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(2013年8月21日更新) [ 日本語 | English ]

渡島駒ヶ岳における植物群集動態






有珠山 / サロベツ泥炭採掘跡
1986年, 2006年の有珠山火口原. ワタスゲ・エゾカンゾウ

はじめに
火山活動と植物群集動態 - 渡島駒ケ岳を事例として [ 植物群集 | 生物学的侵入 | ファシリテーション | 種子植物と菌根菌 | 動物-植物関係 ]
• 1929年噴火 [ 植生回復 | 噴火史 ]
噴火, 森町, 七飯町
• 参考: ぐるーり駒ケ岳, 駒ケ岳登山で見つけたカラマツファミリー ハコダテ150+, さわやか自然百景 北海道 駒ケ岳 2003年4月27日放送分を探して!
特徴とキーワード characteristics and the keywords

種と植生 species and vegetation

生物学的侵入 biological invasion (by larch)
定着促進作用 facilitation (by willow patch)
相互作用 interactions (between birds and plants)

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はじめに


 北海道渡島駒ヶ岳 (図1) は1929年の火山活動により、大量の噴火降灰物が地表面を覆い、植物群集の大半は消失した。その後、群集回復は徐々になされていたと考えられるが、現在、(個人的には極めて不愉快である) カラマツ (Larix kaempferi)が山頂部において優占している。この要因を解明するために、航空写真からカラマツ侵入過程を調べた。その結果、拡大造林時代に植林された山麓部のカラマツ林から極めて迅速にカラマツが駒ケ岳全域に侵入・定着していることが明らかとなった (図2) (近藤才寛)。ついで、標高別に林分構造を調べ、成長過程を明らかにし、カラマツの定着特性を明らかにする予定である。予報的には、在来種よりも、概ね、カラマツの方が加入・成長・死亡がいずれの場所においても高い。

 1996年より山頂部において小規模な噴火(水蒸気爆発)が発生した。小規模ではあるが、場所によっては数10 cmの噴火降灰物の堆積が認められ、その上に噴火翌年に永久調査区を設置し群集変化の追跡を開始した。しかしながら、5年間の継続調査間に、大きな群集構造の変化はない。

火山活動と植物群集動態 - 渡島駒ケ岳を事例として


露崎史朗 (北大・院地球環境)

2001年 日本植物学会北海道支部会 (函館)要旨 [改変]

 2000年の有珠山・三宅島噴火は、ホットなニュースであったが、Ring of Fireとあだ名される環太平洋火山帯に属する日本には86の活火山があり、(渡島)駒ケ岳の1996-2000年水蒸気爆発等の小噴火を数えれば日本のどこかで、毎年、噴火が起こっているといっても過言ではない。火山活動の影響は、地球レベルでは、火山噴出物が成層圏に達すると地球規模で温度低下が起こる。火山活動、および、それに伴う地震や津波は、時として大きな人災を引き起こす。当然ながら、植物群集の発達にも、様々なスケールで噴火活動の影響が強く表れている。火山噴出物は、貧栄養であり、噴出物が軽石・火山灰を主体の場合には、貧栄養に加え、降灰物の地表面移動に伴う撹乱(disturbance)は大きなものであり、植物群集の侵入・定着は、これらに対する様々な適応様式の組み合わせによってなされている。
 噴火直後の環境は、短時間で変動し、それに伴う群集変化も著しい。火山活動は、タイプ、規模、頻度により異なる影響を陸上植物群集に与えるが、撹乱を受ける群集側も地理的レベルでも地域レベルで異なる。そこでまず、個々の火山における植物群集の初期動態を明らかにする必要がある。駒ケ岳は1929年に大噴火を行なった後、小康状態を保っていたが、1996年以降小噴火を数回繰り返しており、これらの調査に適した場所の1つといえる。そこで、北海道渡島駒ケ岳を事例として、火山噴火直後の植物群集成立機構を見ていきたい。

1. 植物群集


 2000年に山頂部においてフローラ(植物相, flora)調査を行い、75種の種子植物を同定確認した。その特徴として、海岸近くで高標高まで発達した火山であるため、オオウメガサソウのような海岸植物からイワギキョウのような高山礫地に生える植物までが認められ、2) 比較的大規模な噴火を繰り返した結果として軽石・火山灰を主体とする貧栄養土壌のために、モウセンゴケのような植物も認められるという、特色あるフロラを発達させていることがあげられた(花田安司・新沼寛子, 指導教官 長谷昭)。
 1996年噴火直後から、噴火降灰物の厚さ沿い調査区を設け、経年調査を行なっている。その結果、a) 噴火降灰物の堆積により、地衣類コケ類は激減し、これらの植物は現在でもほとんど増えていない。b) プロットあたりの平均種数は、2000年までいずれの調査区においても大きな増加は見られない。c) 維管束植物では、低木種であるミネヤナギが噴火の被害を逃れ生存し、徐々にではあるが被度を拡大している。最も被害の大きかったところでは、ウラジロタデ、タルマエソウ、ヒメスゲが5年間を通じ観察された。ただし、種組成に大きな変化はない。以上のことから、噴火降灰物の厚さが数10 cm程度であれば、群集回復は、噴火による被害を免れた維管束植物によって主としてなされると考えられる。なお、長期観測は、植物群集動態を実証できる唯一の方法ともいえ長期生態学研究 (LTER, Long-term Ecological Research)データベース化が国際的に始まっている。

2. 生物学的侵入


 生物学的侵入(biological invasion)とは、帰化植物が自然生態系に定着する現象を意味し、撹乱地でよく観察される。駒ケ岳には、自生しないカラマツが山頂部一帯で優占している。2000年にカラマツおよび在来樹種代表としてダケカンバの種子を、山麓に播種し追跡調査を行なっている。これまでに、a) カラマツ発芽率は標高により異なるが、ダケカンバ発芽率は標高間で差がないが裸地で低い、b) 越冬後のカラマツ実生の生存率は標高間で異なるが、ダケカンバでは差がない、c) カラマツ・ダケカンバ実生樹高成長は高標高ほどよく、カラマツはミネヤナギパッチ中で、ダケカンバは裸地でよい、ことが明らかとなっている。現在、これらの実生とそれ以上大きな個体(幼木sapling)とのつながりを解析中である。(赤坂宗光)

Koma Larch
図1. 駒ケ岳。太枠の範囲が図2で示した部分。L1-L6は調査区位置(ここでは関係ないが) 図2. カラマツ侵入状況。左から、1963年、1977年、1994年。枠内の色の違いは林冠直径が2 m以上のカラマツ密度を示す。□ 0, 1-5, 6-10, 11-20, 21-40, > 40。一枡が100 m × 100 m (1ヘクタール)の大きさ。(Kondo & Tsuyuzaki 1999)

3. ファシリテーション


 ファシリテーション(定着促進作用, facilitation)とは、ある種がそこに存在することにより他種の定着が促進される現象のことをいう。極相のような混み合った群集では、競争関係が強く、このような現象が見られることは稀だが、裸地に近い景観となる火山や砂漠においては、多種が同一場所に定着することにより、風圧緩和や種子侵入促進等の作用を複数種が共同で行なっていることがある。駒ヶ岳においては、ミネヤナギがパッチを形成し、そのパッチ内は裸地と比べてイワノガリヤス、ネジバナ、カラマツ密度が有意に高く、これらの種に対する定着促進が見られる。しかしながら、ヤマハハコやイワブクロはミネヤナギパッチ内よりも裸地で密度が高くなる。シラタマノキもパッチを形成するが、このパッチは、多くの種子植物定着に対して阻害的効果を持つようである(上坂尚平)。しかしながら、標高傾度を変えるとファシリテーションの効果は、変化している。この様子を追跡調査している(松田みゆき)。

4. 種子植物と菌根菌


 菌根菌(mycorrhizal fungi)は、土壌栄養の豊富な発達した植物群集中では、種子植物に寄生的に定着していると考えられているが、火山を含めた貧栄養土壌下では、種子植物の根が届かないところまで菌根(mycorrhiza)を発達させ、特にリン等の土壌栄養を種子植物に供給している減少が認められる。このことから、火山や砂漠等においては菌根を有する種子植物が定着に有利とする仮説が提唱されている。しかしながら、この仮説には反証データも提示され、現在議論の余地のある部分である。駒ケ岳において、2000年に駒ケ岳南西斜面に定着していた種子植物56種について菌根菌の有無を調べ、多くの種が菌根を有し、特に高標高では外生菌根が増える傾向が弱いながらも認められた。(新沼寛子, 指導教官 長谷昭)。
 このように、火山という撹乱と貧栄養ストレスを受け続けている環境下では、極相には見られない独特の群集発達機構が見られる。

5. 動物-植物関係


ヤマウルシ vs ハシブドガラス

 駒ケ岳では、森林帯を越えた比較的高標高までヤマウルシの定着が見られる。この理由には、ヤマウルシの生活史特性(特に林冠種子貯蔵と発芽特性)とカラスの行動様式が深く関わっている。即ち、カラスは冬季にも生息しており、林冠種子貯蔵を行なうヤマウルシの果実を利用する。ヤマウルシの種子は、カラスの糞中から、通年で確認できる。こられのことを結びつけるならば、ヤマウルシの実は、カラスにとって1年を通じて貴重な餌資源であり、カラスは、ヤマウルシにとって大事な種子運搬者である(西秀雄)。

1929年噴火後の植生回復


1929年爆発以前の植物群落(Yoshii 1932; 吉井 1942) = 1855年(安政3年)大爆発後の再生

草原(海抜 > 300 m): 主要植物ススキ・トダシバ・オミナエシ・オトコエシ・メドハギ・ヤマハハコ・ワラビ
樹林: 最高限界複雑。限界付近はミヤマハンノキかダケカンバ単純林・混交林

山麓-中腹 ≈ 落葉広葉樹林

裸地: 岩壁及び岩砕、砂礫地

1929年6月噴火 (the history of eruptions)

29.8, 1回目(+ 30.8, 10, 31.8, 33.7, 35.7, 38.8計7回) 調査ヶ所変更あるが同場所必ず数ヶ所調査
噴出物による植物被害 ← 熱灰・火山灰屑・火山灰
被害地調査: 被害様式区分

  1. 赤石川浮石流流域
  2. 鹿部・留ノ湯方面浮石堆積地: 爆発後2ヵ月目調査はカシワ(稀)を除き萌芽確認されない
    堆積浮石流を掘ると樹皮は傷ついても内部革皮部は生存
    ← 赤石川浮石上被害と再生能力が根本的に異なる
  3. 砂原方面火山灰堆積地: 被害は殆どなかった

大爆発が植物に与えた被害は浮石流域にあった植物の燃焼と岩石(浮石)が厚く堆積し植物を完全に被覆したことが主

噴火後植生動態

[新生]
浮石堆積地: 堆積後3-4年 ← 表面の噴火降灰物は風化し幾分かは崩壊 ← 特殊な植物の侵入・発育
浮石流域: 最も甚だしい被害のあったところ。

2年後(1931年)には浮石に単細胞緑藻が着生
(水流により生じた)浮石流低平地に多数のスギゴケ
顕花植物確認できない
4年後には多数の実生が発育 (発育は浮石堆積地と比較すると劣る)

[浮石堆積地の再生]

4年後: バッコヤナギ・イヌコリヤナギ・シラカンバ・ススキ・オオイタドリ
36年後: シラカンバ・ドロノキ・カラマツ (陽樹林)
溶岩流上遷移と比べ植生形成速度速く、むしろ二次遷移的特徴みられる

再生は被害程度に応じて駒ヶ岳では、おおよそ次の3型に分けられる

  1. 樹林の樹木が悉く故死した場合には浮石原における場合とほぼ同様にダケカンバ・ヤナギ類の陽樹とオオイタドリ・ウラジロタデ等の草本が侵入して漸次陽樹の粗林となる。
  2. 樹林の被害が著しく唯一抵抗性の強い樹種が再生する場合には当初浮石原と同様にオオイタドリが繁茂し、ついで多数の陽樹や草本が侵入する。これとともにススキ・ワラビ等の残存植物が下生植物として繁茂してやや安定の陽樹林となる。
  3. 樹林の被害が軽微の場合には多数の被害木は再生して叢林様の樹林が成立する。なお、多少の陽樹も侵入するが特に著しいのは下生植物として上記の好陽生の草本が密生することである。

[島] 噴火後における島 = 溶岩流中に残された島の植物 ← 駒ヶ岳でも随所で観察

一般には島は浮石流にあっては凹地となっている。火山植物群再生上、島はその回復力が他に比べて大きく重要なところである。つまり、飛来した種子の発芽や発育が容易である。また、このことは一般に火山の植物分布が不規則で斑状をなす主要因と考えられる

(Yoshioka 1966)

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