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(2014年1月2日更新) [ 日本語 | English ]

種子散布 (seed dispersal)






有珠山 / サロベツ泥炭採掘跡
1986年, 2006年の有珠山火口原. ワタスゲ・エゾカンゾウ

(重定・露崎 2008)

種子散布 (seed dispersal)

表1 歌に語られる種子散布seed-dispersal。種子散布型は、種子に付属する散布器官の形態と機能により区分され、幾つかの分け方が提唱されている(Fenner & Thompson 2005)。遷移(succession)において、大規模撹乱を受ければ、種子は長距離移動が必然となるため、散布様式からは、遷移初期に風散布や水散布等の長距離種子散布を行う種が侵入し、極相近くになると自発散布や重力散布の種が増える。これらの種子は、その特徴から様々な歌に語られている。有珠山では、カンバ・ヤナギ・ハンノキ等、初期侵入樹種は、すべて風散布種子を生産するものである。
風散布 wind-dispersal
タンポポ、ヤナギ、カエデのように、種子に風によって運ばれる付属体をつけているものを風散布種子という。それらの膨大な数の種子が風に舞う姿の美しさから、多くの歌で風散布は紹介されている。松任谷由実の「ダンデライオン~遅咲きのたんぽぽ」では、

風にのり飛んで来た はかない種のような

と歌われている。さらに、特別な散布器官を持たずとも微小な種子は、主に風により十分な長距離を散布されるため風散布に含める方が妥当である。
水散布 water-dispersal
すぐ頭に浮かぶのは、島崎藤村の「椰子の実」の1番で

名も知らぬ 遠き島より
流れ寄る 椰子の実ひとつ
故郷の岸を離れて
汝はそも 波に幾月

と唄われている。まったく歌詞のとおりで、ヤシは水散布の代表である。インドネシアのクラカタウ島では、66の種の種子(果実を含む)が海浜に漂着していた(Partomihardjo et al. 1993)。湿原の植物には、水散布種が数多く見られる。
動物散布 animal-dispersal
動物散布は、動物外部に付着し運ばれる動物付着散布と動物内部を通過し散布される動物被食散布に分けられる。動物付着散布は、動物の体毛や表皮に付着し運ばれるもので、これで子供の頃に遊んだ人も多いと思う。動物被食散布は、種子や果実が捕食され動物内部を経由し運ばれ排泄され散布される。いずれも、その散布距離は動物の行動範囲に大きく依存する。動物散布の一種であるアリ散布の代表種であるエンレイソウは、北大恵迪寮歌の中で

雲ゆく雲雀に延齢草の 真白の花影さゆらぎて立つ

と歌われる。(オオバナノ)エンレイソウは、その種子にカルンクルあるいはエライオゾームと呼ばれるアリの餌となる物質をつけることで、アリによって運ばれる(Higashi et al. 1989)。
自発 self
自発散布self-dispersal (mechanical dispersal): 自発散布とは、種子を飛ばす機構を持つ種子(果実)のことで、ホウセンカやカタバミに見られる。中島みゆきの歌で「ほうせんか」という歌の一節に

ほうせんか 私の心
砕けて 砕けて 紅くなれ
ほうせんか 空まであがれ
あの人にしがみつけ

と歌われている。なお、スミレは、自発散布の後に、種子にカルンクルをつけておりアリ散布も行う。このように、複数の散布様式をとる種も結構ある。

[散布器官型, 埋土種子, 種子発芽, 種子トラップ]

索引
重力散布 gravity-dispersal
特別な散布器官を持たない種子の総称である。そのイメージから、ただ単に落下するだけということで落下散布と呼ぶ人もいる。代表例としては、堅果(ドングリ)を生産するナラ類があげられる。「どんぐりころころ」という唱歌があるが、この歌の出だしの

どんぐりころころ どんぶりこ
お池にはまって さあ大変

は、まさに重力散布を歌ったものである。ただし、堅果が重力散布とするには異論がある。例えば、ネズミ類は、堅果を冬期間の餌として堅果を土壌中に貯めておく性質がある。この貯蔵した種子を祭事することを忘れると、そこから発芽するため、隠匿散布と呼ばれる。確かに、重力散布だけだと山の上には、そう簡単には登れない。

種子貯蓄 (seed storage)

種子の貯蓄場所 = 種子生存にとり重要
種子の貯蓄形体の分類 (Lamont 1991)
  1. 非貯蓄性種子 non-storage: 非休眠性で、種子が成熟後に時間を置かずに分散 ≠ 埋土種子
  2. 埋土種子 buried seeds: 成熟後、非成熟に関わらず分散した種子は埋土種子となる
  3. 林冠貯蓄種子 canopy storage: 成熟後暫くの間、樹木についたまま過ごす。木本植物では比較的多くの植物がこの戦略をとる Ex. マツ科植物では山火事が起こるまで種子を分散されせず山火事によって乾燥することにより果実が裂開し、種子を分散する。
落下時の状態
健全種子 apparent sound seed
未熟種子 immature seed
食害種子 damaged seed

林冠種子貯蔵 (canopy seed storage)


= crown seed storage and aerial seed bank (林冠貯蔵種子)
セロテニー serotiny (Lamont et al. 1991): 種子成熟直後に散布せず、翌年の種子成熟するまで林冠に種子保持

Ex. マツ科球果が数年間、枝に留まり、火災で開き種子散布する特性
Ex. Jack pine: 空中貯蔵種子 = 森林火災直後のみ鱗片開き種子散布

利点(仮説): 複合的に説明されていること多
  1. 種子残存量最大化 maximizes seed availability: 湿土壌の埋土種子生存率 > 10% → 乾燥貯蔵 = 種子残存量↑
  2. 年間変動緩和 dampens annual fluctuations: 種子不作年にも供給種子量を調節
  3. 高密度林分確保 ensures dense stands: 純林ではセロテニーにより多くの種子貯蔵可
  4. 最適種子発芽床確保 ensures optimal seed bed: 森林火災により土壌上の種子焼失し、更に土壌有機物豊富な土壌(cf. 焼畑)上に種子散布
  5. 分散後捕食者回避 satiates post-dispersal predators: 林冠は地上に比べ歩行性昆虫等低密度で捕食されにくい
  6. 風分散種子選好性 favors wind dispersal: 風分散種子は、強風時に一斉散布されると、一ヵ所に多種子が飛び、その場所が発芽に不利な場合に絶滅の恐れ → 林冠貯蓄し徐々に分散 → 様々な場所に種子分散
  7. 発芽遅延最小化 minimizes delays in germination: 埋土種子は、内性的休眠(誘発休眠・自発休眠)に負う所が大きいが、林冠貯蔵種子は乾燥による強制休眠が主となり地表落下直後に発芽が容易
  8. 土壌湿度のよいときに発芽する ensures access to soil moisture: 森林火災は乾燥期に発生多 → 火災後の種子分散は雨期に種子成長行える確率↑ → 理想的土壌湿度の時に成長できる
  9. 山火からの防御最大化 maximizes protection from fire: 火災 → 地表面埋土種子消失 → 弱いか移動の早い火災では林冠に火が達しない
= いずれにしても、火災への適応
. セロテニー serotiny、火災への成体の感受性、火災頻度、及び火災間の実生定着との関係
    火災(a)  定着可能(b)       定着不可能

    高       非セロテニー的    セロテニー的
             火災感受性        火災感受性
    低       セロテニー的      セロテニー的
             火災感受性/耐性   火災耐性

(a) 稚樹期間における火災発生率. (b) 火災間の定着可能性

豊凶 (mast seeding, masting)


多回繁殖植物が、種子生産について極端な年次変動を示すこと

豊凶のみられる樹木
ウダイカンバ Betula maximowicziana
オオバボダイジュ Tilia maximowicziana
ハリギリ Kalopanax pictus
ブナ Fagus crenata
ミズナラ Quercus mongolica var. grosseserrata
(Irie & Tsuyuzaki 2011)

資源適合仮説 resource-matching hypothesis
気象条件等により決められた、その個体の獲得した資源量に応じ種子生産量が決まる → 種子生産量と年輪成長(栄養繁殖)の間に負の相関はなくてよい
Rhus
経済仮説 economy hypothesis
繁殖器官(花・種子)を大量生産することが、様々な意味で有利
• 豊作年にはより多くの資源を繁殖に回す
• 種子生産量と年輪幅の間には負の相関があるはず

捕食者飽食説(回避説) predator satiation hypothesis
環境予測説 environmental-prediction hypothesis
風媒花説(受粉効率説) wind-pollination hypothesis
動物散布説 animal dispersal hypothesis
動物送粉説 animal pollination hypothesis

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