネルギー量(生産速度)
一般に栄養段階が1段上がる毎にエネルギー量は1/10-1/100減り完全なピラミッド状となる。また、植物生産量中、三次消費者生産にまで回るのは1/1000程度であり、多くの生態系で栄養段階数が3-5で収まるのはこのためである(Lindemann 1942)

Ex. 湖のプランクトン(プ)は、植物性プより動物性プが現存量で上回る場合があるが、エネルギー量で示すとピラミッドの逆転はない。植物性プは短時間に成長し捕食を含めた死滅を繰り返すからである。諏訪湖の植物性プの年間平均現存量は0.07 t/ha(d.w.)だが、年間59世代繰り返し1年間に生産されるプランクトン総量は4 t/haに達する。ある段階の生物体が次の生物体として再生産される時、必ずエネルギーが呼吸等で失われエネルギーピラミッドは倒立しない

各栄養段階のエネルギー効率は栄養段階が上がるごとに一般には高まる。栄養段階の高い動物ほど一般に感覚や運動能力においてすぐれており、利用しうるエネルギーを効率よく利用できると考えられる
Lindeman (1942)

exmaple
栄養段階-生態系 → エネルギー移動(個々の生物に着目したのではない = 個々の種の役割は述べられない)
→ 栄養動態論 trophic dynamics

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