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(2022年9月5日更新) [ 日本語 | English ]

生物学的侵入 (biological invasion)






有珠山 / サロベツ泥炭採掘跡
1986年, 2006年の有珠山火口原. ワタスゲ・エゾカンゾウ

ある地域の生物種が他地域生物群集に侵入 → 生態的同位種間で種間競争 → 一方の種が絶滅しやすい
地球上のあらゆる地域で帰化生物が在来近縁種の希少化を引き起こしている

Ex. オーストラリア: ヨーロッパ人による真獣類もち込み → 多くの有袋類が絶滅の危機

生態系の平衡を乱すもの
安定した生態系 = 動的平衡 dynamic equivalent
  1. 帰化生物: 帰化植物 + 帰化動物 → それまでの生態系を変化させる → 生物学的侵入
    帰化植物: セイタカアワダチソウセイヨウタンポポ
    帰化動物: アメリカザリガニ、アメリカシロヒトリ、アライグマ、ミンク、マングース、ブラックバス、タイワンリス、チョウセンシマリス (古, クマネズミ、ドブネズミ)
    Ex. 北大苫小牧演習林(1999): アライグマ推定約200頭
  2. ヒトによる人工的環境変化 Ex. 環境開発、破壊、土地利用 landuse
    現代における競争: natural selection + human impact (or stress) → nature protection/conservation必要

[ 生物学的侵入 biological invasion | 侵略的外来種(特定外来種) ]
[ 帰化植物 ( 一次帰化と二次帰化 )|[ 雑草 weed ]

復元生態学 (restoration ecology)

索引

侵略的外来種 (特定外来種) (invasive alien species)


外来種
≈ 帰化種

国外外来種
国内外来種

侵略的外来種
≈ 生物学的侵入種
 「特定外来生種(または生物)」という言葉を、invasive alien speciesと対応させている本が多いようだが明らかに日本語と英語は対応していない。同様に、外来生物法(特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律)は、Invasive Alien Species Actと訳されている。しかし、環境省発行のパンフレット「侵略的外来種 生物多様性への脅威」では、invasive alien speciesは侵略的外来種と訳されている。
 自然共生系ゼミで紹介されたものでは特定外来生物となっていたり。それでも良いのかも知れないけれど、なんだかね。
特定外来生物 (植物)
外来生物法: 12種類指定
  • オオカワヂシャ (Veronica anagallis-aquatica)
  • ナガエツルノゲイトウ (Alternanthera philoxeroides)
  • ブラジルチドメグサ (Hydrocotyle ranunculoides)
  • アレチウリ (Sicyos angulatus)
  • オオフサモ (Myriophyllum aquaticum)
  • スパルティナ・アングリカ (Spartina anglica)
  • ボタンウキクサ (Pistia stratiotes)
  • アゾラ・クリスタータ (Azolla cristata)
将来、特定外来生物に指定されていいと思う種

北海道ブルーリスト (Hokkaido Blue List)


2004年作成 - 2010年改訂
4つの視点
  1. 本道に導入されているか
  2. 本道に定着できるか (越冬の可能性など)
  3. 本道に定着しているか
  4. 本道への影響等が報告されている、あるいは懸念されるか
カテゴリーA: 視点1-4の全てに該当する種 → さらにA1, A2, A3に区分

(2010年版)

植物
A1: 緊急に防除対策必要 - 該当種なし
A2: 本道の生態系等へ大きな影響 - 防除対策の必要性検討
植物: 原植生が比較的明確で学術的価値高く、保護を優先すべき地域内(原生自然環境保全地域、国立国定公園特別保護地区等)ではA2種もA1とみなす
オランダガラシ (Nasturtium officinale)
ハリエンジュ (Robinia pseudoacacia)
アカツメクサ (Trifolium pratense)
シロツメクサ (Trifolium repens)
イワミツバ (Aegopodium podagraria)
ヘラオオバコ (Plantago lanceolata)
ブタクサ (Ambrosia artemisiifolia)
アメリカオニアザミ (Cirsium vulgare)
ブタナ (Hypochaeris radicata)
フランスギク (Leucanthemum vulgare)
コウリンタンポポ (Hieracium aurantiacum)
キバナコウリンタンポポ (Hieracium pratense)
オオハンゴンソウ (Rudbeckia laciniata)
セイタカアワダチソウ (Solidago canadensis ssp. altissima)
オオアワダチソウ (Solidago gigantea)
セイヨウタンポポ (Taraxacum officinale)
キショウブ (Iris pseudacorus)
A3: 本道定着 - 生態系等への影響報告または懸念
ギンドロ (Populus alba)
アサ (Cannabis sativa)
ハイミチヤナギ (Polygonum arenastrum)
ヒメスイバ (Rumex acetosella)
ナガバギシギシ (Rumex crispus)
エゾノギシギシ (Rumex obtusifolius)
マツヨイセンノウ (Lychnis alba)
ムシトリナデシコ (Silene armeria)
ノハラツメクサ (Spergula arvensis var. arvensis)
カラフトホソバハコベ (Stellaria graminea)
コハコベ (Stellaria media)
ゴウシュウアリタソウ (Chenopodium pumilio)
アオゲイトウ (Amaranthus retroflexus)
フサジュンサイ/ハゴロモモ (Cabomba caroliniana)
セイヨウワサビ (Armoracia rusticana)
ハルザキヤマガラシ (Barbarea vulgaris)
オニハマダイコン (Cakile edentula)
カラクサナズナ/カラクサニガナ/カラクサガラシ/インチンナズナ (Coronopus didymus)
キレハイヌガラシ (Rorippa sylvestris)
ニンニクガラシ (Alliaria petiolata), garlic mustard
エゾノミツモトソウ (Potentilla norvegica)
セイヨウヤブイチゴ (Rubus armeniacus)
イシカリキイチゴ (Rubus exsul)
クロミキイチゴ (Rubus allegheniensis), black raspberry
イタチハギ (Amorpha fruticosa)
エニシダ (Cytisus scoparius)
セイヨウミヤコグサ (Lotus corniculatus var. corniculatus)
ノボリフジ (Lupinus polyphyllus)
コメツブウマゴヤシ (Medicago lupulina)
ムラサキウマゴヤシ (Medicago sativa)
シロバナシナガワハギ (Melilotus officinalis ssp. albus)
シナガワハギ (Melilotus officinalis ssp. suaveolens)
シャグマハギ (Trifolium arvense)
タチオランダゲンゲ (Trifolium hybridum)
ムラサキカタバミ (Oxalis corymbosa)
シンジュ (Ailanthus altissima)
ロイルツリフネソウ/オニツリフネソウ/ダキバツリフネソウ (Impatiens glandulifera)
キリアサ (Abutilon theophrasti)
ジャコウアオイ (Malva moschata)
アレチウリ (Sicyos angulatus)
メマツヨイグサ (Oenothera biennis)
オオマツヨイグサ (Oenothera glazioviana)
オオフサモ/ヌマフサモ (Myriophyllum aquaticum)
イヌニンジン (Aethusa cynapium)
ドクニンジン (Conium maculatum)
ノラニンジン (Daucus carota)
トゲナシムグラ/カスミムグラ (Galium mollugo)
セイヨウヒルガオ/ヒメヒルガオ (Convolvulus arvensis)
アメリカネナシカズラ/コバノアメリカネナシカズラ (Cuscuta campestris)
ワスレナグサ (Myosotis scorpioides)
ノハラムラサキ (Myosotis arvensis)
ヒレハリソウ (Symphytum officinale)
チシマオドリコソウ/イタチジソ (Galeopsis bifida)
ヒメオドリコソウ (Lamium purpureum)
チョウセンアサガオ/マンダラゲ (Datura metel)
ヨウシュチョウセンアサガオ (Datura stramonium)

シロバナチョウセンアサガオ (- f. stramonium)

ワルナスビ (Solanum carolinense)
イヌホオズキ (Solanum nigrum)
キツネノテブクロ (Digitalis purpurea)
ホソバウンラン (Linaria vulgaris)
ビロードモウズイカ (Verbascum thapsus)
セイヨウノコギリソウ (Achillea millefolium)
オオブタクサ (Ambrosia trifida)
カミツレモドキ/シロカミツレ (Anthemis cotula)
ゴボウ (Arctium lappa)
ネバリノギク (Aster novae-angliae)
ユウゼンギク (Aster novi-belgii)
アメリカセンダングサ (Bidens frondosa)
セイヨウトゲアザミ (Cirsium arvense)
ヒメムカシヨモギ (Erigeron canadensis)
オオアレチノギク (Erigeron sumatrensis)
オオキンケイギク (Coreopsis lanceolata)
ヤネタビラコ (Crepis tectorum)
ヒメジョオン (Erigeron annuus)
ハルジオン (Erigeron philadelphicus)
キクイモ (Helianthus tuberosus)
ノボロギク (Senecio vulgaris)
アカミタンポポ/キレハアカミタンポポ (Taraxacum laevigatum)
イヌカミツレ (Tripleurospermum maritimum ssp. inodorum)
オオオナモミ (Xanthium occidentale)
コカナダモ (Elodea nuttallii)
コヌカグサ (Agrostis gigantea)
ハルガヤ (Anthoxanthum odoratum)
コスズメノチャヒキ (Bromus inermis)
カモガヤ (Dactylis glomerata)
シバムギ (Elytrigia repens)
シナダレスズメガヤ (Eragrostis curvula)
オニウシノケグサ (Festuca arundinacea)
ヒロハノウシノケグサ (Festuca pratensis)
ネズミムギ (Lolium multiflorum)
ホソムギ (Lolium perenne)
ドクムギ (Lolium temulentum)
クサヨシ (Phalaris arundinacea)
オオアワガエリ (Phleum pratense)
ナガハグサ (Poa pratensis, s.l.)
オオスズメノカタビラ (Poa trivialis)
ホテイアオイ (Eichhornia crassipes)
国内外来種 (A3)
イタドリ (Polygonum cuspidatum)
ドクダミ (Houttuynia cordata)
マルバハギ (Lespedeza cyrtobotrya)
ノダフジ (Wisteria floribunda)
ヨモギ (Artemisia indica var. maximowiczii)
ヒメヨモギ (Artemisia feddei)
ヤブヨモギ (Artemisia rubripes)
スギ (Cryptomeria japonica)

帰化植物 (exotic plant)


人によって移動し、野生の状態で見出せる種 (s.l.)
完全に日本に定着し密度も高く広がり得る範囲内に広がり尽くした種 (s.s.)

Ex. Erigeron canadensis, アレチノギク, オオアレチノギク, Oxalis corymbosa, Briza minor

一時帰化 → 人為環境帰化 → 自然環境帰化
帰化植物であるための3条件
  1. 人間が他所から持ち込む (移入経路 immigration route (Primack & Kobori 1997))
    (a) 意識的な移入: 有用植物を意識的に運ぶ → 園芸と農業 (gardening and agriculture)

    Ex. アサ・イチビ, Oryza sativa・ムギ・フジバカマ・Ipomoea nil

    (b) 無意識的移入: 有用植物に混じり侵入 (随伴植物) → 偶発的な輸送 (accidental immigration)

    Ex. ヒエ・メヒシバ(イネの随伴植物)。人間の身体、貨物などに付着して移入したもの - 明治以後増大

  2. 野生の状態で見出せる
    (a) 成員帰化 adoption: 土着の在来植物群落の一員となる
    (b) 置換帰化 displacement: 在来種制限し新群集形成 →

    → 生物学的侵入 biological invasion
    在来種に対する置換帰化
    別の帰化種に対する置換帰化

  3. 外来植物であること
反論(牧野)
国境は人が決めたもので時間と共に変化 → 植物に無関係。北海道の植物が人力で本州に広がった場合、本質的には帰化植物となる(在来帰化植物)
日本は島国であるため帰化植物という言葉が使用しやすい

在来帰化区分は島国では容易だが、アメリカ大陸等では明瞭には決められない。ヨーロッパ・アジア原産植物は帰化植物といえるが、東海岸から西海岸への移入などは帰化といえるかは意見が別れる

在来種 (地方種): 輸入種、帰化種に対応する語。日本各地に従来から生育している植物で、特に育種的操作を受けない自然のままに生育する種をいう

(IUCN 2013)

同種が元々いる地域への人為的移入


遺伝的汚染: 従来出会うことのなかった近縁種同士が、人為的輸送により出会い交雑し次世代が生じること
→ 在来種の遺伝的純系失われる → 遺伝子レベルでの種の絶滅を招く現象

Ex. タイリクバラタナゴ(中国輸入) × ニッポンバラタナゴ(日本固有) → 野外交雑 → 雑種化進行

ニッポンバラタナゴは絶滅危機

Ex. バラスト水: 貨物船等が空荷で航行時、船体安定のためタンクに積み込む海水

寄港先で荷物を積む際に捨てる → 水に入っていた生物が本来の生息地ではない環境中に広がる
世界各地で移入生物である貝や魚、海藻類が繁殖し問題化
細菌蔓延や有害プランクトンによる貝毒発生 + 健康被害の可能性

絶滅危機回避には移入しかない → 野生個体群が別保護措置で自力回復するなら移入すべきでない
移入4カテゴリー
  • Re-introduction: 絶滅した場所に新たに移入する
  • Translocation: 同種個体群の生息地域に野生個体を移動させる
  • Re-enforcement/Supplementation: 同種個体群の生息地に個体を追加する
  • Conservation/Benign Introduction: 同種が過去に分布したことがない地域に新たに移入する
移入時留意点: 移入個体定着が保証され、移入個体が感染性病気等に冒されていないこと

自然個体群から一部個体を保護増殖させ、再び戻す場合も同じ留意点を適用する。感染性病原菌等も生物だから、野外で移動され、新たな増殖機会を得れば制御困難になる。生物移入・移動を行うのは、少数個体であっても大きな影響を及ぼすことを前提とし、実施者は責任をわきまえる

= モニタリング必要: 移入を行う者は、移入地の個体群の状況や環境の状況、個体を移動する理由、移入個体の状態のスクリーニングなどをクリアし、さらに遺伝的構成にも配慮するよう進めるべき

帰化率

= 帰化種種数/全種数 × 100

都市化の指標として使われたこともある
Ex. 小笠原(文化庁 1970): 89/401(維管束植物) = 帰化率22%

帰化様式


時代区分
  1. 史前帰化植物: 有史以前の人類移動に伴う帰化植物
    主に弥生時代(BC2-3C)にイネ随伴植物とし移入した植物群 ex. Polygonum longisetum, Polygonum aviculare・オオイヌタデ・スベリヒユ・イヌホオズキ・オナモミ・イヌビエ・エノコログサ・カヤツリグサ・アキノノゲシ・メナモミ
    縄文時代に大陸から移住民に伴って入った植物 Ex. ヒガンバナ
  2. 旧帰化植物: 大陸国交開始から江戸時代にかけて渡来
    Ex. Chenopodium serotinum, Rumex acetosa, ハコベ・ナズナ・タネツケバナ・Lotus corniculatusカタバミ・ノゲシ・チドメグサ・キュウリグサ・ハハコグサ・キツネアザミ・スズメノカタビラ・カラスムギ
    中世・近世 ex. レンゲソウ・アサガオ・フジバカマ
    1, 2は畑や耕作地帯を中心に生育するもの多

    中世-江戸時代を「歴史期帰化植物」と分けることもある

  3. 新帰化植物: 江戸時代末期から現代に侵入(帰化植物, s.s.)
    都会環境に適 Ex. Solidago canadensis, Erigeron canadensis, Erigeron sumatrensis, Ambrosia artemisiifolia

    E. canadensis(ヒメムカシヨモギ): 鉄道草(別名) - 明治時代に鉄道敷設とともに広がる

日本の帰化植物種数(更に史前帰化植物がある)

江戸 (ca 27) < 明治 (70) < 大正 (90) < 昭和前半 (140) < 1950 (294) < 1957 (392) < 1967 (430) < 1970 (800)
Japan
図. 確認年代ごとに渡来(したこと)が確認された外来植物種数。2006までに確認された2237種のうち年代の明確な1631種が対象 (中村 2008)

一次帰化と二次帰化

一次/二次帰化: 一次帰化植物 → 人為環境帰化植物 → 自然環境帰化植物
帰化センター: 無意識的に移入させた植物が最初に根をおろす場所

港、飛行場、税関(植物防疫場, plant protection station)、農事・園芸試験場、植物園、薬用植物試験場等。諸外国と直接間接に交渉ある場所

化生(一時仮着)帰化植物: 長く生育分布できず消滅する種。外来植物の大部分。渡来は時と場所を変え繰り返されるうちに定着機会がくることもある

生え出した外来植物が定着するための条件

植物自体の持つ遺伝的形質 - 日本の風土・気候に耐えうるかどうか
受入体制の問題 - 定着し広がっていく場所があるかどうか
"ひ弱い植物": その風土に適応した在来植物がスクラムを組み占有する場所へ外来種が入り込むことは困難 → 赤裸の埋立て地に生え出した外来植物は外には広がれず逆に在来のものが進入して外来のものを圧倒した

帰化植物増加の原因

  • 新帰化植物には欧米の草原を本拠とするもの多
  • 人は元来森野国であった日本に草原めいた環境を作り出した → 外来草本はそこに入り込む(一次帰化)
  • 戦後の日本経済高度成長期に新しい裸地が次々作り出され一次帰化した植物は二次、三次帰化できた
  • これらの植物中から先住者と肩を並べ日本に定着するものが出てきた
  • 近代の都市化した地域 = 土壌がアルカリ性-酸性土壌に適応した日本の植物を拒み外来植物の繁殖を助長

帰化植物の広がり方

帰化植物分布図と在来種の分布図の違い

在来種分布図: 産地に応じ黒点を印す。年代は問わない
帰化植物分布図: 常にある時点の状態を示し、時代の違う標本は資料にならない "映画の一齣"

種置換 (帰化 → 帰化)

オナモミ → オオオナモミ     ミミナグサ → オランダミミナグサ
ニシキソウ → コニシキソウ

優占帰化: アレロパシー物質で他種排除 → 自家阻害作用ある

親個体近くは栄養繁殖 vs 遠くでは種子繁殖

[ 植物リスト |防除]

雑草 (weed)


Def.s.l. 人には邪魔な植物(s.s.,) → 草本のみ + 木本植物(≈ 有害植物, s.l.)

コスモポリタン(広分布植物) cosmopsolitanが多い
ある地域では雑草でも、別な地域では雑草ではないこともある

Def.s.s. = 耕地雑草
表. 日本の雑草種数 (沼田 1975)
             畑地雑草     水田雑草    (共通種)
    日本     53科302種    43科191種   18科76種
    北海道       182種        115種
        野草 → 人里植物 → 雑草 → 二次作物
                ↓          ↑
                作物     → 雑草
Def.コスモポリタン(広布植物): 世界各地に定着する植物 - 雑草に多
人里植物
人の影響を受けた生息地に見られる野草ではあるが雑草ではない植物

雑草防除 (weed control)


駆除 + 予防
特に生物防除に関するEpoch
  1. 農耕成立: 同時に作物病害虫出現(=元来あった)。暫くの間は、"自然の力"、"自然の平衡"による成行き任せの時代が続いただろう
  2. 農業技術進歩と新作物導入: 安定した農業生態系の確立よりも、それとは独立した形で病害虫の被害防止手段が講じられた。抵抗性品種育成、天敵利用、化学肥料、農薬・薬剤
  3. 現在: Epoch 2で開発された工業製品の導入再検討と、「生物的総合防除」法の確立に関心 → 生物防除

生物制御 biological control

A. 天敵利用

天敵利用: ネズミ・ウサギ等の有害獣 = ネコ・イタチ・キツネ等肉食獣。ヘビ・タカ・フクロウ等肉食鳥。野鼠チブス菌等微生物。ハブ・コブラ等毒蛇: マングース。昆虫・ハダニ等害虫。ムクドリ・スズメ等の雑食or食虫性鳥。テントウムシ・クモ類等捕食虫。コバチ・ヤドリバエ・寄生性線虫等寄生虫。病原微生物。軟体動物(カタツムリ・ナメクジ): マイマイカブリ・ヤドリバエ等の天敵。線虫: 捕食性線虫・寄生菌

外来天敵: 外来天敵移入放飼効果は大きいことが多い。しかし、天敵の移入放飼が効果を上げるほとんど全ての場合、外来害虫に対する外来天敵の放飼ではないかという指摘もある(伊藤 1972)

生物農薬(天敵散布): 天敵を予め人工的に大量に飼育し、一度に大量の天敵を放飼して直ちに効果を上げることを狙う。微生物天敵では、大量培養技術も確立し今後の発展が期待される

B. 病害虫抵抗性品種及び回避栽培法

作物病害中抵抗性、栽培管理(密度・肥培管理等)、作物調整

C. 誘因法・忌避法

害虫の走性・向性を利用 → 光, 誘因物質・忌避物質, フェロモン

→ 自然誘因源との競合、誘因・忌避物質の不完全性等 → これらの方法は予測ほどの効果をあげ難い

害虫の走性・向性を利用

D. 不妊化法・遺伝的防除法

不妊化雄を多量に目的とする生態系に導入し、目的とする害虫を撲滅させる。不妊法と良く似るが繁殖あるいは生存上不利な遺伝子を自然状態に混入させその個体群の勢力を弱めるのが遺伝的防除法

E. 生物操作 biomanipulation
トップダウン制御
ボトムアップ制御(栄養塩制御)
環境整備
F. その他

光周期を変え生物の生活を乱す。無害-微害な競合種の導入(Gauzeの法則)

(大串 1974)

総合防除

農害もある密度以下のなら損害ないか防除が引き合わぬものとして許容する

= 被害を損害と考えるかどうかで変わる → 経済的被害水準: 収量・品質
→ Agroecosystem(耕地生態系・農地生態系): 機構を理解し安定化を図ることが総合防除への近道

[農薬循環]

農薬 (agrichemicals)


農薬は身近でも使われる
Ex. シロアリ防除・家庭菜園・ゴキブリ駆除・殺虫スプレー・蚊取マット・木材防腐処理・冷却塔等巡回水処理・街路樹・線路道路保全・公園除草・ゴルフ場

農薬史

5000年前 農業文化発展

神農(架空): 鋤・鍬考案 + 百草舐め食物・毒草・薬草分類 → 中国で農業の神様とし祭る
中国初王朝「夏」作る「禹」という人物は治水に成功し民衆の尊敬集めた → 帝国建設の契機
日本も農業開始? (ソバ等主)

3000年前 農薬(?)出現
2300年前 日本水稲栽培開始: 害虫・害獣認識

Ex. 猪・鹿・ネズミ等害獣、イナゴ等大型昆虫 ↔ 病害・雑草不認識
銅鐸や男根型をした石棒等による祭事・祈祷

AD600年頃 キリスト教台頭

→ ヨーロッパで害虫獣を宗教裁判にかけ断罪した記録

全生物に注がれる神の慈愛を受ける資格ないとし破門処置
生贄や魔女裁判等も害虫獣の退散目的で盛ん(18世紀頃まで)

平安時代: 日本初の農薬?
807 「古語拾遺」中に害虫(ウンカとアワヨトウが主)の記載

伊勢神宮祈祷: 虫が蝶に変化し飛び去り(アワヨトウが成虫化)、ハチに殺され喜んだ (記録)
害虫は神仏からのたたりだと祟り → 祈祷やお祭りで害防ぐ
→ 有用な天敵としてハチやヘビ(ネズミ捕食)は認識
山椒や塩等を混ぜ合わせた物をまけという記載 → 日本初の農薬? (ただし効果は全く無い) 蚊帳使用もこの頃

鎌倉時代: 肥料発見

糞尿を田にまく(関東地方) = 肥料 → 収量増加 = 関東武士力をつけ鎌倉幕府開設に寄与(説)
人糞 = 肥料 → 日本独自文化(他国に例ない) + 除草概念もこの頃形成

1600 松田内記(現、島根県在住)

「家伝殺虫散」発明(文書記録) = 記録上日本最古の農薬
トリカブトや樟脳等5種類の薬品の混合物 → ウンカや猪に効果(記録)
観察眼に長けウンカの生態等記載 → 現在のレベルで見ても正確

1685 徳川綱吉と陶山訥庵

生類憐れみの令: 農村で猪・鹿の殺生も禁じた → 実際には寛大な処置(害虫に対してはお咎めなし)
陶山訥庵(対馬生): 対馬の猪に悩む農民を救おうと猪全滅計画実行

9区画に石垣で区切り、順次その中の猪を柵等で追い込み全滅
→ 9年間で猪は全滅 (8万頭)
生類憐れみの令に反すると厳しく批判 → 役職解かれる

1697 農業全書(宮崎安貞, 福岡在住)全10巻完成

最初にして最大の農業指南書 → 農薬のことも記載
Ex. タバコの煮汁や硫黄を燃やした煙 → 効果は十分期待できる
実際にどの程度実行されたのかは不明

1732 享保大飢饉

西日本中心にウンカ大発生 → 減収 > 70% → 餓死(推定) ≥ 100万人
→ サツマイモ栽培推奨
+ 1782 天明大飢饉 + 1833 天保大飢饉 → (共に冷害とイモチ病が原因)江戸幕府体制に大影響
この頃も防除法は祈祷が主

1750頃 注油法発明

田圃に油(鯨油等)まく → 水面に油膜形成 → 虫落下すると油に搦まれ飛べず死亡
= 日本初の有効な害虫防除 (現在も油を果樹等にかけ殺虫)
江戸時代: 多くの薬品が使われた記録 → 注油法以外に有効性不明
注油法も一部地域で断片的に行われ、全国的には祈祷が主

1845 アイルランド大飢饉とアメリカ

ジャガイモ疫病ヨーロッパ全土に広がる
Ex. アイルランド(ジャガイモ主食) →

人口800万人の内100万人以上の餓死者 + 移住者 = 人口半減
この時新に大陸(アメリカ)に移住した者100万人
→ アメリカ発展の基礎

病虫害をなんとかしたい… 思い高まった事件

1873 植物検疫の始まり = ドイツで世界初の検疫法誕生

仏: 米国からブドウ樹輸入 → 新大陸固有害虫発生 → 19年後に収穫1/3
→ 世界各国で検疫法
日本: 明治維新以降、渡来害虫が侵入し大きな被害
1914, 日本: 植物検疫所発足

1913 リービッヒ・ハーバー-ボッシュ法

1840 リービッヒ(独): CO2, H2O, N, P, K重要 → 人工肥料の考え方
P, Kは鉱物から得る ↔ Nは大量に得ること困難 = 肥料は不十分な物
BASF社(独): ハーバー・ボッシュ法(アンモニア合成法)開発

→ N肥料を大量安価に得る
多化学合成農薬 → 多収穫(近代農業) = 病害虫問題顕在化

近代農薬の始まり
1700代頃 除虫菊粉利用開始

欧州: 除虫菊粉(渦巻型蚊取線香原料) - 害虫防除能判明 → 商品流通

日本明治時代

除虫菊・ニコチン等、天然物由来の物の使用開始
除虫菊は明治以降日本でも育てられ、一時は欧米に大量輸出し日本経済発展の原動力
デリスという植物根(デリス根)も用いられ始めた

1851 ワインと石灰硫黄合剤とボルドー液

フランス = ワイン生産地 → 原料のブドウは病害に弱く生産不安定
1851 グリソン(仏): 石灰と硫黄の混合物(石灰硫黄合剤)の農薬効果発見

石灰硫黄合剤: 金属腐食・悪臭 → 1954 小畑: 固形化され現在利用

1880頃 フランスでボルドー液(硫酸銅-石灰混合物)開発

ボルドー液: 毒々しい色をしブドウ盗難防止に撒く → 病気発生しない(偶然発見)

共に1900年頃に日本に導入 - 現在も使用

1800代 米国 農薬誕生

青酸や亜ヒ酸(ヒ素)や硫酸ニコチン(タバコ成分)使用開始 → 高毒性物
1900頃: 日本導入 → 現在は硫酸ニコチンが僅かに使用されるのみ

1900前後(明治-大正)日本 日本政府: 農薬技術輸入に努める

1891 除虫菊粉 → ボルドー液・青酸・ヒ酸鉛・硫酸ニコチン等輸入

諸外国で発明された主農薬は日本に導入 + 国産化着手

1917 日本初の農薬製剤工場操業開始 → 石灰硫黄合剤製造
1921 日本初の農薬合成工場(現, (株)三共)

クロルピクリン製造 → 後、主農薬は続々国産化

1924 除虫菊有効成分判明

スタウディンガー: 除虫菊殺虫有効成分をピレトリンと特定 [農薬-化学結びつく画期的研究成果]
ピレトリンを元に化学的に発展させたのが合成ピレスロイド(合ピレ)
1932 武居: デリス根有効成分がロテノンという化学物質

昭和初期: 呼称「農薬」 → 「日本農薬株式会社」誕生きっかけ

明治-大正: 「農業用薬剤」

1930代(昭和初期) 日本農村に農薬本格普及開始

(→ それまで各地で断片的使用)
野菜、果樹、茶には必要不可欠な資材とし認識され始める
→ 稲作に有効な農薬ない = 水田ない外国からの技術導入依存が原因
ヒ酸鉛、石灰硫黄剤等の販売競争激化 → 多くの農薬会社が淘汰・合併

1938 DDT = 農薬史上最も重要な発見

欧州: 絨毯や衣服の虫害防除に合成染料が有効なことは既知
→ ミュラー(Müller P, -1965, ガイギー社(現ノバルティス), スイス) (1948 ノーベル医学生理学賞)

強防虫効果化合物探索 → DDTの強殺虫活性発見
→ 研究プロジェクト編成: 農業・防疫有効性実証され実用化

[大量合成可能な有機化合物を殺虫剤として実用化した初例]
→ 近代農薬スタート

近代農薬: 効果が科学的実証可能 + 大量生産(商品)でき入手可能

ガイギー社: スイス(永世中立国) → 英米と日独の両方にDDTを売り込む

英米: 戦場でDDT使用
日本: 多くのマラリア感染者を出し、太平洋戦線敗退原因の1つ

1937-45 戦争中の日本農薬事情: 戦争拡大 → 農薬原料に事欠く

農薬配給制 → あまり出回らない(原材料の銅や硫黄等が兵器製造に不可欠) + 農村労働者出征
農業・農薬進歩停滞 (= 食料事情悪化に拍車)

1940-44 有機農薬続々誕生: → 高殺虫効果 → 先進国中心に世界へ広がる

Def. 有機農薬: 有機化学的手法で人工的に合成された農薬 → 現在の農薬の9割は有機農薬
DDTに刺激され各国で殺虫剤研究開始

1944 除草剤誕生: 作物は枯れずに雑草だけ枯れる → 夢?

現実化 = 2, 4-D (または2, 4PA) → 人力による除草時間の大幅短縮
→ 1950年代: 除草剤が本格的に普及 → 農村労力の都会への流入(工業化に貢献) + 過酷な労働からの開放(農家の健康や余暇の拡大、兼業化による現金収入の増加)

年/水稲除草必要時間(hr/10 a): 1949/51 1965/17 1975/8 1991/2

1946 DDT日本上陸

米軍は衛生状況悪化防ぐためDDTによるノミ、シラミ、蚊防除勧める

1952 稲作用農薬誕生 → 農薬が急速普及

水田イネにつく病害虫農薬退治には2つの問題
1) 有効な農薬ない

1952 イモチ病薬効高いセレサン石灰(水銀剤)
1952 ニカメイチュウ薬効高いホリドール(パラチオン) → 田植早くできる = 稲作の画期的進歩

2) 泥状の水田に入って農薬をまくのは重労働

→ 泥中に入らず、畦道からまける粉剤を開発

1957頃 農薬抵抗性・リサージェンス等の問題発生

農薬抵抗性発見 → 回避法
1) 新薬
2) ローテーション: 異種薬剤順番に使う
3) 生物農薬
リサージェンス resurgence: 殺虫剤により目的害虫減る → 別な種が繁殖し害虫化
→ 農薬での病害虫防除に限界

1961 ブラストサイジンS

米増産急務 → イモチ病を防ぐセレサン石灰という農薬が救世主とされる
この農薬は水銀を含み、毒性懸念 → 水銀含まないイモチ剤を研究
福永・見里ら: イモチ病抗生物質としてブラストサイジンS合成 → 農薬に天然抗生物質を用いた初例

1961 PCPによる魚大量死が社会問題化 ∵ PCP = 魚に高毒性

1957 除草剤PCP使用開始: ヒエ除草活性 - 5年後: 田圃過半数で使用
1962 PCP散布直後の大雨で流出 → 琵琶湖・有明海で魚大量死亡
1963 指定地区でPCP使用制限

1962 沈黙の春出版

殺虫剤DDT等が自然界で難分解なため環境に蓄積し害を招く可能性示唆 → 農薬安全性議論
安全性試験等に多大な影響

1968前後 農薬安全使用への取り組み進む

世論変化 = 戦後の農薬急速普及 → 農薬事故・事件多発 + サイレントスプリング効果
高活性低毒性新型剤発明も相次ぎ、古い農薬は姿を消す
1964 食品残留農薬の調査開始
1966 いもち剤の非水銀化申し合わせ
1967 急性毒性の高い剤の生産中止を農林省が通達
1969 水銀剤およびDDT, BHC等の塩素系殺虫剤の水田使用禁止

1971 農薬取締法大改正 (使用禁止農薬拡大)

農薬毒性に対する関心増と、自然影響等を考慮し、農薬登録時に各種毒性試験や自然界への残留試験等を義務づけた法律改正
+ 現在ではさらに多くの試験項目追加
Ex. DDT・水銀剤・BHC・245T(主力農薬)農薬使用禁止 (→ 代替新型剤発明後 – 政策的)

化学兵器
神経作用化学兵器 (Ex. サリン)と、有機リン系殺虫剤は化学構造類似、神経作用機構も類似

→ 微妙な化学構造の相違が差を産み出す (ただし転換も容易)
独軍開発化学兵器を元に殺虫剤製造研究スタート = 最初から農薬を意図製造(1940代後半)のテップ


Def. 農薬: 有害生物から作物を保護するために使用する薬剤(s.l.)
_________雑草・害虫・病原菌を防除する薬剤(s.s.)
除草剤

選択性除草剤: 作物・雑草生育時に散布し雑草のみを枯らす

Ex. MCPP: 広葉用除草剤 → ゴルフ場でも使用

非選択性除草剤: 薬剤かかった草は全て枯れる。作物ない所で使う

グリホサート(商品名: ラウンドアップ): 1980年代半導入
→ 遺伝子操作により耐性作物開発
→ 主要除草剤 (除草剤と耐性作物種子を抱き合わせ販売)
ぺラルゴン酸 pelargonic acid

殺菌剤: 植物の病気を防ぐ。病原菌は主にカビ類
殺虫剤: 害虫を防除する

Ex. 殺ダニ剤、ジノテフラン(ネオニコチノイドの一種)、ペンチオピラド

殺鼠剤: ネズミ等の害獣を防除する
その他: 植物生育調節剤(作物の背丈を低くするなど)、土壌消毒剤、等
以下の事柄を考慮し使用を決定すべき
  1. 経済的使用濃度あるいは使用方法により十分な防除効果が上がる
  2. 人間や有用動植物に悪影響を与えない

→ 結局

  1. 生物相の単純化と不安定化
  2. 殺虫剤抵抗性害虫発生 Ex. ハダニ 6-8回使用後の効果期待できない
  3. 天敵減少
  4. 人体汚染: 中毒症状・食品への農薬混入・生体濃縮
  5. 環境汚染
天然物利用(農薬) → 化学農薬に変わる物

Ex. 天然物抽出化学物質, 天敵等生物(生物農薬)利用

生物農薬 = 「天敵」散布

主に殺虫剤替わりに利用: 害虫寄生菌(BT菌)、ハチ等、あるいは害虫捕食昆虫(ダニ等)を人工増殖
病害防除、特定雑草を枯死させるものもある

利点: 化学農薬に比べ安全性高く、減農薬につながる
欠点: 高価で使用方法も難しい

ポストハーベスト農薬: 収穫後の作物に使用 ↔ プレハーベスト農薬
漢方農薬: 流行なだけで信用しない

1) 殺菌剤 bactericide
a) 非浸透性殺菌剤: 古くからある殺菌剤で、薬剤が葉上に残り付着した病原菌の酵素を阻害し予防
b) 浸透性殺菌剤: 最近の殺菌剤で、薬剤は葉・根から吸収され予防だけではなく既に植物に侵入した菌にも効果があり治療的にも効く = 菌の細胞壁を作る酵素など菌独自の酵素を阻害する物が主

2) 除草剤 herbicide

多種類
a) 成長ホルモン撹乱物質
b) 光合成阻害物質
c) 植物特異アミノ酸合成酵素阻害物質

植物種選択性を出すのは困難 → 作物・雑草の薬物取り込み量の差や作物特異的に薬物分解されることを利用し選択性を得る

3) 殺虫剤
a) 神経麻痺剤・興奮剤
b) 成長抑制剤・産卵抑制剤 (IGR)

フェロモン剤: (オス)誘引捕獲 + 大量散布によりメス位置の判別阻害(交信撹乱法)し交尾阻害

フェロモンは昆虫種により異なる = 特定種にのみ効果
効果発現に長時間必要
減農薬等で期待 (これって減農薬になるのか?)

効果判断基準
1) 残効性: 農薬効果の持続期間の長さ → [理想] 作物発芽時に散布し、収穫頃に効果切れる(困難)

家庭用殺虫剤は目の前の虫に直接かけるが、田畑では絶えず有害生物が侵入 → 毎回散布は無理

残効性は1週間-2ヶ月程度

残効性高いと散布回数減らせる ↔ 長すぎると残留し自然環境に影響

2) 選択性: 目的生物(害虫・雑草等)への効果と保護生物(作物等)への効果との比 → 高いほど良い農薬

選択性が1の農薬は農薬と言わない

散布法
濃度: 通常、殺虫剤・殺菌剤: 新剤50-200 ppm、古剤400-1000 ppmの有効成分を含む液使用

= 100-300 g/ha有効成分量
除草剤も同程度(例外 スルホニルウレア系除草剤等は50 g/haで実用化)

  1. 直播: 水田では粒剤をそのまままくのが一般的
  2. スプレー(日本で通常): 散布器・散布車使用 Ex. 粉剤・液剤
  3. 空散: ヘリコプター等による散布
  4. 箱処理: 田植え前の苗箱に処理
→ 天候で効果変化: 農薬の効果と天候には密接な関係

Ex. 散布直後に降水 → 農薬流出 = 効果低減
Ex. 散布直後に快晴 → 光分解 = 残効性減少
Ex. 気温 → 害虫・雑草の活性が変化し効果変化

農薬取締法
農業以外使用(家庭用・産業用等): 「薬事法」か「化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)」等で管理 → 農業用と区別
法的: 「農薬取締法」で管理される物 = 農薬 ↔ それ以外は「農薬」の範疇外

農薬研究開発過程


1) 開発
= 化学物質合成: 新化学物質創出。天然物質探索
研究期間: 有望化合物を見つけてから7-20年(通常10年)で商品化

成功確率: 現在、新規化合物5万個に1個の割合で成功

間接支援(予算獲得): 農薬研究費膨大(現在、1種開発に30-50億円)

試験項目増に伴い開発費も増える
売上高/研究費比率 = 6-10%

農家ニーズを掴む。共同研究先を探す
2) 効果確認
実験・大規模圃場試験
作用性: 化合物効果機構を検査
3) 安全性試験
使用禁止農薬処分方法

過去: 回収・埋立・放置 → 漏出・所在不明等の問題
2001: 国際条約でDDT等の一部農薬処分を締結 (処分方法未確定)

4) 大量生産(= 技術確立)
5) 製剤
製剤法により効果変化 → 農薬効果を最大限に引き出すよう処方を研究

通常: 高い効果 = 残効性短い, and vice versa
→ 徐放化: 散布後徐々に有効成分が出るようにして残効を伸ばすこと
混剤: 2類以上の有効成分を混ぜ合わせた農薬 → 組み合わせ次第で効果が変動することがある
有効成分を効果的に植物に付着や吸収させるのも製剤の役割

6) 書類提出 (含, 特許 – 重要)
ジェネリック農薬: 農薬開発企業が持つ特許有効期限切れ後だが、各種試験をパスした登録農薬
7) 販売
購入: JA(農協) (一般的) + 卸・小売店 + ホームセンター + インターネット

非農家でも購入可(義務: 毒物・劇物指定農薬は署名印鑑を購入時提出)

価格: 農薬種類や作物により異なる → 一般に1000-5000円/(10 a)/1回 (家庭園芸用農薬は高価)
a) 日本売上トップの農薬
稲作国 → 水田用農薬の出荷量多
2003: 3200億円出荷(1999集計, % = 水稲用37, 果樹用18, 野菜用30, 他15)
殺虫剤 > 除草剤 > 殺菌剤

使用量減少傾向 (水稲分野は減反政策や減農薬指向の影響)

殺菌剤: イモチ病防除「オリゼメート(化学名: プロペナゾール)」(明治製菓)
殺虫剤: ウンカ防除「アドマイヤー(化学名: イミダクロプリド)」(日本バイエル社)
除草剤: 少量で殆どの雑草枯らしイネに低害な「化学名: ベンスルフロン」(デュポン社)含有除草剤

他分野も含めると、果樹園や非農耕地で使われる除草剤「ラウンドアップ(化学名: グリフォセート)」(モンサント社)出荷量が多く、全分野を合わせても日本で一番売れている農薬は「ラウンドアップ」

b) 世界で一番売れている農薬
1996 ウッドマッケンジー調査: 3兆1250億円($1 = \100) [除草剤50%、殺虫剤30%、殺菌剤他20%]
2001 大きな変動なし

米国28%, 日本12% (フランス > ブラジル > ドイツ > イタリア) → 使用量増加傾向(アジア・ロシア)
売上トップ = ラウンドアップ 特に除草剤抵抗性作物(遺伝子組替大豆等)出現以来、売上大幅に伸び、全世界で4000億円程度販売
= ファインケミカル分野の巨人

農薬製造会社
世界一: シンジェンタ社(大規模合併で誕生した新会社)が売上高世界一
日本一: 住友化学(農薬分野1000億円程度の売上)
  1. 原体メーカー: 農薬の有効成分製造会社
  2. 製剤メーカー: 原体を製剤し製品製造
    原体: 農薬の有効成分
    製剤: 原体を散布しやすく、かつ高効果が発現するよう加工したもの
  3. 両方を行うメーカー
    Ex. 大手化学薬品会社農薬部門: 住化武田農薬、三共アグロ、日産化学、日本曹達
    Ex. 大手化学薬品会社から独立
    Ex. 農薬専業会社: クミアイ化学、北興化学、日本農薬
    Ex. 海外: BASF、バイエルクロップ、シンジェンタ、デュポン (日本企業より大規模)

[ 実験安全教育 ]

安全性 (safety)


農薬 → 虫菌草に生理活性(= 効果) → 基本的に毒 → 人間や自然環境に生理活性(= 毒性)
Def. 安全性 = 効果 - 毒性 → 差が大きければ安全性高
  1. 農家や農薬工場勤務者など農薬に直接触れる人への安全性
  2. 出来た作物を食べる人に対する安全性
  3. 作物に対する安全性、蚕や蜜蜂など有用生物に対する安全性
  4. 魚や鳥など自然環境に対する安全性
→ 安全基準: 農薬を使う農家が正しい使用法を守ることが、ADI等の安全性を保証する大前提

農家: 保護メガネ・ゴム手袋等の着用義務 + 使用量厳守(公共機関やJAによる指導・啓蒙)

Def. 薬害: 農薬により作物障害が出ること (天候や使用方法により発症しないこともある)
1) 毒性(発症)
  • 急性毒性: 農薬を経口・経皮・吸入等の後に短時間で現れる毒性
    毒性検査: 経口、経皮、吸入の3項目 + 刺激性(目、皮膚被れ)

    経口急性毒性: 毒物 > 劇物 > 普通物 農薬中毒死者は現在1000人/年程度 → 多くは自殺 + 誤用

    解毒: 農薬種類により解毒方法異なる → 中毒農薬調べ速やかに病院

    時間経過後に重症状出る農薬あり → 少しでも調子が悪いと感じたら必ず診察

  • 亜急性毒性: 連続摂取で蓄積され急性毒性を発現する濃度に達し発生(通常数日-数カ月程度)
    毒性検査: 急性毒性と同 → 重要なのは、農薬蓄積性

    亜急性毒性発現するトータル摂取量と急性毒性発現量に差がない物は強蓄積性が疑われ農薬登録取得困難

  • 慢性毒性: 亜急性毒性示さない量でも、さらに長期間摂取で出る毒性
    毒性検査: 各種内臓・器官への障害 Ex. 普通、ラット2年間とイヌ1年間の両方実施
  • 催奇形性: 化学物質摂取により新生児に奇形が出る Ex. サリドマイド
    検査: ラットとウサギを用い妊娠中に様々なタイミングで摂取

    [日本モンキーセンター飼育の猿山で奇形児出産多発]
    → 農薬との因果関係不明

    近親相姦 + 自然界よりも弱勢個体でも子孫を残せる

  • 繁殖毒性: 農薬摂取親から生まれた子に健康障害が出ること
    検査: 3世代に渡りラットに摂取 → 各世代への影響を解剖等で検査
  • 発癌性: 摂取によりガンが誘発される性質(毒性)
    検査: 農薬ではラットとマウスに一生涯(1.5-2年)摂取させガン発症検査

    日本: 急性・慢性毒性示さない範囲で最高濃度で発癌性を認めれば農薬不認可

  • 変異原性: 染色体が農薬により異常 → 遺伝異常 Ex. 発癌性・催奇形性
    検査: 微生物染色体異常検査 + ラット試験(小核試験)

    変異原性 ≠ 発癌性

  • 複合毒性: 複数類の農薬により複合的に作用し毒性を発現
    → 全農薬での試験は経済的に無理
    農薬効果が確認されたものは特定農薬指定受ければ農薬として使用可(現在、食酢・重曹が指定)
2) 対処・問題
  1. 残留農薬除去
    「洗う」で2-8割程度、「煮炊きする」で更に2-8割の残留農薬減らせる
    → 実験的に農薬残留作物で行われ、市販作物は残留農薬レベルは実験より数段低く洗浄効果は低い
    神経質な人: 野菜を洗剤で洗う → 逆効果 (栄養素失われ洗剤が残留)
  2. ADI (生涯、毎日摂取し続けても健康被害が出ないであろう摂取量), mg/kg [体重1 kgあたりのmg]
    ADI = 最大無作用量 × 安全係数

    最大無作用量: 動物実験 → 健康障害全くでない最大摂取量
    安全係数 = 1/100 → 動物と人間との身体の差を考慮した係数

  3. アトピー(アレルギー)との関連 → 未詳
    原因物質: 人により様々だが、花粉・草汁等植物性物質、ダニ等動物性物質、化学物質(農薬)等がある
  4. 生物濃縮 Ex. DDT使用禁止
  5. 環境ホルモン(未詳): 農薬の可能性指摘 → 繁殖毒性試験(不十分)
    67農薬 = 監視すべき物質(SPEED98)指定(環境省) → 追試の結果問題なし = SPEED98消滅
環境保全型農業: 環境への負荷がない(低い)農業

理想: 無農薬・無化学肥料農業 ↔ 現実: 技術的困難性・収量減・高コスト
無農薬・無化学肥料 ≠ 環境保全型農業

安全性

Ex. 1: ダイオキシン(高毒性) → 検出 = 使用禁止

除草剤「2, 4, 5T」や「PCP」にはダイオキシン類含有
土壌殺菌剤である「PCNB」に微量(13 ppb)のダイオキシン含有

Ex. 2: 環境蓄積 (DDTやBHCが環境に蓄積し問題を引き起こしたことは有名)

→ 自然界分解試験や、亜急性・慢性等の長期毒性試験の義務化
連年使用農薬は湖沼等で年中検出 - 主原因: 新たな農薬流入 ×蓄積

Ex. シロアリ駆除薬剤 = 有機リン系(低価格, 異臭有害) + 新型薬剤(高価)
人間以外の安全性: 高毒性認められても農薬使用は可 → 使用時規制
  • 魚介類: 魚毒性試験: 農薬原体を一定濃度とした水槽にコイ(5-10 cm程度)を48時間飼育し異常検査
    水田の多い日本では特に重視
    5段階区分: [弱] A, B, Bs, C, D [強]
    Bs以下は水田使用要注意、C以下は実質使用不可(畑作はC使用可)
  • 甲殻類: 未詳。一部の殺虫剤は甲殻類に強い影響を与えることが明らか

    益虫(天敵) 益虫
    Ex. クモ・テントウムシ(害虫捕食 = 駆除)、ミツバチ、カイコ

    害虫駆除効果大 → 害虫活動抑制主要因となる場合もある
    [理想] 益虫に毒性弱く、害虫だけに効く殺虫剤 → 存在しえない
    [現実] 有機リン剤・合成ピレスロイド剤は、益虫にも効く → 益虫にかからない散布法等工夫
  • 土壌: 現行農薬: 分解性 = 低残留性 → 分解物が土壌残留する可能性 Ex. 重金属含有農薬

    農薬 → 土壌微生物死滅 → 土が痩せ作物成育悪影響 + 土壌流亡
    ※ 土壌微生物殺す土壌消毒剤使用時

    後作: 作物への薬害だけではなく、次の田畑使用時(後作)に薬害が出る
  • 地下水: 農薬は土壌表層に吸着され分解されるものが多いので、地下水まで到達するもの少ない

    一部の農薬は地下水で検出 + 地下水中の稀少生物減少等の報告
    日本: 主に河川水を飲用 ↔ 欧米: 地下水利用多 = 問題に敏感

情報公開
遅れている(企業秘密が一因) = 農薬製剤成分や製造方法等は非公開

日本農薬学会誌(年4冊): 新薬の安全性試験データ等が掲載される
インターネット: メーカー・行政(農水省)

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