(2021年9月21日更新) [ 日本語 | English ]
有珠山 / サロベツ泥炭採掘跡
1986年, 2006年の有珠山火口原. ワタスゲ・エゾカンゾウ
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2000年 (静岡)
後藤真咲・露崎史朗 (北大・院地球環境)
有珠山は1977-78年に噴火し、山頂付近の表土(旧表土)は厚い火山噴出物に覆われた。その後、火口原では侵食等により露出した旧表土から埋土種子由来種の出現が見られた。噴火10年後(1987年)には、旧表土中に約2000種子/m²が生存していた。そこで、噴火20年後(1998年)における旧表土中埋土種子集団の生存状況を知るために、厚さ1 m以上の噴火降灰物下から旧表土を採取し、発芽試験法(GM)と50% K2CO3溶液遠心浮上法(FM)の2法を用い埋土種子検出を行った。
GMで23種、1317種子/m²、FMで30種、2986種子/m²の生存が確認された。同定種は22種である。埋土種子相はエゾノギシギシが優占しており、カラフトダイコンソウ、イワアカバナ、イグサ、ハイキンポウゲもみられ、多年生草本が多かった。
検出された種数、種子数ともにFMの方が多く、共通検出種は11種であり、二方法間で結果が大きく異なっていた。GMとFMはそれぞれ長所短所があるため、同一の埋土種子集団について異なる推定結果を得る可能性が高い。種子が検出できない理由として、GMでは必ずしも全ての種子が発芽するとは限らないこと、FMでは抽出過程での問題および形態からの同定の困難さがあげられる。埋土期間の長い種子は休眠性が強く、構造が劣化していることが考えられ、これらの点を十分に考慮し複数の検出方法を用い検討することが望ましい。
(Tsuyuzaki & Goto 2001, Ishikawa-Goto M & Tsuyuzaki 2004, 和文要旨)
2001年 (東京) [登録番号603072]
露崎史朗 (北大・院地球環境)
北海道南西部に位置する渡島駒ケ岳は1929年に大噴火を行なった後、小康状態を保っていたが、1996年以降小噴火を数回繰り返している。本火山において、1996年噴火による植物群集の被害状況の把握とそのごの動態を明らかとするために、噴火降灰物の厚さが数cm以上(激害区)、数mm程度(中害区)、1 mm以下(微害区)、観察されない(無害区)の4地点を選び調査区を設け、2000年まで経年で追跡調査を行なった。主な結果は以下の通り。
Plant community dynamics on Mount Koma, Japan, after the 1996 eruption (Tsuyuzaki & Hase 2005)
2003年 (札幌)
西村愛子・露崎史朗 (北大・院地球環境)
道北に位置するサロベツには、2700 haもの湿原が広がり大部分がミズゴケ泥炭湿原で構成されている。この泥炭を土壌改良材として利用するために、1970年から現在まで毎年数ha以上の面積で泥炭採掘が行なわれている。この泥炭採掘跡地において、採掘開始から現在に至る植生の遷移過程を明らかにするために調査を行なった。採掘開始年からほぼ3年間隔で各年に1 × 1 mのプロットを20ヶ前後設置し、未採掘の高層湿原上にコントロールを設けた。各プロットにおいて植生調査と環境要因の測定を行なった。採掘後経過年数と共に種数・植被率は増加し、採掘後10年前後から植物の侵入が見られ、20年後ではミカヅキグサ、ヌマガヤ、ヨシなどが優占していた。コントロールではミズゴケ出現被度は100%に近く、1970年のプロットと比べても植生は明らかに異なった。環境要因では、NH4+、K+などの陽イオン濃度と全窒素濃度が採掘からの時間経過に伴い減少傾向を示した。水位は採掘年代との間に明瞭な関係がみられず、特に水位が高い場所では他のプロットと異なる植生が発達していた。以上より、採掘後の経過年数が短いほど栄養分が多く、植物の定着に適し速やかな植生回復が見られると考えられるが、本来の高層湿原に生育する種は採掘跡地内に十分に定着しているとはいえず、ミズゴケ被度の高い高層湿原へと進む遷移系列とは異なる遷移方向に進んでいることが示唆された。
• Vegetation recovery on peat mining sites in Sarobetsu Mire, northern Hokkaido (Nishimura et al. 2009)
○露崎 史朗 (1), 成田 憲二 (2), 澤田 結基 (3), 福田 正巳 (3)
(1) 北大・院・地球環境, (2) 秋田大・教育文化学部, (3) 北大・低温研
アラスカ内陸部北向き斜面では、永久凍土permafrost上にクロトウヒPicea mariana林が広く発達している。このクロトウヒ林の更新には、周期的な火災が関与していることが知られている。これまでの火災は、主に落雷による自然火災で、その火災の性質は、林冠火災と呼ぶ地表面のミズゴケが完全には焼失しない規模のものである。しかし、近年、アラスカにおける火災規模は、面積・強度ともに増大する傾向にあり、北向き斜面に発達した永久凍土の分布変化を介した森林更新の改変が懸念されている。そこで、2004年に大規模火災が発生したフェアバンクス近郊のポーカーフラットに永久調査区を設け、実生の侵入・生存・成長について追跡調査を開始した。その結果、ミズゴケが全焼した地表面では、カンバ・ヤマナラシ・ヤナギ等の落葉樹の実生個体数はクロトウヒを上回ること、死亡率は種間で大きな差がないこと、成長は落葉樹の方がクロトウヒより良いことが明らかとなった。一方、ミズゴケが残存した地表面には落葉樹はほとんど侵入していなかった。したがって、ミズゴケが全焼するような大規模火災が続けば、クロトウヒの更新は大きく阻害されることが示された。また、地表面が全焼したところでは、夏季には凍土が確認できない、あるいはミズゴケ残存面と比べて深い部分にのみ凍土が存在していた。したがって、クロトウヒの更新には、ミズゴケの回復と凍土の発達が鍵となる。
<座長 長里 千香子>
露崎 史朗(北海道大学地球環境科学研究院)
火山遷移は、溶岩上の遷移とテフラ(軽石・火山灰などの噴火降灰物)上の遷移では大きく異なる。ここでは、1983年より経年調査が行われている1977-78年に噴火した有珠山における結果を中心に、テフラ性火山噴火後の遷移の特徴を紹介する。主な知見は、以下の4点である。
2013年(札幌). シンポジウム「寒さからの生命系:耐寒性の父・酒井 昭先生」
露崎史朗 (北大・院・地球環境)
酒井先生は1987年の退官後に、3つの目標を立て、その中の一つに「地球レベルでの植物の自然環境に対する適応の理解」をあげた(酒井 1995)。さらに、「野生の植物が長い時間をかけて作り上げてきた巧妙な、たくましい耐寒生存戦略を、不器用な、しかし好奇心に富み、あきらめのわるい一人の研究者の体験、調査、生き様を通じて記した」とも述べている(酒井 2003)。寒冷地の植物の生き様を理解するには、植物のミクロからマクロまでの幅広いスケールでの構造と機能を理解し、さらに生態系における種間相互作用と環境形成作用に対する各種の役割を明らかとすることが必要である。
特に、北半球陸地の20%は永久凍土に覆われるが、その生態系は、近年の温暖化に伴う永久凍土分布の急速な変化による衰退が予測されている。永久凍土帯のバイオームは、タイガとツンドラの大きく2 つに分けられるが、これらの生態系の温暖化に伴う変化を予測するには、まず、永久凍土と植生の対応関係を明らかにしておかねばならない。ここでは、連続凍土帯に発達するツンドラに見られる独特な地形であるパルサ・バイジャラーヒ・アイスウェッジ(氷楔)と植生との対応関係を紹介する。ついで、不連続凍土帯の代表的なタイガ林であるクロトウヒ林における森林火災後の回復状況について報告する。これらを通じて、低温研植物凍害科学部門において行われて来た研究の一面ではあるが、その近況を示したい。
演者は1987年に酒井先生退官4年後に北大低温研に進学し、直接の指導教員は吉田静夫先生である。見様によっては、酒井先生の孫弟子だが、その学生の中で、植物群集生態学を担当することになったのであろうか。