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(2013年8月28日更新) [ 日本語 | English ]

洞爺湖・有珠火山地域の環境と資源 X. 植生復帰






有珠山 / サロベツ泥炭採掘跡
1986年, 2006年の有珠山火口原. ワタスゲ・エゾカンゾウ

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(2022/04/26. ビジターセンター)

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有珠山-噴火後の植生の回復と森林形成まで-


Mt. Usu -revegetation of broadleaved forests since 1822-

 有珠山は形成されてから 7-8千年を経て、1663年噴火を皮切りに噴火が多発するようになった。1663年(寛文3年)、1769年(明和5年)、1822年(文政5年)、1853年(嘉永6年)、1910年(明治 43年)、1943-45(昭和 18-20年)、そして 1977-78年(昭和 52-53年)、2000年(平成 12年)と噴火している。1822年の噴火は噴火湾側へ広範囲に、有珠山麓低地に達する大規模な火砕流を引き起こした。有珠山の南側で現在みられる森林植生は上層木の樹種と寿命の関係からみて1822年以降に形成されたものと考えられる。
 いずれも噴火にともなって噴出堆積した軽石、火山灰などの上に長年月の間に森林植生と土壌が生成されていったのである。最も新しい 2000年噴火もやがて森林に覆われる日がそう遠くなく来るであろう。1977-78年の大噴火の後、有珠山各所で回復し、あるいは形成されてゆく森林植生の様子が観察調査されているが、ここでは写真で見ていくことにしたい。

1. 1822·1853年噴火(since the 1822 and 1853 eruptions)


 180-150年を経た現在では森林に覆われている。山麓の標高100 m (1822年噴火後形成)から標高200-500 m (1853年噴火後形成)地点まで100 mごとの森林の様子は写真1-5のとおり。山麓に向かうほど遷移の中-後期に見られる樹種から成る、よく発達した森林となる。


Usu1 Usu2 Usu3
標高100 mのミズナラ優占林。樹高 28 m、胸高直径 58 cmに達する。ほかにカシワ、シナノキ、アズキナシ、ケヤマハンノキなど。林床はツタウルシ、オオウバユリなどが多い。
Japanese oak (Quercus mongolica var. grosseserrata) forest established on Mt.
Usu. (100 m a.s.l.)
標高200 mのミズナラ優占林。樹高19 m、胸高直径35 cmに達する。ほかにカシワ、ヤマモミジ、エゾイタヤ、ハルニレなど。林床はササが優占。
Japanese oak (Q. mongolica var. grosseserrata) forest established on Mt. Usu. (200 m a.s.l.)
標高300 mの種々広葉樹混生林。エゾイタヤ、アカイタヤ、シラカンバ、ミズナラ、アオダモなどで樹高20m、胸高直径 32cmに達する。林床はツタウルシ、オオウバユリなどが多い。
A broadleaved mixed forest composed of Acer mono, A. mono var. mayrii, Betula platyphylla var. japonica, Q. mongolica var. grosseserrata, Fraxinus lanuginose, etc. (300 m a.s.l.)

Usu4 Usu5 Usu6
標高400 mの種々広葉樹混生林。エゾイタヤ、アカイタヤ、ハルニレなどで樹高23 m、胸高直径56 cmに達する。林床はオオウバユリ、エゾニュウなどが多い。
Broadleaved mixed forest composed of Acer mono, A. mono var. mayrii, Ulmus japonica, etc. (400 m a.s.l.)
標高500 mの種々広葉樹混生林。エゾイタヤが多く、ほかにハルニレ、エゾヤマザクラなどで樹高10 m、胸高直径 25 cmに達する。林床はエゾニュウ、オオイタドリなどが多い。
Broadleaved mixed forest composed of A. mono, U. japonica, Prunus sargentii etc. (500 m a.s.l.)
有珠山山麓で確認されたコジマエンレイソウ。環境省により絶滅危惧種II類に指定されている。2003年4月28日撮影。
Trillium amabile Miyabe et Tatewaki, endangered species found in the broadleaved forests.

2. 1910年噴火(since the 1910 eruptions)


 有珠山北麓で、明治43年に噴火したことから四十三山(よそみやま)と呼ばれる山などが形成された。いくつもの火口跡が散在する。約100年を経て樹高 31 m、胸高直径 60 cmに達するドロヤナギ(P. maximowicwii ドロノキ)を主とする。森林が成立している。

3. 1943-45年噴火(since the 1943-45 eruptions)


 有珠山東麓で、麦畑から山が生じたことから、故三松正夫氏が“麦圃生山”と呼んだ昭和新山(標高 407 m)の誕生である。彼は昭和新山の日ごとの形成過程を図化したミマツダイアグラム(Mimatsu diagram)を記す一方、危険を冒して出来上がったばかりの昭和新山に入り観察を続けた。"北の昭和の火山史"を展示した「三松正夫記念館」を訪れてほしい。約60年を経て、ここも樹高28 m、胸高直径43 cmに達するドロノキを主とし、これにシラカンバ、ケヤマハンノキを上層に交えるが、遷移中後期にみられるハリギリ、ミズナラなどが中下層に進出中である。林床はベニバナイチヤクソウ、クルマバソウ、ツタウルシなどが多くみられる。


Usu7 Usu8 Usu9
四十三山山麓のドロノキ林
A P. maximowicwii forest on Mt. Yosomi formed by eruptions in 1910.
有珠山からみた昭和新山。ドームの下方はドロノキ林(樹高28 m)や窒素固定植物群落。
A landscape of Mt. Showa-Shinzan (407 m a.s.l.) viewing from Mt. Usu. (Aug. 2006)
昭和新山山麓のドロノキ優占林。後方は有珠山。
P. maximowicwii forest on Mt. Showa-Shinzan after 50 years since 1943-45 eruptions.

4. 1977-78年噴火(since 1977-78 eruptions)


 有珠山山頂(火口原)付近での噴火により大有珠と小有珠の間を埋めるように有珠新山、オガリ山が誕生。噴火間もない頃からの写真が豊富なので見ていただきたい。大有珠、火口原、外輪山内壁から外壁上部は一旦森林植生が壊滅した。その後、埋土種子、降灰堆積物に埋もれた落枝からの萌芽、火山周辺からの飛散種子などにより植生が回復していった。約 30年を経て、ここも樹高 17m、胸高直径 26cmに達するドロノキを主とし、これにシラカンバ、ミヤマハンノキを少数だが中・上層に交える、遷移初期の林分が成立し、発達中である。


Usu10 Usu11 Usu12
1977-78年の噴火で森林植物が全て死滅した。手前は深さ30 m以上あった第四火口の縁。火山灰が舞い上がって日中も、もやがかかった状態。
Mount Usu and the crater basin, viewing from the 4th crater, destroyed the vegetation. (May 1979)
1977-78年の噴火で森林が壊滅し枯れ木だけとなった火口原。噴火前には樹高 30m、胸高直径1 mを越えるドロノキがあった。
Dead trees destroyed on the crater basin of Mt. Usu. (May 1979)
噴火から10年を経過した有珠山火口原の景観。有珠新山の形成隆起により火口原は斜面となった。1-2 m堆積した降下火山灰などは雨水により流動する。特に植物の回復が遅い部分だが、テフラがまだ流されることと、噴火前には結構大きな森林があったことが分かる。1988年4月29日撮影。
Crater basin after 10 years.

  1. 降雨や融雪水によるガリー形成により噴火以前の土(旧表土)が露出し、その土の中で生きていた種子から再生したエゾノギシギシ。温室での実験結果とよく一致する。
    Rumex obtusifolius regenerated in the gully developed on the crater basin.
  2. 噴火から20年後に1 m以上の深さに埋もれていた土を掘り取り、温室で潅水することで発芽した植物。大きな葉は、エゾノギシギシ。これらの植物は軽石・火山灰の下で20年生存していたことになる(撮影後藤真咲)。
    Rumex obtusifolius germinated from buried soil, after 20 years.

Usu15 Usu16 Usu17
火口原の斜面下部の降灰火山灰など堆積地に定着中のオオイタドリ。噴火直後に最も早く、再生した植物の1種で、これらの中には、噴火前の土の中で生きていて、そこから再生したものもある。1983年撮影。
Polygonum sachalinense recovered on the crater basin.
火口原に定着したオオイタドリ、アキタブキ草本群落。丈は2 mを越える。1984年撮影。
Tall P. sachalinense and Petasites japonicus var. giganteus communities recovered on the crater basin, after 6 years since the 1977-78 eruptions. (July 1984)
2001年の大有珠と火口原。火口原もドロノキが旺盛に更新し今では高さ12 mになった。
O-Usu (737m a.s.l.), the summit of Mount Usu, viewing from the crater basin dominated by P. maximowiczii of 12 m in height. (July 2001)

1977-78年噴火後の有珠山山頂部(大有珠、標高 737 m)の植生回復。

Usu18a Usub Usuc
(a) 1986年。多くの裸地が広がり、噴火により枯死した立木も残っていた。
Year 1986
(b) 1998年。植物回復が認められるが、まだ植物がついていない部分がある。
Year 1998
(c) 2006年。手前の火口原には森林と呼べる大きさになった樹木が認められ、大有珠斜面も大部分が植物に覆われた。
Year 2006

Usu19 Usu20 Usu21
火口原に隣接する外輪山内壁に更新したドロノキ林。高さ18 m。地上には大噴火で倒れた直径1 mを越えるドロノキの大木。
P. maximowiczii forest regenerated near crater basin of Mt. Usu after 28 years since the 1977-78 eruptions.
外輪山内壁に更新したドロノキ林のミミズたち。真っ白い火山灰、軽石などの堆積物から森林土壌層が生成される。暗褐色の土壌は理化学性に富んでおり、これを作るのは「種の起源」で名高いチャールズ・ダーウイン(Charles Darwin)が調べたように主にミミズによる。「大地の母」は今日も有珠山などで森林を形成中!!
Earthworms (Pheretima hilgendorfi) develops forest soil with rich nutrients in P. maximowiczii forests.
外輪山内壁に更新したドロノキ林の土壌の構造。白っぽかった貧栄養の降灰堆積物から、今では15 cm近い厚さで理化学性に富んだ団粒構造の A、B層が発達中である。火山国日本の国土のほとんどは火山灰でかつて覆われていた。
A soil profile observed in a P. maximowiczii forest on the caldera rim.

5. 2000年噴火 (since the 2000 eruptions)


 2000年3月29日に有珠山の西山山麓や金比羅山上部から山麓にかけて噴火し、火口と噴出物による裸地が形成された。現在でも大きく噴煙(水蒸気)を上げているのは一つだけである。洞爺湖に最も近い KA火口、KB火口周辺は火口壁外側斜面にドロノキを主とする樹木が幼齢林を形成しつつある。


Usu22 Usu23 Usu24
2000年の噴火(2000年5月19日撮影 山口高志)。
Eruptions in 2000 (May19 2000)
2000年噴火の6年後の噴火口(KA、有くん火口) (April 24 2006)。
KA crater, 6 years after 2000 eruptions.
KA火口外壁斜面に 2001年から飛散種子で定着しだしたドロノキ (P. maximowicwii)を主体にエゾノバッコヤナギ (Salix hultenii)など。 Broad leaved trees regenerated on the outer slope of KA crater. P. maximowicwii is dominant.

まとめ


Usu25
KA火口から洞爺湖、羊蹄山(標高 1,893 m)を望む。
約10-13万年前の噴火によるカルデラ湖である。
Caldera lake Toya and Mt. Yotei (1,893 m a.s.l.)
from KA crater.

 以上のように、有珠山の森林植生は、噴火後 100-200年の間に、種子が風で飛散しやすく、陽光のよく入る貧栄養地でもよく育ち、遷移の初期に出現し群落を形成するドロノキを主としシラカンバ、ケヤマハンノキなどを交える林から、遷移の中-後期にみられるミズナラ、ハリギリ、シナノキなどの種々の落葉樹混生林へと向かいつつあるようだ。林床植物は北海道各地に優占してみられるササ類はあまり多くはなく局所的であり、種々の森林ではベニバナイチヤクソウ、クルマバソウ、ツタウルシなどがよくみられる。
 1945年に生成した昭和新山、 1977-78噴火地、さらに 2000年噴火地も調査中だが、同じように推移していくとみられる。

(地球環境科学研究院 春木雅寛 Masahiro HARUKI・露崎史朗 Shiro TSUYUZAKI)

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