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(2021年6月18日更新) [ 日本語 | English ]

有珠山における植物群集動態 (Topics of revegetation on Mount Usu)






有珠山 / サロベツ泥炭採掘跡
1986年, 2006年の有珠山火口原. ワタスゲ・エゾカンゾウ

[ はじめに | 有珠山とは? | 何を調べる | 希望的お願い | 遷移の特徴 | リンク ]

はじめに


 有珠山の1977-78年噴火後の植物群集の変化を、主として永久調査区を用いて調べている。世界的に見れば、有珠山噴火の規模はそれほど大きいとも思えないが、逆にそのせいか独特の植物群集変化が見られる。確認植物については、随時更新している。さて、あと何年調査できるのか!
 2000年火口周辺の調査を開始した。調査を快く許可を下さった関係者の皆様に感謝したい。かなり1977-78年火口とは違った点も認められており、継続調査したいものだが、2003年からは観光コース中に取り込まれ、今後どうなるかは分からない ...(2015年夏までは経年調査できた。これで33年継続)

有珠山とはどのようなところか


 メインの調査地周辺は、自分が高校生の時に噴火した場所である。研究自体は卒論の時から始めたので、その間のギャップが自分自身にもある。これを補う論文は皆無に等しく、報告書も適当なのは少ない。
  リンクページ で、当時の様子と最近の噴火の様子(ついでに観光ガイド)を見て欲しい。実は、有珠山は、行政区分上、頂上を境に3つの市町が管轄し、どの町にもお世話になっている(今後ともよろしくお願いします)。
1977-78年噴火
厚さ1-3mの噴火降灰物に覆われ壊滅状態

山麓森林 →
林木被害形態: 灰付着下垂、湾曲、梢頭幹折、中間幹折、枝条折損、根元幹折等

何を調べているのか


永久調査区による群集変化

Usu  1983年(卒論)から現在まで毎年、同じ調査区の中を調べている。 有珠 紹介に、調査地ではないが、大有珠を1986年と1998年に同じ場所から撮った写真を載せている。比べて欲しい。写真は1986年以前は、ほとんど何も生えてなかった!
地形
噴火後の地形 (植生回復の基準としての地形区分)
 火口源では降雨や融雪水により土壌侵食が激しく大小の沢(ガリー)が形成された。そのため、ガリーでは噴火以前の土壌(旧表土)の表れた所もある。ここでは、土壌侵食をあまり受けていないガリーの外部(OG)、旧表土の表れたガリー(EG)、旧表土が表れていないガリー(CG)に地形を分けて扱う
植物供給源
  • 栄養繁殖: 火山灰・軽石堆積下に埋もれた器官(根系・ライゾームなど)が地上部に現れたもの
  • 散布種子 (移入): 周辺の噴火被害を免れた所から種子により移入
  • 人工播種: 噴火直後から土砂移動防止を目的として、ヘリコプター等によって航空散布されたもの
  • 埋土種子 (seedbank): 火山灰下に埋まっていた土(旧表土)中で生きていた種子が地表面に現れ発芽したもの → 回復に関係する場所もある
succession schema

図. 日本の高校教科書でよく扱われる(使われていた)火山を代表とする乾性一次遷移の様式。植物群集の高さは時間の経過につれ大きくなる。しかし、有珠山の1977-78年噴火後の遷移では、コケ期・一年生草本期は欠落し、多年生草本が初期に優占する。

火山灰下に埋もれた埋土種子集団

SD 噴火20年後も、まだまだ元気な種子(後藤真咲撮影)
有珠山噴火20年後における旧表土中の埋土種子集団の検出 (2000年 日本植物学会要旨)

(希望的)お願い

これらは立派な人為撹乱
 山菜とりに来ている人を見ることがあるけど... ウドが減りつつある要因のようでもある。砂防ダム結構。植林結構。でも私の調査地の上に作るのはどうも... なんでアカエゾマツなんだろう? 2001年8月... ついに20年間調べてた調査区が2つほどアカエゾマツ植林施行により消失... 黙祷するしかない。
 北海道の火山群が「世界遺産」に登録されることはないのだろうか。

[火山における植物群集動態 も参照されたい]

1977-78年噴火後の遷移の特徴 (Characteristics)


  1. 転石苔を生さず
    その遷移においてコケ期はない (Tsuyuzaki 1987)
    山頂部は壊滅的打撃を受けた(ほぼ無植被となった)
  2. ない袖は振れない
    その遷移において一年生草本期はない (Tsuyuzaki 1994)
    昔の高校教科書に出てくる遷移初期に見られる、コケ期・一年生草本期はない
  3. 縁の下の力持ち
    遷移初期から栄養繁殖起源の多年生草本が優占する (Tsuyuzaki 1989)
    オオイタドリ オオブキ などが、堆積した火山灰の下から出てきて再生するのが植物の回復の中心となっている
  4. 兎と亀の物語
    初期に回復が早く見えたところは回復が遅く、初期に裸地であったところの方が森林化が早い部分がある (Tsuyuzaki 2009)

    埋土種子出現 → 初期回復早い → 停滞
    裸地 → ゆっくりと回復 → 森林化

    G8サミット「洞爺湖環境フォーラム」要旨 P (重定・露崎 2008)
表1. 1983-84年に有珠山で確認した維管束植物(シダ・種子植物)の生活型・種子分散型(数字は種数).
    区分       栄養繁殖 移入 人工播種 埋土種子 合計
    一年生草本     0      3      0        8      11
    多年生草本    64      8      3        9      84
    木本          31      7      2        0      40
    散布型
    風
        長距離     7     10      0        0      17
        短距離    49      3      4        7      63
    重力          10      1      0        5      16
    自発           8      2      0        5      15
    動物          21      2      1        0      24
    計            95     18      5       17     135

(Tsuyuzaki 2019)

まだまだ上昇傾向
Usu
. 有珠山において1977-78年噴火の影響を受けた火口原における1984年から2008年までの2 × 5 m (白丸)および5 × 5 m (黒丸)における(a)種数 (species richness)、(b)多様性 (diversity)、(c)均等度(evenness)の変化。平均を標準偏差(縦棒)とともに示す。一般化線形モデルによる有意差を示す。

(Otaki & Tsuyuzaki 2016)

リター分解 (litter decomposition)

1910, 1977, 2000年噴火跡を利用してりたー分解の主役を調べると、噴火直後の裸地から噴火100年を経過した森林にかけて菌類が細菌類よりも優占していた。
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