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(2013年1月22日更新) [ 日本語 | English ]

報告書 (Activity reports)






有珠山 / サロベツ泥炭採掘跡
1986年, 2006年の有珠山火口原. ワタスゲ・エゾカンゾウ

• 雑録 [ 報告書 | 植物学会 | 生態学会 | 講演(含 他学会要旨) | 書評・コラム | 報告書 (温室)| 参考文献 ]

 何の報告に使ったかすら思い出せないのもあるが、もったいないので、ここに貼り付けておこう。

タイトル 発表者 報告
火山における植生回復過程に関する基礎的研究 -特に渡島駒ヶ岳において- 露崎史朗 1998 秋山記念生命科学財団 研究成果報告集, 財団法人秋山生命記念財団 9: 147-150
植生パターンの形成プロセスに関する研究 露崎史朗・神田房行 1995 平成6年度科学技術庁委託調査研究報告書 pp. 89-96

火山における植生回復過程に関する基礎的研究 -特に渡島駒ヶ岳において-

Vegetation recovery patterns on volcanoes, a case study on Mount Koma


Tsuyuzaki & Hase (2005)プロトタイプにKondo & Tsuyuzaki (1999)を加えたもの

研究期間1996年-1997年 報告年度199 年

代表研究者 北海道大学大学院地球環境科学研究科地域生態系学講座 助教授 露崎史朗
Shiro Tsuyuzaki, Associate Professor of GSEES, Hokkaido University

Summary

I surveyed the vegetation recovery processes on Mount Koma, northern Japan, that erupted at late winter in 1996, from 1996 to 1997, based on 400 50 cm × 50 cm permanently-marked plots. In addition, the establishment pattern of Larix leptolepis was analyzed by aerial photographs. The vegetation damages and recovery paces were related with the thickness of volcanic deposits. Lichens recovered gradually after the eruptions, although the cover was low. Except for Carex oxyandra, the cover increase of herbaceous plants was low. Gentiana zollingeri recovered in slightly-disturbed areas, but they did not establish intensively-disturbed areas. L. leptolepis invaded greatly on the summit area after 1960's and was predominant thereafter, perhaps due to its high tolerance to stressful environments.

概要

 北海道渡島駒ケ岳において1996年噴火の植生への影響とその後の植生回復様式を400個の50 cm × 50 cmの永久調査区を設け、1996年から1997年にかけて調査した。あわせて、駒ケ岳山頂部におけるカラマツ侵入様式を航空写真から判読した。
 植生被害と回復の度合いは堆積した火山灰の厚さとおおむね対応していたが、個々の種における対応様式は異なるものであった。地衣類は、もっとも被害の激しかったところにおいても1997年には前年よりも被度を増加させていた。コケ類の定着は中害・激害地区ではほとんど認められない。草本植物では、ヒメスゲを除くと回復は遅い。ヒメスゲは、主として栄養繁殖によって植生回復を行っていた。フデリンドウは微害・中害地区では回復が認められたが、未だ激害地区には侵入できていない。その他の草本植物の定着は全体に不良である。木本植物では、ミネヤナギの回復が顕著であるが、これは主として萌芽再生によるものであった。一方、萌芽再生力の低いシラタマノキの回復は遅い。以上のことから、火山灰の堆積した厚さが植生の被害には大きく関与しているが、その後の回復には、火山灰の厚さのほかに土壌移動が関与しており、土壌撹乱に耐えうる機構を発達させている種が素早く回復を行っていると結論した。
 カラマツの侵入は1960年代から始まり、現在山頂部でもっとも優占する木本植物となりつつある。特に、侵入初期には種子供給起源からの距離が大きく侵入様式を規定していたが、その後は立地条件が定着に関与することが示された。

はじめに

 火山噴火に伴う環境変化は極めて大きなものがあるにもかかわらず、遷移初期過程における植生動態には不明の点が多い。特に、噴火降灰物が軽石・火山灰を主体とする遷移初期段階においては従来提唱されていた仮説は適応できず、初期から木本植物を含む様々な生活形の植物が侵入することが特徴である1)。 火山遷移機構解明のためには、初期段階からの継続的データを得ることが必要であるが、そのようなデータ蓄積はこれまでなされていない。環太平洋火山帯に属する北海道は多くの活火山を有し、遷移研究には好適な地域である。渡島駒ヶ岳は1996年3月5日に小規模ではあるが火山灰性の噴火を行い、噴火直後から継続調査を行う絶好の機会が与えられた。

調査地と方法
調査地

 渡島駒ヶ岳(42°04'N, 140°42'E)は、渡島半島に位置する成層火山である。駒ヶ岳の噴火は1640年以来10数回知られており、1929年の噴火において山頂部はほぼ裸地化した。山頂北部は急斜面が続き、多数の崖が存在し、山頂東方に大規模な亀裂や火口が存在する。火口付近はなだらかな斜面が続いている。山頂域全域にわたって軽石・火山灰等の火山噴出物に覆われ、土壌は未発達のところが多い。

調査方法

 1996年噴火降灰物の堆積した厚さの異なる4地点、激害区(I)[火山灰の厚さは数cm以上、火山灰に全面を覆われる]、中害区(M)[数mm程度、火山灰に全面を覆われる]、微害区(S)[数mm以下、火山灰に全面は覆われていない]、無害区(U)[前回の噴火降灰物が堆積していない]を選び各々に50 cm x 50 cmの永久調査区を100ずつ設定し、出現した各種の被度を測定した。調査は1996年7月および10月と1997年7月に行った。同時に、噴火降灰物の厚さ、土壌移動にともなるリルあるいはガリー形成の有無、地表面に現れていた礫面積を記録した。山麓域においてカラマツの侵入が顕著であり今後駒ヶ岳山頂部の景観を大きく規定するものと予測されるため、1963、1977、1994年の航空写真を用い、林冠幅2 m以上の個体数変動を追跡しカラマツ侵入様式を調べた。

結果
永久調査区における植生変動

 1996年から1997年にかけて、種数や被度の変化はUにおいては顕著ではなく、S、M、Iにおける2年間の被度増加は主として噴火による被害からの回復とみなすことができる(表1)。

 土壌移動はMおよびIにおいて2年間を通じて認められた(表1)。その結果、1997年においても、新たなリルやガリーの形成が認められた。
 Iにおいては維管束植物の被度は5%弱、コケ・地衣類の定着はほとんど認められない。Mにおいてもコケの定着は不良である。一方、Uにおいては地衣類が、Sにおいてはコケ類が優占している。維管束植物中では、草本植物のヒメスゲの回復が火山灰を被ったところではいずれも顕著である。ヒメスゲの出現頻度はS、Mにおいて増加しているが、Iにおいては減少している。にもかかわらず、被度はIにおいても増加している。これらのことは、1996年に定着していた個体の中で翌年にも生存していた個体が、被度増加に主として寄与していることを示している。その他の草本植物ではタルマエソウ・ニガナ・ヒメノガリヤス等の定着が認められるが、被度の増加率は低く回復は遅い。イワギキョウはSでは回復が早いが、Iでは未だに定着できていず、火山灰に地表面を覆われたところで本種は定着できないものと思われる。木本植物では、ミネヤナギが若干被度を増加させているがが、そのほとんどは1996年に一度上部を死滅させた個体の下部からの萌芽再生であった。シラタマノキの回復はミネヤナギと比べて遅く、萌芽能力の差が大きく関与しているものと思われる。

カラマツ侵入様式

 1963年には山頂付近を含む調査地域内において木本個体は殆ど定着しておらず、平均密度は0.7本/ha、最大密度は34/haであった。1977年には南西部にカラマツの定着が認められ、平均密度3.6/ha、最大密度は60/haにまで増加した。1994年にはカラマツ個体の定着は山頂部でも認められ平均密度は13.9/ha、最大密度は99/haに至った。標高、斜面傾斜、カラマツ造林地からの距離をもととした個体数推定を重回帰により行った結果、これら3要因はすべてカラマツ個体数を強く規定していることが示唆された(表2)。これら3要因の中では、1963年には造林地からの距離が、1977年、1994年には標高が強く影響している。勾配は1994年にその影響力が大きくなっている。

考察

 ヒメスゲは1977-78年に大規模な噴火を行った有珠山においても、乾燥した斜面において優占している3)。しかしながら、土壌移動が激しいところではコケや地衣類は優占していない4)。これらは、本調査において地表面の土壌移動性が高いMやIにおける結果と一致する。有珠山では、オオイタドリやオオブキのような大型多年生草本が初期から優占している。これらの種が優占できる要因としては、大型多年生草本は根系を火山灰中深くまで発達させることができることがあげられる1)。駒ケ岳山頂部においては、そのような大型多年生草本を欠くため、草本植物の中では大型多年生草本について優占可能であるヒメスゲが素早い回復を示したものと思われる。
 駒ヶ岳においては1965年までカンバ・ヤナギを始めとする落葉樹が優占種となりカラマツ侵入は顕著ではなった2)。したがって、駒ヶ岳山頂に見られるカラマツは最近数10年間に侵入したものである。種子供給源となる造林地からの距離が1963年には個体数の第1規定要因であったが、その後標高が第1規定要因となる。このことは、侵入当初は、種子供給源からの距離が個体数規定要因となるが、定着が進むにつれ標高・勾配(それに関与する環境要因)といった地形的影響が関与するためと考えられる5)。
 噴火降灰物が火山灰を主体とする火山における植生回復は、土壌移動が大きく規定されている。本調査は、噴火から2年間の変動パターンを追跡したものであるが、この点に関してはおおむね同様の結果が得られた。また、カラマツの侵入定着速度が落葉樹と比べ極めて速く、劣悪条件環境下におけるカラマツ適応性は優っている。今後の継続調査によってこれら侵入種の変動パターンを明らかとし、それらに関与する環境要因との対応関係を調査する予定である。

参考文献
  1. Tsuyuzaki, S. 1995. Journal of Plant Research 108: 241-248
  2. Yoshioka, K. 1966. Ecological Review (Sendai) 16: 271-291
  3. Tsuyuzaki, S. 1991. Journal of Vegetation Science 2: 301-306
  4. Tsuyuzaki, S. 1989. American Journal of Botany 76: 1468-1477
  5. Tsuyuzaki, S. & Haruki, M. 1996. Vegetatio 126: 191-19

表 1. 植生および環境特性の1996年から1997年にかけての変化。出現頻度が最低1区において1996年か1997年のいずれかで10%以上の種をあげた。出現頻度は括弧内に示した。+: 平均被度が0.1%以下。 -: 観察されなかった。

被害度無害 (U)微害 (S)中害 (M)激害 (I)
19961997199619971996199719961997
リル出現頻度 (%)NONONONO6132422
ガリー出現頻度 (%)NONONONO18302026
磔面積 (%)8.78.711.911.96.76.83.82.7
ヒメスゲ0.2 (6)0.2 (6)1.6 (43)3.8 (66)3.9 (64)7.9 (68)1.7 (41)3.6 (35)
タルマエソウ- (0)- (0)0.4 (21)0.3 (13)0.3 (2)0.4 (6)0.7 (9)1.1 (12)
ミネヤナギ25.2 (68)23.4 (69)6.2 (32)7.1 (36)7.4 (19)7.9 (21)1.2 (7)1.8 (7)
シラタマノキ11.6 (52)16.5 (53)0.2 (3)0.3 (4)+ (2)0.1 (3)- (0)0.1 (2)
ニガナ+ (2)+ (1)- (0)- (0)0.1 (5)+ (1)+ (1)- (0)
イワギキョウ- (0)- (0)0.5 (22)2.0 (53)0.2 (11)0.6 (14)0.3(11)- (0)
カラマツ+ (18)0.4 (31)- (0)- (0)- (0)- (0)- (0)- (0)
スズメノヤリ0.2 (8)0.2 (12)+ (1)+ (1)- (0)- (0)- (0)- (0)
ヒメノガリヤス0.3 (7)0.5 (8)- (0)0.6 (13)+ (1)+ (1)0.1 (2)- (0)
維管束植物種多様性1.82.01.42.01.11.20.80.7
維管束植物被度 (%)38.942.89.814.912.017.14.98.5
コケ被度 (%)1.5 (43)4.0 (71)30.4 (98)43.4 (99)0.5 (17)0.4 (19)- (0)+ (2)
地衣被度 (%)51.9 (91)51.4 (89)7.9 (91)13.8 (95)3.3 (67)6.4 (81)0.2 (7)0.9 (17)

NO: 前回の噴火に起因するものは見られなかった。


表 2. 重回帰分析によって得られた各メッシュにおけるカラマツ個体数(y)と環境要因、標高(x1)、斜面傾斜(x2)およびカラマツ造林地からの距離(x3)との関係。標準回帰係数を括弧内に示す。 n = 1083.

Year y = +ax1 +bx2 +cx3 +ε r²
1963 y = -0.004x1 P < 0.01
(-0.213)
-0.024x2 P < 0.01
(-0.071)
-0.001x3 P < 0.01
(-0.262)
+7.80 0.163 P < 0.01
1977 y = -0.018x1 P < 0.01
(-0.440)
-0.081x2 P < 0.01
(-0.117)
-0.002x3 P < 0.01
(-0.214)
+24.35 0.335 P < 0.01
1994 y = -0.047x1 P < 0.01
(-0.396)
-0.585x2 P < 0.01
(-0.296)
-0.007x3 P < 0.01
(-0.305)
+83.21 0.464 P < 0.01

永久調査区 渡島駒ケ岳 火山遷移 土壌移動

植生パターンの形成プロセスに関する研究


Tsuyuzaki & Kanda (1996)を要約して作成したもの

知床半島の農用地跡の植物群集構造

露崎史朗(新潟大学・自然科学)
神田房行(北海道教育大学・釧路校)

1. はじめに
 耕作放棄地は一般に埋土種子・植物栄養体を豊富に含むため、迅速な植生回復が成されると考えられている。しかしながら、知床半島においては約20年前に放棄された多くの農耕地跡があるが、そこにはササが侵入し植生変化は景観上はササ地のままとなり木本植物の侵入は極めて制限されている。そこで、1992年から我々は、これらの耕作放棄地において植生パターンの形成プロセスを解明し、今後の景観導入を行う上での生態学的知見を与える事を目的として調査研究を行った。
2. 調査地と方法
 知床半島の知床五湖に近い地域において今から約20年前に放棄された3つの牧草地を選び調査を行った。この地域はなだらかな丘陵地で、農用地の周辺は森林となっている。森林林床はほとんどがササで覆われている。各放棄地において40-50の1 m x 1 mの調査プロットを設定する事により、計140個のプロットを得た。プロット内では、各出現種の被度を測定した。合わせて、環境要因として、各プロットにおいて土壌のO層及びA層の深さ、林縁からの距離を測定した。また、これまでの研究でササの被度と地表面での光強度には高い相関がある事が判っているので(Tsuyuzaki, Kanda and Narita, 1994)、解析にはササ面積をそのプロットの地表面における照度の代数として用いた。
 耕作放棄地上における植生形態を類型化するためにTWINSPANクラスター分析を行った(Hill, 1979)。類型化された各植生群間の環境要因の違いを見るために、ダンカンの多範囲検定法を用いて比較した。得られた環境要因を元に直接環境勾配分析の一種であるCCA分析を行い、植生成立に最も重要と思われる環境要因の推定を行った(ter Braak, 1988)。なお、CCA分析ではO層の厚さとA層の厚さは非常に高い相関を示すため、より強い要因として抽出されるA層のデータを残し、O層を使わずに最終的な解析を行った。種間関係を、ニッチ幅・ニッチ重複及び種-種連関指数を求に推定した(Colwell and Futyuma, 1971; Ludwig and Reynold, 1988)。ニッチ幅は、その種の生態的生息地特性を反映したものと考えられており、この値が大きい種ほど、より様々な資源を利用出来る種であると考えられている。ニッチ重複は、種間の利用している資源の類似度を表わすものと考えられている。種連関指数は、種間関係を正または負の値で与え、正の場合にはそれらの種は共存的に定着していると見なされ、負の場合には排他的に定着しているものと見なすことができる。埋土種子集団の組成を得るために、各プロットから100 mlの土壌を採土缶で地表面から5 cmの深さで抜き取り、50% K2CO3比重選別法(Tsuyuzaki, 1994)によって土壌中から種子を抽出し各種子の同定及び種子数を測定し、現存植生との対応関係を見た。
3. 結果と考察
 耕作放棄地の植生はTWINSPANから、4つのタイプに分けられた(表1)。群1はカモガヤ(Dactylis glomerata)に代表されるが、他にクマイザサ(Sasa senanensis)、コケ(moss)、ヒメスイバ(Rumex acetosella)が高い頻度で出現する。更に、シロツメクサ(Trifolium repens)が高い頻度で出現する事から他の群と区別される。群2はクマイザサが優占し代表種となる。群3はナガハグサ(Poa pratensis)に代表される。群4はナガハグサに代表される、更にオオアワガエリ(Phleum pratense)が全てのプロットでみられた。しかし、群4には群1-3に見られるカモガヤ・クマイザサ・コケ・ヒメスイバが殆ど定着していない事から他の群と区別される。なお、これらの優占種のうち、カモガヤ・ナガハグサ・オオアワガエリ・シロツメクサの4種は農耕地であった時に播種された種である。ニッチ幅は、群3及び群4で優占するナガハグサがもっとも高く、次いでクマイザサ、カモガヤの順であった。これらは全て、いづれかの群の優占種である。
 種数は群4で有為に他の群より低い。また、群1及び群3で高い。植被面積は、群1で有為に低く、群2で高かった。
 ニッチ重複は、ナガハグサ-オオアワガエリ間で最も高い(表2)。しかしながら、種連関で見ると、他の普通種が17種以上の正の連関指数を有するのに対し、これら2種はわずか7-10種に対してのみ正の連関指数を示した。また、ニッチ重複もほとんどの種と非常に低い値を示した。種数は、これら2種の優占する群4で有為に低く(表1)、以上の事からこれら2牧草種は多くの自生種とは排他的に生存しているものと思われる。一方、牧草種でありながらカモガヤは種連関、ニッチ重複共に、上記2種とは異なり正の値、あるいは高い値を示し、カモガヤのもっとも優占する群1で種数が最も高い事から、この種は多くの自生種と共存的に定着しているものと考えられた。クマイザサは、カモガヤと同所的に定着しており、以上の事から、クマイザサはカモガヤ草地には侵入可能であるが、ナガハグサ-オオアワガエリ草地には侵入困難であるものと思われた。
 土壌の厚さは、群3及び群4で厚い傾向があり、一方群1で非常に薄かった(表1)。林縁からの距離は、群2が最も遠い距離にあり、群1-3では明瞭な違いはなかったがクマイザサ優占群落である群2で若干小さく、即ち林縁に近い所に成立しているという傾向を示した。調査地およびその周辺で、明瞭なササの一斉開花は確認されておらず、また調査プロットないではササの実生は全く発見出来なかった。従って、これらのササは全て周辺の林縁から栄養繁殖によって耕作放棄地に侵入して来たものと思われる。その結果として、群2は林縁に近い所に発達している傾向があるように思われる。
 CCA分析の結果、もっとも種の定着に重要と考えられる環境要因は1軸に強く現れるササの植被面積、即ち地表面の光強度であると考えられた(図1)。次に重要な要因としては2軸に強く現れる土壌A層の厚さであると考えられた。林縁からの距離は3要因の中ではあまり重要な要因とは見なされなかった。クラスター群は1軸に沿って分かれており、更に2軸に沿って群1は他の群と分けられる。従って、カモガヤ優占草地(群1)は、他の植生とは土壌の厚さによって分化したものと思われる。他の群は、ササの侵入更にはそれに伴う地表面の光強度の変化によって分化したものと思われる。
 埋土種子は、合計19種確認された(未同定1種を含む)(表3)。埋土種子密度は、クラスター群の間で大きく異なり、500-3000粒/m²の間にあり、群4でもっとも高密度であった。優占種はナガハグサであった。現存植生で、優占していた7種の種子植物のうちナガハグサ・シロツメクサ・ヒメスイバ・オオアワガエリが埋土種子中に確認されたが、クマイザサ・カモガヤ・オオヨモギは埋土種子中には全く確認出来なかった。クマイザサについては、周辺において最近の一斉開花の跡は認められず、埋土種子中に蓄積されていなかったためと考えられる。牧草種のうち、ナガハグサ・オオアワガエリ・ヒロハウシノケグサ(Festuca elatior)は、土壌採取時点で開花結実していたが、カモガヤは結実に至っている個体は少なく、調査年の埋土種子の蓄積の違いがこれら牧草種の埋土種子数の違いに反映されたものとおもわれ、いづれにしてもカモガヤの埋土種子は長期間土壌中に蓄積しないものと思われる。  埋土種子中に蓄積が確認されながら、現存植生中に全くみられなかった種には、ミミナグサ(Cerastium holosteoides var. angusitiflium)、アカザ(Chenopodium album var. centrorubrum)、ヒメムカシヨモギ(Erigeron canadensis)、タチツボスミレ(Viola grypocearas)、エゾノギシギシ(Rumex obtusifolius)がある。特に、ミミナグサ・アカザは種子数も多く、これらの種が何故現存植生中に出現しないのかは今後の興味ある課題である。いづれにしても、埋土種子密度は、耕作放棄地におけるこれまでの報告と比べると低い値であり、さらに上記4種のように埋土種子中に見られながら、現存植生の発達にはほとんど寄与していない種が認められ、埋土種子集団の現存植生発達への寄与率は低いものと考えられる。
 以上の事から、知床半島耕作放棄地における植生発達プロセスには、現在では埋土種子によるものよりも、ササのような栄養繁殖を主体とする種が大きく関与しており、また、木本植物はほとんど侵入していない事から、自然状態による大きな植生変化はあまり望めないものと思われる。
引用文献
  • Colwell, R.K. and Futuyma, D.J. 1971. Ecology 52: 567-576.
  • Hill, M.O. 1979. Cornell University, Ithaca, New York.
  • Ludwig, J.A. and Reynold, J.F. (1988) Statistical ecology. A primer on methods and computing. John Wiley & Sons, New York.
  • ter Braak, C.J.F. (1988) Canoco - a FORTRAN program for canonical community ordination by partial detrended canocical correspondence analysis, principal correspondence analysis and redundancy analysis. TNO Institute of Apllied Computer Science, Wageningen.
  • Tsuyuzaki, S. (1994) Rapid seed extraction from soils by a floatation method. Weed Research 34: 334-338.
  • Tsuyuzaki, S., Kanda, F., and Narita, K. (1994) Revegetation paterns on abandoned pasture in northern Japan. Acta Oecologica 15: 461-467.
[成果]

論文

  • Tsuyuzaki, S., Kanda, F., & Narita, K. (1994) Acta Oecologica 15: 461-467. Tsuyuzaki, S. & Kanda, F. (1996) American Journal of Botany 83: 1422-1428

学会発表

  • 日本生態学会要旨
  • Tsuyuzaki, S. and Kanda, F. (1993) Effects of dwarf bamboo invasion on abandoned pasture revegetation in northern Japan. XV International Botanical Congress (Yokohama)

表 1. TWINSPANによって得られた各々のクラスター群における優占種の出現パターン及び環境要因。

Species 生活系 ニッチ重複 1 2 3 4 総計
プロット数 56 34 22 28 140
Dactylis glomerata 多年生 0.362 38.3(100) 3.5(44) 13.0(77) +(11) 18.2(65)
Sasa senanensis 低木生 0.376 29.0(86) 81.4(91) 27.6(68) -(0) 35.7(67)
moss コケ 0.217 4.7(43) 8.0(74) 0.7(9) -(0) 3.9(36)
Rumex acetosella 一年生 0.113 0.2(59) 0.1(18) +(14) -(0) 0.1(30)
Poa pratensis 多年生 0.409 -(0) 13.5(85) 41.1(100) 83.3(100) 26.4(56)
Phleum pratense 多年生 0.240 0.1(13) 1.1(41) 4.6(83) 12.6(100) 3.6(52)
Trifolium repens 多年生 0.212 3.7(92) 0.1(12) 2.4(73) 7.4(89) 3.4(69)
Artemisia montana 多年生 0.154 1.3(93) 9.0(74) 3.5(64) 1.6(82) 3.6(81)
種数 7.4a 5.4b 6.6a 3.9c 6.1
総被度 86.6a 118.1b 102.9c 104.8c 100.4
O層までの深さ (cm) 3.0 ± 1.9a 3.4 ± 1.5a 3.7 ± 0.7ab 4.4 ± 3.0b 3.5 ± 2.0
A層までの深さ (cm) 10.9 ± 9.0a 38.8 ± 16.7b 41.5 ± 11.5c 32.5 ± 8.5c 26.8 ± 17.6
林縁からの距離 (m) 30.4 ± 16.0a 24.6 ± 13.5a 31.4 ± 9.0a 38.4 ± 8.3b 30.7 ± 13.9

出現頻度(%)は括弧内に示した。


表 2. 優占種のニッチ重複及び種-種連関。括弧内に正あるいは負の種連関を示した。

種/略号DagSasMRuaPopPhpTrrArm
ニッチ重複及び種-種連関
Dactylis glomerata (Dag) . 0.38(+) 0.48(+) 0.32(+) 0.10(-) 0.12(-) 0.53(+) 0.36(+)
Sasa senanensis (Sas) . . 0.39(+) 0.40(+) 0.19(-) 0.11(-) 0.21(+) 0.45(+)
moss (M) . . . 0.49(+) 0.12(-) 0.11(-) 0.18(-) 0.54(+)
Rumex acetosella (Rua) . . . . 0.02(-) 0.06(-) 0.24(+) 0.25(+)
Poa pratensis (Pop) . . . . 0.80(+) 0.45(-) 0.32(-)
Phleum pratense (Php) . . . . . . 0.52(-) 0.32(-)
Trifolium repens (Trr) . . . . . . . 0.28(+)
Artemisia montana (Arm) . . . . . . . .
種-種連関の種数
 正 23 19 17 25 7 10 19 17
 負 5 9 11 7 21 18 9 11
 偏り 13 13 13 9 13 13 13 13

+: 0.1%未満。 -: 発見されなかった。平均値の下に示した異なる文字は有為に異なる事を示す(P<0.01, ダンカンの多範囲検定法).


表 3. TWINSPANによって分類された植生群における埋土種子密度(/m²)。 -: 確認されなかった。

生活系1234合計
Poa pratensis a 多年生 - 35.29 272.73 1500.00 351.43
Cerastium holosteoides var. angustifolium 多年生 64.29 447.06 272.73 457.14 268.57
Trifolium repens a 多年生 92.86 117.65 163.64 528.57 197.14
Rumex acetosella a 一年生 78.57 117.65 - 200.00 100.00
Chenopodium album var. centrorubrum 一年生 107.14 11.76 18.18 57.14 60.00
Phleum pratense a 多年生 - 129.41 54.55 85.71 57.14
Festuca elatior a 多年生 114.29 - - - 45.71
Geum macrophyllum var. sachalinense a 多年生 - 58.82 54.55 - 22.86
Trifolium pratense a 多年生 14.29 35.29 18.18 14.29 20.00
Erigeron canadensis 一年生 21.43 23.5 18.18 42.86 25.71
Viola grypoceras 多年生 - - - 42.86 8.57
Oenothera biennis a 二年生 14.29 - - - 5.71
Rumex obtusifolius 多年生 - - - 28.57 5.71
Sorbus commixta a 木本生 14.29 - - - 5.71
Actinidia kolomikta a ツル生 7.14 - - - 2.86
Plantago lanceolata a 多年生 7.14 - - - 2.86
Thermopsis lupinoides a 多年生 7.14 - - - 2.86
Vitis coignetiae a ツル生 - 11.76 - - 2.86
未同定種(1 種) b - 47.06 54.55 - 20.00
合計 542.86 1035.29 927.27 2957.14 1205.71

a 現存植生中に発見された種。 b 双子葉植物。


図の説明 (図はコピーの張り付け)
図 1. 種(Species)及びプロット(Plot)スコアのCCAオーディネーションダイアグラム。環境変数は矢印で示した。この矢印が長いほど強い環境要因である。環境変数: F = 林縁からの距離; A = A層までの深さ. C = クマイザサ(Sasa senanensis)の被度。これは地表面における光強度の代数とした。プロットスコアにおいて、黒丸、黒菱形、白四角、白三角はそれぞれクラスター群1-4に相当する。出現頻度10%以上の種は以下のコードで示した: Pop = Poa pratensis, Php = Phleum pratense, Trr = Trifolium repens, Arm = Artemisia montana, Rua = Rumex acetosella, Dag = Dactylis glomerata, Sas = Sasa senanensis, M = moss.

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